第10話 針仕事


「これが、仮の身分証になります…… 」


 渡されたのは木片のついた首輪。

 本人だと確定した訳ではないから、 "仮" なのだと、釘をさされた。

 ミリンガが身元引受人を引き受けてくれたから認められたのだと説明される。


「ま、乗りかかった船だからねぇ…… 」


 この獣人の娘は意外と世話焼きが好きらしい。

 町からは出られないが、ゲッツの取り調べが終わるまでは、行動を共にするよう念を押された。

 冒険者は基本的に町中での争いは禁止されているそうだ。

 私が目を覚ましたのが町外れだったのが良くなかったらしい。

 森の中なら、偶発的な事故も避けられないが、腹を刺されて森から町へ移動したとは考えにくい。

 ゲッツたちが、森で起こった事故だと言い逃れたとしても、町まで連れ帰り然るべき手当をすべき救護義務違反に問われるそうだ。

 町で刺したと白状すれば、やはり、禁止事項に触れる事になる。

 ゲッツが処罰から逃れる術はないと職員は言っていた。

 なら、仕返しは当然、考えられる事らしく。

 それじゃ、罰せられる意味があるのかと問いたくなる。

 犯罪抑止なんて考えは無いのかもしれない。

 どこまで行っても "やったら罰があるよ" で対処するしかないらしい。


「魔法って、どうやるのか知ってる? 」


「ん、 魔法?」


「あんた、凄腕剣士になるとか言ってなかった? 」


「闇魔法が使えるって、言われたから…… 」


 ミリンガは戸惑いながらも、魔導書は魔法屋に売ってて、金貨10枚もすると教えてくれた。

 杖や、魔道具から魔道士の身に付けるローブ、アクセサリーなども売っているとか。

 言わば魔道士のド○キだ。

 うん、私は魔道士になろう。

 剣より魔法だ。

 それがいい。

 こんなちっちゃな体で剣を振るとか、さすがに無理過ぎる。

 小さな体格ならではの必殺技とかあるのかもしれないが、何も知らない私に出来るはずもない。

 決まりだ、明日は魔法屋へ行こう。

 今日は、ミリンガの泊まる宿屋の部屋に泊めて貰える事になった。

 どこまでも面倒見が良いようで助かる。

 ギルドから宿屋に向かうあいだ、ミリンガに明日の予定を聞かれた。

 魔法屋に行くと伝えると、変な雰囲気になった。


「剣も防具も無いからね……」


「まだ売れずに店にあるかもしれないわよ?」


「結局、身を守れなかった訳だし……」


「………。」


 彼女は私に剣を辞めて欲しくなさそうな。

 雰囲気でそう分かる。

 護身用に短剣位なら持つかもしれないが、魔法の魅力には敵わない。

 まずは魔法を試してみないことには、何とも言えない。


「おばちゃん、1人増えるわよ 」


「50タロだよ 」


 手を出してくる宿屋の女将。

 ミリンガが懐から小袋を出す前に、銀貨を差し出した。


「あんた、お金持ってたの? 」


「まあ、少しはね…… 」


 普通は殺される際に金目の物は全て剥がされるから、金を持っているとは、思わなかったらしい。

 それより、金まで面倒をみるつもりだったミリンガは、よほどの世話好きらしくて驚いた。

 後で利子つけて返せと言わないとは、限らないが。


 宿屋の部屋は4人部屋だった。

 空いてるベッドが私のものとなる。

 明らかに大きすぎるサイズ。

 子供のようなこの体が、小さ過ぎるだけなのだけど。

 早目の食事の前に湯浴みをした。

 目覚めた時に気がついていたが、この体、小さいながらも下半身は大人だった。

 詳細な描写は控えておく。

 子供じゃないよ、大人だよと言う事で。

 服も湯を使って洗っていいらしいので、真似して下着とシャツの血の跡を洗ってみたら、ナイフて刺されたような切れ目が見つかった。

 ベストには無かったのに、不思議な事もあるものだ。

 湯浴みからあがると、服は部屋に干すそうだ。

 ミリンガが切れたところを縫ってくれるらしい。

 どこまでも世話を焼いてくれて助かる。

 湯浴みのあとはワンピースのような、寝間着を頭から被って下着も何もつけないのが流儀らしい。

 私の茶色の髪は、お坊ちゃんカットのよう。

 ミリンガの持つ手鏡で自分の顔をしみじみと見た。

 幼さい顔立ちながら、西洋人的な彫りの深さが伺える。

 成長したらいい男になりそうな気もしないではないが、これで既に15歳らしいから、期待は出来ないかも。

 と言うか、この体は成長するのだろうか。

 髪や爪が伸びてこなければ、変化なしとなるだろうから、少し気にしておこうと思った。

 長過ぎる寝間着を引きずりながら、食堂に行き夕食をいただいた。

 はじめて食べる人の手による料理は、期待が大き過ぎたからか、あまり美味しくなかった。

 パンは酸っぱいし、スープは塩味だけの味付けでイマイチ。

 焼いた肉は、癖がある味の上にちょっと硬かった。

 文句は言うまい。

 周りの誰も文句ひとつ言わずに食べているのだから。

 調味料が高価だとか何かしらの理由があるはず。


 紅一点、部屋ではミリンガがセクシーな寝間着姿でベッドに横たわる。

 針仕事を終えたばかりで肩が凝ったと下僕にマッサージをさせているところだ。

 下僕はウルとアベと言った。

 ウルさんはいいが、アベさんはちょっと日本的で親しみを覚えてしまう名前だ。

 しかし、本人達はミリンガしか見えないようで、私には関心が薄い様子だった。

 気を遣わなくていいと言えなくもないが。

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