第15話 中級魔法2
「お館様、紹介状を携えてきた者を、連れてきました 」
メイドさんのあとについて、屋敷の中へ入った。
そこは、狭い部屋だ。
右にキッチン、左がダイニング。
4人掛けのテーブルには黒の礼服みたいなスカート姿の女の子が、ちょこんと座っていた。
ティーセットが出ている。
お茶を楽しんでいたような感じを受けた。
「これ、本当なの? 」
ピラピラと紹介状を手に振って女の子は聞いていた。
「はい…… 」
どう答えて良いものか、分からないので、短く返事だけをした。
「頭が高いです…… 」
メイドさんが私の脇をつついて、小声で言ってくる。慌ててお辞儀のように頭を下げる。
「中級闇魔法の指導ねぇ…… 面倒だけど、仕方ないか…… ルリャーニ、集金よ、すぐ行きなさい 」
「御意に…… この者は如何致しますか? 」
「いいわよ、坊や、何が出来ないの? 」
「ダークウォークと、ダークテイム、ダークサーヴァント、ダークヒールです…… 」
「あー、え〜と、 いいわ、ここ、座りなさい 」
女の子に勧められるままに、椅子によじ登る。
メイドさんは、すぐに退室した。
集金に向かったのだと思う。
女の子も足は床に届かなくてぶらぶらさせている。
私も大人サイズの椅子に合う体格はしていないので、椅子に腰を下ろすと同じようになる。
「どの魔導書を見たの? 」
収納から魔導書を出して、開いた。
最初のページに著者の名前が記されている。
「ルイジャンスーヤと言う人のですね 」
「あ〜、 人族の魔導書だから、そんな出鱈目かいてあるのね、 それ、全部出来る者がいたら、会ってみたいものだわね…… 」
「え…… 」
「お前、魔族? 名前は? 子供じゃなさそうよね? 」
「えっと、魔族です、ゲレンザ族のソルムです 」
「ああ、ゲレンザ族…… あたしはリリシャン・モヒエル、高貴なるヴァンパイアの貴族よ 」
「宜しくお願いします…… 」
ヴァンパイアなんて、本当に居るんだ。
黒髪の灰色の瞳は西洋人の顔立ちだ。
大きな屋敷に住んでる位だから、貴族だと言われても違和感はない。
「こっちも仕事だからね、 教えるぐらいはしてあげるわよ、出来る、出来ないはお前の勝手だからね? いいわね? 」
念を押されても困る。
それ、教えるとは言わないような気がするけど。出来るようになるまで教えてくれる訳ではないらしい。
「ダークヒールなんて、そもそもヴァンパイアには必要ないじゃない? やったこともないものは、教えられないのよね…… 」
「ヒールは練習する相手も居なくて…… 」
「まあ、そうね、でしょうね、教会にでも行ったら、やらせてくれるんじゃない? あいつら、魔族を目の敵にするから、追い出されるのがオチでしょうけど…… 」
リリシャンは、思っていたより気難しくなくて、話も普通にできた。
見た目と年齢が違うのは、私と同じらしい。
そのうち、メイドさんが戻ってきた。
リリシャンと頷き合っていたので、集金は完了したのだろう。
ダークテイムは、高度な意識を持たない魔物などをテイムする魔法だと、教えてくれた。
その辺にいる犬猫で練習すればいいと言う。
犬猫で、成功したら、森にでも行って魔物でやればいいそうだ。
森でやる時は屋敷の人がついて来てくれるというので、その時は屋敷に来いと言われた。
毎日、懇切丁寧に指導してくれると期待はしてなかったが、練習は自分でやって、結果が出たら、言いに行く通信講座のようなシステムとは思わなかった。
翌日、まずは路地裏に行って猫探しに取り掛かる。
地域猫なのか、餌を貰えると思って近づいてくる猫も少なくない。
人を警戒する野良猫とは明らかに違う。
ゆっくり手をのばして撫でてやれば、逃げたりはしなかった。
「闇よ…… 」
ダークテイムをかけるも、猫は何も変わらない態度のまま。
"座れ" と命じても知らん顔だ。
かかってないのは間違いなさそう。
その後も何匹か試してみるも、結果は同じ。
背中を撫でながら、掛けてみたものの、変わりなし。
気を取り直して、ダークウォークの練習に移る。
ダークウォークは、出来るのは限られた者しかないないそうで、出来なくても嘆くものではないと、言われていた。
呪文を唱え、足元を見るも、影に入って行くような事は起こらない。
成功すれば、まるで川に飛び込むようにするりと、体が影に沈んで行くと聞いた。
影の中は驚くほど早く移動出来るのだそうで、この魔法が使えるだけで、仕事には困らないとリリシャンは言っていた。
何度かやってみるも、安定の進展なし。
何がいけないのか、何か足りないのか。
まるで分からない。
初めてダークボールを放てた時は腕にドクンドクンと魔力の脈打つ流れを感じたけれど、今度はどこに感じるとかあるのだろうか。
ダークウォークは足かなと、足に意識を集中してみる。
意識すれば、魔力の流れを感じる事はできる。
「闇よ、その懐に我を迎え入れよ ……お!」
ヌルっと足が沈みはじめた。
あれよあれよと言う間に影の中に体が全て沈んでしまう。
無事、影の中に入れた。影が大きな窓のように外の景色が見える。
歩いて進もうと思うと体が勝手に横滑りしはじめた。
歩くよりよっぽど早い。
建物の影が、切れたところで行き止まりとなった。
外の景色に人影はないのを確認して、影から出ようと思うだけで、ヌルリと体が影の外へと出た。
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