第16話 魔法の練習
ダークテイムは、なかなか成功しなかった。
と言うか、体のどこの魔力の流れを意識したらいいのか、分からなかった。
毎日、餌を持って猫のところへ行くうちに、猫も覚えてきたようで、姿を見ると寄ってくるようになった。
ーーーニャー
猫は
森の魔物はこうはいかないだろうけど。
そんな路地裏の道端で猫に囲まれている時だった。
ーーーガンッ!
いきなり、後頭部に衝撃が。
気がつくと、暗い小屋の中のような所に転がされていた。
お決まりの、手足は縛られ、口には猿轡を嵌められた格好で。
影が動いた。
誰かが、近くにいた。
「ソルム、この死に損ないが、随分と舐めた真似してくれたもんだな? 」
「………。」
ーーードスン!
いきなり、腹を蹴られた。
痛くて涙が浮かんでくる。
きっと、ゲッツとか言う男だろう。
「金は何処にあんだ? まだ隠し持ってんだろ? 噂じゃ、魔導書買って魔法の練習はじめたって聞いたぞ? 偉いご身分になったもんだな、 あ? 」
ーーードスン!
また腹を蹴られる。
「金、あんだろ? 額によっちゃあ、見逃してやってもいいだぜ? 」
いや、見逃す気なんてあるはずがない。
一度は殺しをした奴だ。
二度目ともなれば、戸惑いも無いに決まってる。
「らりほ……」
猿轡のせいで呪文は唱えられない。
別に声にしなくても、魔法は発動するはずだ。
リリシャンがそう言っていた。
ヌルっと、体が沈んだ。
ダークウォークが発動したようだ。
が、縛られた手足は自由にはならない。
闇の中では手足を動かせそうな気がしない。
しかし、移動は出来た。
思った方に体が滑るように進んで行く。
闇魔法使いを、こんな闇に溢れた小屋に連れ込む気が知れない。
小屋は町の端の貧民地区にある廃屋のようだ。
離れた所で外に出る。
人目がないのを確認して、一瞬だけ体をスライムに戻した。
服は着直さないといけないものの、手足も口も自由になった。
「何処行きやがったー!」
慌てて小屋から飛び出し来る男達。
3人も居たとは知らなかった。
こっそり、物陰から覗いて魔法で対抗する。
「闇よ…… 」
まずはバインドで動きを封じる。
影から黒い腕が何本も伸びて本人の体を掴ゆだ。
手足どころか首も動かせない。
と、ここで姿を現すほど、おめでたくはない。
指弾とか指で何かを飛ばしてくるかもしれないし。
ダークボールを出す。
ダークボールは何も直線的に飛ばすだけが能ではなくて、獲物を狙うコウモリのように、どこまでもねちっこく追い駆けて行くように出来るのだとリリシャンから聞いている。
人族には真似出来ない魔族だけの魔法の使い方だと、教えて貰った。
いちおう、対価分位は教えてくれる気らしいので、有り難い。
物陰からボールを放つと、大きくて弧を描いてボールは男の腹に直撃した。
これはいい。
3人共に腹を蹴られた回数と同じ数のボールを腹に叩きこんだ。
「おげえぇぇ…… 」
吐いてる者もいた。
物陰から出た私を、ゲッツは苦悶の表情をしながらも、睨んでくる。
「ゲッツですよね? 」
「ああ? ふざけた物の言い方してんじゃねえよ、このクソが……」
と、私は、閃いた。
ゲッツの腰にある短剣を取り出すと、男達の顔色が変わる。
このタイミングで刃物を手に取れば、それはそれは、怖ろしいだろう。
躊躇いなく、ゲッツの手のひらにそれを突き刺した。
「舐めた真似しやがって! この野郎! 」
口だけは威勢がいい。
血の滴る彼の手の上に、私は手をかざした。
ダークヒールの練習をはじめる。
腕に集中して魔力を巡らした。
「闇よ、その者を癒せ…… 」
まあ、いつも通り、初めからうまくはいかないけどね、残念ながら。
指を伝ってポトポトと血が滴り、地面に落ちていく。
「なに、ふざけてんだ! さっさと殺せばいいだろ! 」
うるさく喚くが、相手にしない。
4度目で、傷口に変化があった。
ジュワーと音がして、ブチブチと泡立ち、黒い煙まで出てきた。
まるで強酸でもかけたかのように。
"ぐああっ! 何しやがる!"
痛いのかゲッツは激しく体を揺すって抵抗した。
バインドから逃れるには程遠かったが。
「へぇ…… こんなになるんだ…… 」
泡と煙が納まると、緑と紫の混じった毒々しい液体が残った。
体から出てはいけない色をしている。
それを拭き取ると傷口は、嘘のように消えてなくなっていた。
「やった! 成功! 」
小躍りして喜んだ。
ぐったりして訳が分かってなさそうなゲッツ。
その後も残り2人にも同じように練習に付き合って貰った。
足でも肩でもダークヒールは治癒効果があった。
何度見ても傷口が治っていくようには見えないが、結果として治っているのだから効果は間違いない。
ぐったりする3人を置いて、近くの屋台のおばちゃんに罪人を捕まえたと、冒険者ギルドまで知らせて来て欲しいと銅貨を握らせた。
どうやら、顔見知りの少年を走らせたようだ。
しばらくして、ギルドの職員と冒険者の男女が駆けつけた。
ゲッツと仲間2人だと確認して、引き渡す。
ぐったりしてる理由を聞いてくるほど野暮ではなかった。
こっちは一度殺されてるのだから、魔法の練習台になるくらい、当然だと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。