第二二話「くだらない男のメンツだけど、大切にしたい」
真央はひらめを会場から引っ張り、外へと連れ出した。店の外に出ても、ひらめのイライラは収まらない。
「本当に大人げない・・・」
「からんできたの向こうだし・・・。クソガキが・・・。マジでムカつく・・・」
「ひらめ、落ち着けっ!!」
「とりあえず、かばん取ってくるわ」
「行くなっ!」
戻ろうとするひらめを真央は、腕にしがみつき必死に止める。
「真央さん、おっぱい当たってる・・・」
「いいから。落ち着け!」
真央はひらめの腕にしがみつき、引きずるように駅とは反対方向に連れて行く。
「真央さん、おっぱい・・・。大丈夫だから・・・」
「落ち着いた? 大丈夫?」
「うん。ごめん・・・」
ひらめは少しずつ興奮が冷めてきた。落ち着いてくると、しがみつく真央が震えていることに気づく。
「ごめんね・・・。ガキくさかったね・・・。もう大丈夫。落ち着いた・・・」
「うん」
真央のケータイに恭子から着信が入る。
「ひらめ、ステイ! 動くなよっ!」
ひらめは
「もしもし。うん、こっちは落ち着いた・・・。うん、うん、分かった。うん・・・、じゃあね」
忠犬『ひらめ』は、ご主人様の方に視線を向ける。
「みんな、解散したって。恭子たち、飲み直すらしいから行くよ」
「え〜。そんなテンションじゃないよ・・・」
「迷惑をかけたんだから、頭を下げる! かばんもあるでしょ?」
「・・・」
真央とひらめは、腕を組んだまま、恭子たちの待つ店まで歩く。
「ひらめ、本当に子供すぎるよ・・・」
「ごめん・・・」
「らしいと言えば、らしいんだけど・・・」
二人が店に着くと恭子をはじめ、飲み会に参加していた女子、下座のメンバーのほとんどが集まっていた。
「あれっ? 何で腕組んでるの? できてる?」
ゲスな質問をしてくる恭子。真央が焦り、ひらめから離れる。
「ひらめが暴走しないように捕まえていただけだよ」
「なんか、怪しいんだよな・・・」
(恭子ちゃん、なんか勘が冴えてるんだよな・・・)
「あれ?恭子ちゃん、知らなかった? 実は、二人は結婚を前提に付き合っているんだよ」
「あはははは。ないない。まあ良いや。座って」
「その前に・・・。本当にごめん。楽しい飲み会だったのに、クソガキみたいな行動、言動を行い、皆様に多大なご迷惑をお掛けしました。心から反省しています。申し訳ありませんでした」
真央に言われた通り、ひらめはみんなに頭を下げた。
「ということで、今日はひらめの
「待て待て。真央さん、何人いると思ってる?」
ひらめが真央に連れ出された後、喧嘩を売ってきた輩は息巻いていて、それに賛同するアホな男たちが盛り上がっていたらしい。
ことの成り行きを見ていた下座のメンバーから話を聞いた恭子が、空気を読まず
「一生懸命頑張って結果を出せない男たちが、自分より下に見ていた男が結果を出してるからって、嫉妬して盛り上がっているのってダサくない?」
と男のメンツを丸潰れにする一言を放ち、男子たちのテンションを下げた。
さらに、一部始終を見ていた女子たちが加担をして男子たちを口撃し、男子たちの器の小ささを認めさせ、次回は、ひらめに謝ることを約束させた。
「彼らのメンツを潰しちゃダメだよ・・・。メンツにこだわって生きている男たちなのに・・・」
男は女子が思う以上に、メンツを大事にしていて、それを女子たちに総攻撃されたときの男子たちの気持ちが分からなくない。
「だって、ひらめくん。悪くないじゃん? あれは明らかにあおっていたよ」
「ありがと。でも、あきちゃん。彼らの前で、傷口をえぐるような発言はしない方が良いよ。
「そうだよ、あき。ひらめを
(真央さん、いつになく厳しくないですかっ?)
男という生き物は、くだらないメンツを大切にしていて、自分より弱い立場の人間には『強い人間だ』と思われていたいし、女子の前ではカッコいい男だと思われていたい生き物なんだよ。
二次会が終わり、解散。みんなと別れ、真央にショートメールを送る。
『今日はごめん、飲み直さない?』
『行く』
直ぐに返信があった。
ひらめと真央は、二人で会っていることを周りの人間には内緒にしていた。ひらめは軽い男だと思われているので、女子と二人で飲んでいても問題はない。
ただ、会社ではお酒を飲まない真央と飲んでいるというのを説明するのが面倒くさかったから、誰にも話していない。
「真央さん、大丈夫? 終電・・・」
「大丈夫。さっきママに『恭子んちに泊まる』って連絡しておいたから」
「・・・」
「ひらめが本当に『エロいのに行動しない』か確認する」
「何それ?」
「同期の女子の中で『ひらめの七不思議』っていうのがあって・・・」
「ないない。行こう、すぐにホテ・・・」
「待て! 変態っ!」
「なんか真央、疲れたよ・・・。お酒を飲まずにはいられない。飲もう」
「うん」
東京の街は終電に関係なく、いつでもお酒が飲める。二人はちょっと雰囲気の良い半個室の居酒屋へと入る。
「真央さん、今日は色々とご迷惑をおかけ致しました」
「うん。本当に迷惑だった」
「真央さん、肩でもお揉み致しましょうか?」
「うん。お願い」
ひらめは席を立ち、真央の肩を揉む。真央の良い香りに包まれながら、無言で肩をしばらく揉んでいる。
「ありがと。すごくラクになった」
「いえいえ。これくらいしか出来ませんので・・・」
「飲もう」
「うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます