第17話 魔法の練習2


 冒険者ギルドから、ゲッツから差し押さえた金が渡される。装備なども売り払って換金した額だとか。

 3人分合わせても銀貨60枚ほどにしかならなかったそう。

 元々、私を殺して奪った金は、全て飲み食いに使い果たしたとか。

 大した額ではなかったらしい。

 猫の餌代の足しにはなるだろう。

 今度は無事、騎士団に引き渡されたゲッツたち。

 どんな処罰になるかは知らないが、数年は自由を剥奪されるのが普通らしい。

 いわゆる奴隷として労働に勤しむ運命だとか。

 刑期を終える頃まで、この町に居るつもりはない。

 もっともその頃には、もっと魔法を覚えて身を守れるようになっていると思う。

 再び、路地裏で猫を撫でながら、呪文を唱える日に戻った。

 一週間ほど、経っても進展がないので、リリシャンのところへ相談しに行った。

 ヒントでも貰えないだろうかと、思って。


「テイムは、影をもっと良く見ないとダメよ、操るのは影なのよ? 本体に気を取られ過ぎなんしまゃないの? それより、サーヴァントの練習をはじめなさい、サーヴァントを覚える方が早く出来るんじゃないから? 」


 テイムのヒントを聞きに行き、ダークサーヴァントの講義を受けて来た。

 過去の高名な剣士なり、弓士なりの影を呼び出して、戦わせる魔法だと言う。

 武器は用意してやる必要があるが、その武器を使って、勝手に戦ってくれるらしい。

 いつか森の中で見た、宙に浮いてリフェル達と戦った剣は、どうやらダークサーヴァントの魔法だと直感した。

 あれが出来たら、便利だと思う。

 魔法の練習の前に誰の影を呼び出したいのか、本を読むか人に聞くなりして調べる必要があると教えられた。

 テイムは、影をもっとより観察すれば、気付く事がある、と言う。

 その2つが教えられる魔法の全てだともリリシャンは言っていた。

 

 因みに上級魔法について、この魔導書には何も書かれてない。

 中級の2つの魔法を覚えたら、上級魔法について、少しだけ教えてくれると言っていたリリシャンは、自らは使えないらしい。

 まずはサーヴァントとテイムの習得が先だ。


 午前中は路地裏で猫のところへ行き、夕方、冒険者ギルドでミリンガを待った。

 魔物の素材の換金に来るだろうから。


「ソルム、どうした? 元気そうね…… 」


 ミリンガは、元気そうには見えなかった。

 左手を、かばっているようで、動作が変だ。

 聞くと、魔物にやられてポーションで傷を直したが、肘が痛むのだとか。

 もっと高いポーションを買うか、教会に行って治して貰うかするしかないないらしい。

 けれど、そうしないのは、きっと金銭的な理由なのだろう。

 ハッキリと理由を言わないのに、こっちからズケズケと聞くわけにはいかない。


「高名な剣士? 変な事を聞くのね、 以前のあなたなら、あたしより詳しかったはずだけど? 」


 残念ながら、本人の記憶は知らない。

 ソルムは過去のゲレンザ族の剣士に憧れて剣を振っていたとミリンガから聞いた。

 片手剣を2本遣いして、華麗な技を持つ剣士の名は "ホルアーク" と言った。

 ゲレンザ族特有の小さな体格の剣士は、目にも止まらぬ早業で、並居る他の剣士を手玉に取る腕前だったとか。

 私は某国の雑技団の演舞みたいなものかと想像した。

 クルクルと回り、2本の剣の連撃を決める動きはまるでカンフー映画のよう。

 次の日の午後、武器屋で片手剣を2本買って、町の外れでダークサーヴァントの練習をはじめる。

 

「闇よ……」


 意外や意外、ダークサーヴァントは一発で出来た。

 私の他には同じような体格の影がもう一つ現れた。

 2本の剣の鞘を持って柄を向けると、スルリと剣は抜かれ、宙に浮いた。

 地面を見れば影がその剣を握っているのが分かる。

 影は型なのか演舞を踊るようにその場で剣を振った。

 彼がゲレンザ族の剣士ホルアークなのかは、分からない。

 けれど、想像通りの凄腕の剣士なのは間違いなさそうだ。


「戻れ 」


 魔法を止めると、バタッと剣が地面に落ちた。

 もちろん、影も消えてなくなっている。

 嬉しくて頬が緩む。

 護衛が一人増えたようなものだ。

 ちょっと考えただけで、この魔法はかなり有効なのが分かる。

 あの森の中で見た追手は、この魔法を使って弓士と剣士を呼び寄せたのだ。

 種が分かれば、恐怖も多少は薄らぐと言うものだ。

 事あるごとに周りの人に過去の英雄や偉人の話を聞いて、より強い影を呼び出せるようにすると良いと思った。

 

 そして、翌日も猫のいる路地裏へと向かう。

 しかし、今日の猫は、ちょっと違う気がする。


「にゃ~ご、にゃ~ご 」


「えっと、誰かな? 」


「にゃ~ご、にゃ~ご…… お腹空いた…… にゃ~ご…… 」


 どう見ても猫じゃなくて、猫耳の獣人。

 猫に混じって鳴いて餌をねだった。

 背は私と、同じ位。

 たぶん、子供。

 服は、お世辞にもキレイとは言えない。

 ドブ色のワンピースはヨレヨレのシワシワだ。


「奴隷の子? 」


 見れば裸足だし、こんな格好をしているのは奴隷しかいないだろう。

 "にゃ……" 女の子は黙り込んでしまった。


「とーさまもかーさまも、連れてかれて、奴隷になっちゃった…… 」


「じゃ、君は? 奴隷じゃないの? 」


「ピコッタ、逃げたから奴隷じゃないの! 」


 そこだけは声を強めて言う。


「そう、なんだ…… 」


 気押されてそんな返事しかできなかった。

 獣人の女の子はピコッタと言った。

 腹は、かなりへっていたようで、ぐうぐう鳴く腹の虫に負けて、屋台で串焼きを買い与えたら、6本も食べた。

 それ以降、付き纏われている。

 どうやら、私をいいトコの子だと勘違いしている節がある。

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