第9話 闇魔法
「え、 あんた、生きてたの? 」
私の顔を見て目を丸くする女の子がいた。
女の子と言うより娘と言った方がしっくり来る。
頭の上に耳が生えてる獣人の娘だ。
私より頭1つ分、背が高い。
彼女は私の姿に見覚えがあるらしい。
正直、面倒だなと思った。
適当に話を合わせてあしらえるのならいいけれど、えてして、そうはならないだろう。
仲間らしき青年が2人、黙ってこちらを見ている。
逃げ出すのは、きっと無理そうな。
「だれ? 」
「あー、名前は言ってなかったわね、あたしはミリンガよ」
「知らない…… 」
「ゲッツ達に連れて行かれて、大丈夫だったの? 」
「ゲッツ? 」
知らぬ存ぜぬを通していたら、娘の口調はキツくっなってきた。
「こっちは、心配して言ってあげてんのよ? 」
「ええと、たぶん、一度死んだかな…… 」
「死んで、どうして今、歩いてるのよ? 」
「生き返ったから? 」
「ねぇ、頭、大丈夫? 打たれておかしくなった? 」
「お腹、刺された…… 」
ベストを捲って血のついたシャツを見せる。
「うわっ、 本当にやられたみたいね…… よく助かったわね…… ポーションでも飲んだんでしょ? 」
「あー、 そーかも…… 痛くてうずくまってた時に…… 」
話を合わせるならこの辺かなと思った。
余り、その前後は覚えていないと言ったら、突っ込まれなかった。
そもそも、そんなに親しい間柄ではないようだ。
この町に来る際に同じ馬車に乗っていたらしい。
私の名は "ソルム" ゲレンザ族の15歳、一人前の戦士になる為に遠いこの地で経験を積むのだと息巻いていたそうな。
冒険者ギルドに登録して、森に入り、魔物を相手に剣の腕を磨くのだとか。
予想していたものとは全然違う人物像に、戸惑った。
彼女らも同じ冒険者で、3人で組んで活動していると言う。
ソロだったソルムはゲッツ達にそそのかされ、一緒に活動すると言っていたのが3日前の事だった。
案の定、ソルムは刺されて死ぬところを、私が吸収して蘇ったと、いうのが事のあらましらしい。
「あんた、森で死んだってゲッツ達が死亡届け出してたわよ? 」
「森には行ってない…… 」
「そうなんだ、 じゃ、やっぱり彼奴等があんたを嵌めたのね? 」
"で、どうすんの?" と、聞かれるも、どうもこうもしようがない。
現役の冒険者に何かをするなんて、どだい無理な話だ。
こっちは人になったばかりで、そんな揉め事に巻き込まれたくはない。
「町を出るのは馬車しかない? 」
「そうね、20タロかかるけど…… あんた、お金あんの?」
"少しだけなら" と適当に返事をした。
馬車乗り場を教えて貰い、そっちに向かった。
ミリンガたちはついては来なかった。
ギルドに生存報告しておいてくれると言う。
魔物を狩って生計を立てるような職に就く気はさらさらない。
ゲッツとか言う冒険者に絡まれる前に町を出た方が良いと思った。
この町より大きな町、"ラグロス" 行きの馬車はまだ出る前らしい。
それに乗って行こう。
ラグロスで暮らそう。
それがいい。
仕事はそこで探せばいい。
御者の男に金を払って乗り込もうとして、止められた。
「坊や、身分証は? 」
「え? 」
ギルドなり何なり所属してれば身分証はあるはずだと言われた。
無ければ、町は出られないと。
ガーン! 町脱出計画は脆くも砕け散った。
トボトボと重い足取りで馬車乗り場から撤退する。
別に怯えてなんか、いないけど。
身分証がないと町を出られないのには驚いた。
身分証はどうしようか。
「おい、ソルム 」
声を掛けられ振り向くと、ミリンガの背後にいた男だ。
「さっきの人…… 」
「生存報告は、本人が行かないと駄目なんだと、ミリンガか来いとさ…… 」
「あ……、はい…… 」
ミリンガはちゃんと報告に行ってくれたらしい。
ゲッツの悪事も報告すれば、罰せられるのではないだろうか。
殺人とは言えないものの、傷害は間違いない。
名乗らないので、名前も知らないが男について行き、大きな建物へと入った。
きっとここが、冒険者ギルドなのだろう。
「ほら来た、本当に生きてたでしょう?」
「ソルムさん、 死亡届けが出されてましたが、心当たりはありますか? 」
「どうもゲッツとか言う人に、殺されかけたみたいで……」
得意げに言うミリンガに手招きされ、職員らしき女の人に私はそう、こたえた。
「剣や防具は? 」
「ええと、知らないですね 」
「間違い無くゲッツさんなのですね? 死亡の報告をしてきたのはゲッツさんのパーティです。 幾つか確認したい事があるので、奥の部屋にお願い出来ますか? 」
「はい…… 」
「ゲッツにゃ気をつけろって、あれほど言ったでしょう? 」
ミリンガはそう言うが、私がそんな事、知るはずもない。
奥の小部屋で、根掘り葉掘り聞かれ、調書をとられた。
腹を刺されて気を失って、その前後の事は覚えていないと話した。
ウソ発見器なのかと思ったら、それは、種族や魔法の適性を見る魔道具なのだとか。
ゲレンザ族は、魔族扱いらしくて助かった。
私は、魔物だから魔族と同じ表示だったらしい。
けれど、適性のなかったはずの魔法が、幾つか適性有りと表示され、怪しまれる結果となった。
本人確認の為にした魔道具でのチェックは、私には魔法の適性があることを教えてくれた。
魔法が使えるなんて、思わなかった。
私は、ただのスライムなのに。
人の姿になれて、魔法も使えるとか、最高過ぎる。
そっちの方が気になって仕方がない。
職員は納得してなくて、ミリンガを呼んで彼女達にも話を聞いていた。
別室で独り残された私は、言われた闇魔法とはどんな魔法なのかと想像しては頬が緩んで仕方なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。