第12話 魔導書
"魔力を操る為の心得"
そう題して、体内の魔力を循環させ、制御する方法が記されていた。
座禅のように床に腰を下ろす。
目を閉じて、体内の魔力の流れに傾注するとある。
具体的に何も書かれてないので細かいことは分からない。
毎日、これを行うと、魔力の扱いがし易くなると言う。すなわち、魔法を自在に使えるようになると思っていいのだろうか。
小一時間ほど、座禅を組んでいたら、飽きたのかウルさんは、部屋を出て行ってしまった。
食堂か裏庭にでも、行ったのかもしれない。
私の体は、きっと中空だから、魔力の流れなどと言うものは存在しないのかもと思いはじめる。
それでも魔法が使い易くなるなら、やらない手はないと、その後も飽きずに魔力の流れとやらを感じるまで頑張ってみた。
夕方、ミリンガとアベさんが帰ってきた。
帰りにギルドに寄ったら、ゲッツ達が捕まって騒いでいたと、面白そうに話してくれた。
私が座禅を組んでいるのを不思議そうに眺めながら、まるでスーパーのチラシでも見るように魔導書をペラペラと捲っていた。
「やっぱり、まともじゃ、魔道士にはなれそうもないねぇ…… 」
いやいや、まだ、その魔道士にもなれてないのだけど。
ミリンガは私が魔道士になるのに賛成ではないようで。
正面切ってそれを態度には表さないが、批判的な言葉が端々に見え隠れする。
魔力の流れを意識出来るようになったのは、魔導書を買った次の日の夜のことだった。
ユルユルと脈打つように胸の辺りにある核から膝へ向けて流れるものをなんとなく感じる事ができた。
不確かで微妙な流れだけど。
意識すると、ドクン、ドクンと、強くなる。
心臓のない体に脈打つ流れと言うのもおかしい気もするが、感じる事は出来た。
★ダークボール(魔力の塊を放つ)
△闇よ、大いなる闇よ、ここに集いて力を示せ
★ダークランス(貫通力を増した魔力の塊を放つ)
△闇よ、親愛なる闇よ、その力を見せよ
★ダークバインド(闇の腕による拘束)
△闇よ、対となるその主を留め置け
★ダークミスト(大量の影、若しくは夜間における光の遮断)
△闇よ、この場に満ちて世界を覆いつくせ
★ダークウォーク(影から影への移動)
△闇よ、その懐に我を迎え入れよ
★ダークフレイム(決して消えぬ闇の炎で対象を焼き尽くす)
△闇よ、熱く滾れ、炎となりて焼き尽くせ
魔導書には、難易度順に魔法が紹介されている。
まずはじめに、ダークボールが初級として1番目にかかれていた。
「闇よ、大いなる闇よ、ここに集いて力を示せ…… 」
書いてある呪文を、唱えるも何も起こらない。
ひょっとして杖がないと、駄目だったりするのだろうか。
"ダークボール" とトリガーワードまで言ってみても、変化なし。
体内の魔力の循環とか、全く意味が無かったような気がしてくる。
ベッドに腰掛けて、独りでブツブツ呪文を繰り返していたら、ミリンガから、うるさいと苦情がきた。
まあ、いい加減、しつこくやり過ぎたかなと、自覚はある。
どうしたら、魔法が使えるのだろうか。
湯浴みして、食事を済ませて、再び部屋に戻ってくるまで半分、上の空だった。
その夜は寝付きも良くなかった。
魔法のことで頭がいっぱいだ。
目覚めるも、朝一発目に発した言葉は魔法の呪文だ。
当然のように何も起こらない。
魔導書を開いて、また最初から読み直してみる。
何か見落としや、読み間違いなどなかったか、確かめるものの、何もなかった。
朝食を噛み締めながらも、ミリンガたちが森へ行くと部屋を出ていく時も、頭の中は魔法のコトでいっぱいだった。
「闇よ…… 」
窓から照らす光が床に落とす影は、私の足だ。
「ん? 」
一瞬、グニャと、影が歪んだ気がした。
手のひらを床近くに下ろして、その影を見つめる。
「闇よ、 」
影は一瞬だけ反応した、ように見えた。
今まで悩んでいたのは無駄ではない気がしてくる。
黒い球が闇を纏って姿を現す。
それが高速で撃ち出される光景が、頭に浮かんだ。
きっと、出来るようになる。
そんな、根拠のない自信がわいてきた。
「闇よ、大いなる闇よ、ここに集いて力を示せ…… 」
その後、何度か繰返してみたけれど、残念ならが結果は出なかった。
自信だけは、あったのだけど……。
「闇よ……」
そう呟くとピクッと影は反応する。
しかし、それ以上は何もなかった。
幾ら呪文を唱えても、どれだけ鮮明にダークボールが飛ぶ様子をイメージしても。
「ソルム、無事か? 」
夕方、部屋に駆け込んできたミリンガたちは、顔が真剣過ぎて、ちょっとひいた。
何でも、ゲッツたちが逃げ出したそうだ。
ギルドから騎士団へ引き渡される際に姿をけしたとか。
真っ先に狙われるとしたら、私だと指さされると、反論出来ない。
有り体に言えば、間違いなくその通りだし。
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