十二月六日   そうだん 下

空木先生へ


 私は話すのがとてもとても苦手です。言いたいことが言えなくて悲しくて、くやしい気持ちになります。だから、この帳面で先生にお話を聞いてもらえて とてもうれしいです。

 それなのに、私は人の話を聞こうとしませんでした。がんばって聞いてみようと思います。

 今度のお休み、楽しみに待ってます。


✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


 帳面を提出した朝礼の後、じぃっと膝の上にのった拳を見ていた杏は意を決した。隣から感じていた気配に対峙する。

 顔は前に向いたまま視線だけを隣に向けていた辰次は真ん丸に目を見開いた。

 小休憩のざわつく教室内で、そこだけ切り取られたように静かだ。心臓の音が耳の横で聞こえる。


「勝手に見て、ごめん」

「……うん」


 怒ることも許すことも口にできない杏はそれだけで精一杯だ。

 辰次は何処か気が抜けたようにぎこちなく笑う。

 二人の様子を遠目に見守った空木は、授業の準備に取りかかった。


✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


鈴宮さんへ


 実は先生も、はずかしがり屋でした。いつも姉さんの後ろに隠れてあまりお話が上手ではありませんでした。

 今の姿とぜんぜん違うでしょう。

 一歩、踏み出せた鈴宮さんは、きっとなりたい自分に近づけたと思います。先生もまだまだだけど、鈴宮さんに勇気をもらいました。がんばろうと思います。

 今度のお休みに鈴美屋に行くのが楽しみです。約束ですよ。





 

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