第3話 チチチチチッ(ねえ、見てよ、見て!)
空を飛べるようになった私。
なぜ小鳥の姿になれたのか、理由は分からない。
スライムの姿に戻れないのかと試してみたら、あっさり戻れた。
私には、食べたものに成れる能力があるのだろうか。
小鳥になれる心当たりといえばそれしかない。
土や木、葉っぱに擬態てきるのだから、小鳥になれない理由もないように思えるが、根本的に違う気もする。
見た目だけ同化出来ても中身はスライムのままなのだから、幾ら小鳥の姿になれたとしても飛ぶのまでは無理なはず。
飛ぶために小鳥は骨格など、体の造りからして工夫されているのを私は知っている。
かたや核と体液に満たされた体を持つスライムとの差となると、見た目だけ真似てどうにかなる話ではない。
飛ぶという事はそういう事だと思う。
それが飛べるのだから、首を傾げる他になかった。
小鳥になれるようになって、変わったことといえば、移動が早くなった事と、空腹が割と深刻になった事。
空を飛ぶとそれなりに体力を使うようで、お腹がひどく空いた。
それがスライムでいた頃のものとは違って、我慢出来ないほどの酷い空腹感だった。
もはや木の実で誤魔化せるレベルではない。
虫やトカゲ、ミミズなど、他の小鳥がぱくぱく食べる気持ちが少し分かった。
けれど、それはさすがに私には無理。
しかし、お腹は減っている。
ではどうするか。
「チチチチチッ!」(ねえ、見てよ、見て!)
小鳥の姿で枝に留まる私の周りに、同じ姿をした小鳥が寄ってきた。
羽を広げて "チチチチチッ" と鳴いて気を惹いた。
どうやら彼は雄らしい。
で、私の体は雌なのかなと気がついた。
黙って見ている私の上に、やがてちょこんと彼は乗ってきた。
「チチッ」(ごめんね)
後から思うと、彼は交尾を迫って来たのだと思う。
しかし、私は空腹でそれどころではなくて。
反射的にスライムに戻ると彼の体を包み込んだ。
これほどの至近距離で逃げられるほど甘くはない。
それから私は1日かけて、彼を消化吸収したのだった。
同族食は忌み嫌われるとは思うけど、了解した覚えもないのに交尾しようとしてくる方にも問題はあると思う。
幾ら言い訳を並べたとしても、倫理的な責任からは逃れられないだろうけど。
小鳥の社会にそれを断罪する機関があれば、私は罪人として直ちに連行されてしまうに違いない。
コンプライアンス違反だと糾弾され、誹りを免れない未来が見える。
そんな取り留めのない事を考えながら、彼は私の血となり肉となり糧となってくれるのを待った。
さすかに自分と変わらないサイズの量を吸収すると満腹としか言いようがない。
消化に1日、満腹で過ごす1日、次の食事は、中2日あけることになった。
動かないでじっとしていたら、もっと間隔は延ばせただろうけど、それは出来ない相談だ。
私は空を飛べるのをいいことに、あの広場に来る人を見つけては、後を追い様子を見ていた。
人への興味もあったけど、それだけではない強烈なものを見てしまったから。
それはきっと、"魔法" だと思う。
人が火の玉を出して、それを飛ばしたのにはびっくりした。
後から思い返してみれば、その人は剣を持っていなかった。
代わりに持っていた木の杖を掲げて、何かを言っていたような気がする。
きっと呪文を唱えていたに違いない。
標的は頭に角を生やした犬のような生き物。
まともに当たって吹き飛ばされていた。
それなりの質量の物が、それなりのスピードで当たらなければ生じ得ない結果に、私は息を呑んだ。
私は、いっぺんで魔法に心を鷲掴みにされてしまった。
また見てみたい。
もっと色んな魔法を見てみたい。
その一心で人の後を追った。
今は小鳥の恋の季節らしく、食事に困ることはないので助かった。
次から次と雄が寄ってくる。
確かカマキリが、そんな生態で有名だったような。
けどあれは交尾後の産卵に備えて母体に栄養を補うという意味では合理的な仕組みだったはず。
私の場合は只の食事なのだから、一緒にするのはおこがましいかもしれない。
ただ、これがいつまでも続くとは考えにくい。
お腹が減って後を追えなくなったら、どうしようかと懸念もある。
それはそれで考えておかなければならないけど。
「ζ√∬σω∝√√∋ーα≯∉∑τ……」
また人が何かを言っている。
せめて言葉が分かると良かったのに。
小鳥の姿になると小鳥の囀りの意味も分かるようになったのだから、人にならない限り言葉を理解できる日は来ない気がする。
あのサイズになるまで私が成長するとは、とても思えない。
他のスライムはみな、私より大きかったけれど、せいぜい猫とかのサイズでしかなかった。
猫……。
猫になれば、人の前に出ても大丈夫か。
こんな森の中で見かけた事はないけれど、いつか猫サイズにまで成長したら、是非、猫になってみたいものだと思った。
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