十二月十六日 わがしや 中
戸口でうなだれる杏を見た母は、先生が今日も休んだことが聞かなくてもわかった。昨日、すぐなおると言った手前、どう声をかけたらいいものか悩んでしまう。
ねぇ、母ちゃんとか細い声が落ちた。
ん?と母はやさしく続きを促す。
「空木先生の、ところに、おみまい……行ったら、だめ……かな」
「だめなことはないと思うけど、おうちが何処かわかるの?」
はっと顔を上げた杏はしぼむように服を握る手を見下ろす。そして、消え入りそうな声で、知らないと呟いた。
母は目の前の小さな鼻をつまみ、困ったように笑う。
「今日は行けないけど、明日は行けるじゃない。この前、来てくれた先生でしょ?」
鼻を摘ままれたまま器用に頷く姿は、物影から様子をうかがう小動物のようだ。甘やかしてはだめだとわかっているが、こんな顔をされては蜜を与えたくなる。母は摘まむのをやめて、鼻の先と人差し指の先をくっつけた。
「もし、明日、先生が休むようなら、先生のおうちを聞いていらっしゃい。飛びきりの菓子を持たせてあげる」
母の飛びっきりの笑顔に、杏は顔を輝かせ大きく頭を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます