第4話 テイマー現る
ーーー凄い! やっぱりあれは魔法に違いない!
私は眼下の人がブツブツ何か言い出すと、その少し前の地面に魔法陣らしきものが現れるのを見ていた。
そして魔法陣が光を放ちはじめて、その上に何かが姿を表した。
それは、美しい毛皮を纏った真っ白な四つ足の生き物だった。
人の背丈ほどある大型の犬のような狐のようなものに見える。
頭に角が生えているところを見ると、やはり普通の動物とは思えない。
人が何か命じたのだと、思う。
その生き物は、くるりと向きを変えて森の中を歩き出した。
途中、走り出したかと思うと、他の生き物を仕留めてきたらしく、咥えて戻って来る。
どれも、尋常ではないサイズの角や牙や爪を生やしたクマや犬のような生き物ばかり。
一度、追いかけてみたけれど、その速さに追いつけなかった。
人も人で普通ではない。
真っ白い下僕が仕留めて来た生き物を小さな布袋に吸い込むようにして、入れてしまった。
明らかにおかしい現象に私も理解が追いつかない。
あれは、きっと、魔法のかかった袋なのだと、結論に至った。
でなければ、説明がつかない。
と言うか、理屈の通らない事は全て魔法によってもたらされたものだ、そう思うことにした。
そもそも、私のようなスライムがいる世界なのだから、魔法を使う人がどんな不思議な事をしても、きっとここではそれが普通なのだろう。
それは理屈云々ではなくて、全て魔法なのだから、私に分かるはずがない。
魔法陣から現れた生き物が超高速で移動したって、おかしいことなんて何もない。
「チチッ! 」(うわあ!)
真っ白い生き物が、魔法を放った。
頭に生えた角から電流のような稲光が走る。
少し前の木の枝からヒョウだかピューマだか分からない、大型の猫系のいきものがドサリと落ちてきた。
今の今まで、そこにいる事すら気が付かなかった。
やっぱり森って、怖い。
今更ながらにそう思った。
スライムで生活していた頃は、地面から見上げて生活していた。
たまに地響きをたてて走って行く動物がいたけれど、物陰に隠れてやり過ごしてきたので、どんな生き物だったかも分からない。
小鳥の姿になって、上から見下ろすようになったら、こんなに多種多様な生き物がいるとは知らなかった。
どれもおしなべて、私の何十倍もある大きな生き物ばかり。
そのどれもが物騒な角や牙や爪を持ち、魔法まで放つものもいる。
私なんか、相手にもならない。
いや、相手をする気なんて皆無なのだけど。
それこそ無謀、若しくは自暴自棄にでもならない限り起こり得ない。
あのスラリと伸びた強靭な足で踏まれただけで、私なんかはプチッと潰されて終わりだろうから。
ーーー私は何やってるんだろ……
急に怖くなってきた。
魔法を見て浮かれていた自分の浅はかさに気がついた。
巻き添えを食らいでもしたら、一発で死んでしまうだろうに、呑気に見物してる場合ではない。
パタパタと枝から飛び立つと、なるべく離れるように一目散に飛んで逃げるのだった。
ーーーきっと、あれはテイマーだ
しばらく考えて得た結論は、それだった。
使役している下僕を呼び寄せ戦わせる。
これがテイマーでなくして何だろうか。
だから、あの真っ白い生き物は魔法を使えても何ら不思議ではない。
でなければ、テイムする必要すらないだろうし。
あの最後に魔法でやられたピューマみたいなのは、きっと身を隠す魔法が使えたから、気がつかなかったのだと思った。
他のスライムだって透明になれるのだから、出来ない理由はない。
あんな凶暴そうな生き物が、そんな能力を持っていたら、迷惑でしかないのだけど。
その後も私は寄ってくる雄で食事を済ませる日々を続けた。
自分で気付くのはなかなか難しいが、たぶん私は成長して体が大きくなっていたのだと思う。
空腹を感じる前に雄が来るから、仕方がない。
そんな訳で、次はどんな動物の姿にしょうかと考えていた。
空を飛ぶのは便利だけれど、体力の消耗も激しいから、お腹が減るのが早い。
それなら、地を歩く物の方がいいのではないか。
漠然とそう思うだけで、具体的には何も思い浮かばなかった。
そもそもそんなに動物に詳しくないし。
危険だけれど、自分が餌になって、襲ってくる動物で良いような気もする。
何時間も木の幹に擬態して様子を見ていて下した結果がそれだった。
けど、ヘビとかトカゲの類いだったら、それはそれで困る。
生理的に受け付けないというか、やはり食事が悲惨な事になりそうで怖い。
リスやハムスターなんかの方がいいのだけど、結局、ヘビやトカゲに怯えて暮らす事になりかねないし。
悩みは尽きない。
ーーーおっ!
目の前に姿を現したのは、かなり小さいウサギの形をした生き物だ。
ウサギと言ってしまえば簡単なのだけど、小さい割に頭に角が生えている。
私の知ってるウサギに角など生えてないから。
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