第13話 初級魔法
夜中、ミシミシと、廊下を歩く音がする。
目が覚めてしまうと、再び寝るのは難しい。
部屋には私の他に3人の冒険者がいるのだから、何も慌てる必要はない。
そもそも人の姿をしていても、私を殺すには人と同じようにしても無駄だから。
頭を切り落としても死ぬことは、きっと無い。
核は四肢のどれにでも好きに動かせる。
頭に手足を切り落として、更に胴体の何処かにある核を正確に攻撃されるとは思えない。
逆を言えば、投げナイフでも核を狙われたらイチコロと言う矛盾をはらんでは、いるが。
怖くないが、とても怖い。
おそろしくて震えるようなことは無いけど。
寝られないのは怖いからかと思ったり。
廊下を歩く足音は、バタンと扉を開けしめする音と共に消えた。
誰かトイレにでも行ったらしい。
真っ暗な部屋のなか、独り天井を見ながら朝を待つ。
闇は本当なら私の力になってくれるはず。
その力は今はまだ使えない。
ーーー闇よ……
片手を上げて天井に向ける。
声には出さないが、闇に語りかけた。
何も見えはしない。
けれど、きっと反応してくれてるはず。
闇に囲まれているのに、それを使えない闇魔法使いとは情けない。
見えないながらも、ドクン、ドクンと上げた腕に巡る魔力を感じていた。
魔導書のはじめに、体内を巡る魔力の流れを感じるとあったが、何の役にもたっていない気がする。
「闇よ……」
夜が明けたらしく、窓の戸板の隙間から薄明かりがさしはじめる。
上げた手の先に黒い塊が浮いているのが、見えた。
「あ…… 」
見てる間にそれは、霧散してしまう。
間違いなく、ダークボールが現れた。
「闇よ……」
呪文を唱えはじめると、手の先にそれは再び現れた。
今までとは違い、腕を巡る魔力を、確かに感じられる。
何かしらスイッチでも入ったかのような。
何度やってもダークボールは出せるようになった。
戸板を開いて外に向かいダークボールを放ってみる。
ユルユルと黒い球がドライアイスなような黒い尾を引いて飛んで行く。
嬉しくて夢中になって、何度も繰り返す。
「ソルム、それって、魔法だよね? 」
ミリンガの声に振り向くと、3人ともいつの間にか起きていたらしい。
全然気づかなかった。
「そうですね…… やっと、出来るようになりました 」
「凄いじゃないかい…… 」
言葉とは裏腹に微妙な顔をするミリンガ。
はじめから彼女は魔法に関しては、賛成してなかった。
ゲッツの件もあり、今日は森へ一緒に来るよう言われる。
森も危なそうな気がするけど、部屋に一人でいるのもどうかと思う。
冒険者3人がそばにいれば、たいがいは大丈夫か。
朝食の後、4人で宿屋を出た。
ギルドに寄ってから、森へと向かう。
森は、まあ、控えめに言っても懐かしい。
角を生やした犬の魔物は、フォレストウルフと呼ぶらしい。
角付きウサギはホーンラビット。
まあ、馴染のある魔物ばかりが出て来る。
冒険者の3人は、そんな事はお構いなしに淡々と始末していく。
死骸は解体して、角や牙、魔石などを回収し、肉や革など換金出来る物は全て持ち帰るらしい。
なので昼前に一度、町へと戻った。
全ては解体しないで、血抜きして内蔵を外した死骸は、肉屋に直接売るそう。
肉屋と言ってもバラ肉やスライス肉などが並ぶショーケースなどあるはずもなく、ただ、カウンター越しに、強面の男が腕組みをして睨みをきかせているだけだった。
「これ、頼むわ! 」
「おう! ミリンガ、今日も早いな? 」
「もたもたしてたら、日が暮れちまうわよ…… 」
ミリンガはホーンラビットを、アベさんとウルさんが、担いでいだフォレストウルフを渡す。
支払いと毛皮の受取は夕方、一緒に済ませると言う。
昼の軽食代わりに屋台で簡単な物を買って、食べながら森へと戻る。
いつにも増して今日は、魔物を多く見つけられて、しかも、いつもより簡単に倒せたそう。
私は、気配がなんとなく分かるし、ダークバインドで魔物を押さえつけていたのは、内緒にした。
眩しい太陽が照りつける下、森の中は影で溢れていた。
ダークボールが出来るようになると、他の魔法も試したくなった。
いきなり魔物と対峙して魔物て倒せるとは思ってない。
バインドやミストで魔物の邪魔する事から試してみて、それは実際に効果があった。
腕にドクンと魔力の流れを感じながら、何気なく手のひらだけを魔物のいる方向に向けて呪文を詠唱すれば、魔法は発動した。
もう、使える。
なかなか発動しなかった魔法は、もう自由に出来ると思ったけれど、ダークウォークだけは出来なかった。
早い時間に街へ戻り、部屋に帰って魔導書を捲った。
初級から中級へと読み進めると、更に便利で難しそうな魔法が紹介されていた。
★ダークテイム
△闇よ、従いし主たる者を意のままに操れ
★ダークサーヴァント
△闇よ、数多の英霊たちより彼の者を呼び寄せよ、
★ダークヒール
△闇よ、その者の傷を癒せ
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