第14話 中級魔法


 中級と記された魔法はどれも簡単そうなものではなかった。

 初級のダークフレイムとダークウォークも出来てないのに中級に進むのもどうかと思うけれど、ダークヒールは是非とも使えるようになりたいと思っていた。

 治癒魔法は光魔法の独擅場なのは私も知っている。

 教会が治癒魔法を、薬屋ではポーションを、それぞれ専売特許のようにしている。

 闇魔法に治癒効果のあるものが存在するとは知らなかった。

 使ってみたいものの、実際に試す場は無い。

 3人のうち誰かが都合良く怪我でもしてくれたら嬉しいが、やってみて駄目でしたでは、洒落にならない。

 呪文だけ覚えておけば、いざという時に役立つかもしれない。


 数日は、部屋と森の往復で過ぎていった。

 ゲッツのことなど、忘れてしまいそうになるほど順調な毎日。

 相変わらずアベさんとウルさんは、打解けてはくれない。

 唯一、ミリンガだけが、話しかけてくれていた。

 一週間(十日)ほど経つと、仮の身分証は本来の身分証と交換してくれた。

 どうやら、やっと本人と認められたらしい。

 合わせてミリンガ達の護衛の仕事も終了となった。

 ゲッツが逃走して危険だと思うが、護衛の名を借りた私の監視役だったのではないかと、後で考えて思った。


 と言う訳で、今、私は、宿屋に1人部屋を借りて、そこにいた。

 ミリンガ達とは違う宿屋。

 この町はダーベビルの町だと、分かった。

 ミリンガ達の前では、怪しまれるといけないと思い、迂闊な事は何も言わないようにしていたから。

 あちらも暗に監視していたように、こちらも警戒は忘れてなかった。

 腹の探り合いのような事はなかったから、気の抜けない関係にならなくて良かった。


 中級魔法は、詳しい解説がないと使えそうにない。

 治癒魔法も、相手がいなければ、試せない。

 ひとりでもダークフレイムは、出来るようになった。 

 ダークウォークもまだだ。

 ボール、ランス、バインド、ミスト、フレイムが、今、私が使える魔法の全てだ。

 これで十分な気もするけど、もっとあるのなら、使いたくなるのが人情というもの。

 少し勿体無い気もするが、魔法屋の扉を叩いた。


「いらっしゃい…… 」


 黒いローブの怪しい受け付けが変わらずいた。


「あの…… 」


「魔法の指導かい? 」


「あ、それです 」


「そうかい、そうかい、悪いことは言わんよ、初めが肝心って言うだろう? 」


「やっぱり、中級とかは、全然、分からなくて…… 」


「ん、 ……中級かい? 初級は出来ちまったのかい? 」


「ええ、まあ…… 」


「中級っちゃあ、中級闇魔法であってるかい? 」


「はい、そうですね…… 」


 上を向くと皺だらけの顔が露わになった。

 しかも難しい顔をするものだから、見た目は正に梅干しのよう。


「リリシャンしかおらんからのぅ…… いや、リリシャンでは、やはり…… けど、リリシャン以外となると…… 」


 独り言のように何度も "リリシャン" と繰返す老婆。


「ひと月金貨2枚になるがの、滅多に指導を仰げるお方ではないゆえ、 安い位だと喜ぶべきところだがね…… 」


 高いと言われる前に予防線を張られてしまった。

 月に金貨1枚と聞いていたのに……。

 中級闇魔法を教えられる人は他には居ないとかで、紹介状を書いて貰い、支払いと交換でそれを受け取った。

 簡単な地図も添えてある。

 "リリシャン・モヒエル" と言う人物が指導してくれると言う建物を目指して、地図の通り進んだ。


「こんにちは 」


「……。」


 その建物は、広い敷地に塀が回してあり、門の前には、無骨な体格を無理矢理押し込んだような、白シャツに黒のベストと黒ズボンの男が立っていた。

 声をかけても、ジロリと一瞥をくれるだけで、こたえない。


「あの……、リリシャン・モヒエルさんは、こちらに…… あ……… 」


 ぐいと首を掴まれ、持ち上げられた。


「お館様に何用だ? 」


「魔法屋から、紹介されて…… 」


 話ずらいが、声は出たので、説明する。

 手に持った地図と紹介状を掲げて見せる。

 手を放されて、ドン、と地面に落ちた。

 紹介状は男の手にある。


「ここで、待ってろ…… 」


 男はそう言い残して、門の向こう側へと消えてしまった。

 少しして片手が出てきてクイクイと、手招きする。

 空いた門の間に体を滑り込ませると、ガダンと、男が門を閉める音が響いた。

 ご丁寧にカンヌキをしてから、案内される。

 立派な前庭だ。

 丸や角をつけて刈り込まれた庭木が道の左右を飾っている。

 御屋敷は、奥の方に見えた。

 平屋で横に長い御屋敷のよう。

 防犯対策なのか、8の字を描くように道は蛇行していた。

 天井スレスレまである大きな扉が設えてある玄関前まで辿り着いた。

 その脇には使用人が通るようなやや小さめの扉もあった。

 ガチャリと開いた使用人用の扉から、メイド服を着た女の人が、現れる。


「魔法屋の紹介状を持ってきたのはお前ですか?」


「はい、そうです 」


「名前は? 」


「ソルムと言います 」


「宜しい、ではソルム、良く聞きなさい、お館様は高貴なお方です、お前は失礼のないよう振る舞いには注意するのです、 分かりましたか? 」


「あ、はい…… 」


 これでは、どちらが客なのか分からなくなる。

 指導して貰う立場てはあるが、こちらはちゃんと対価を払っているのだから、そこは考慮して欲しいものだ。

 怒らせたら、帰れと言われないか不安を覚えるが、会ってみないことには何も言えない。

 メイドさんに合わせて失礼のないよう心がけるしかないと思った。

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