第二三話「ガキくさかったから、あやまる」

ひらめは謝るために真央を誘った。謝った後、気まずくて何を話せば良いか分からない。


真央も伏し目がちにグラスを見ている。


(スーツ姿の真央さん、色っぽいなぁ・・・)


真央に見惚みとれていたら、急に真央の大きな瞳から、涙があふれてくる。


「どうした?」


隣の席に移動して真央の顔を覗き込むと、真央はひらめの胸に顔を埋め、本気で泣きはじめた。


「どうした?」


店員さんが空気を読んで、無言でおつまみをおいていく。


(絶対に俺が泣かせたと思っているハズ・・・)


「真央さん、どうしたの?」

「怖かった・・・」


「何が? いつ?」

「だって、ひらめ、怒っていたから」


「うん・・・。ごめん・・・」


「女子たちは、みんな『ひらめ、よくやった!』って言ってたけど、真央は怖かった・・・」

「うん・・・」


「その後も、なんか、ずっと怖かった・・・。良かった、いつものひらめで・・・」

「うん。ごめん・・・」


「そもそも、ひらめの態度が悪いから、勘違いされるんだよ・・・」

「うん」


「本当にくだらない。喧嘩なんてしても解決しないでしょ?」

「うん。ごめんて・・・」


「真央と恭子がいなかったら、今頃、ひらめは超悪者だったでしょ? 会社の飲み会で喧嘩するなんて聞いたことない。手を出していたらクビだよ。分かってる?」

「うん。反省してる・・・」


「本当に頭が悪いとしか言いようがないよね」

「うん」


「なんで、こんな男の周りに人が集まるんだろ?」

「・・・」


「さっきだって、結局、ほとんどの女子が来てたでしょ? なんだろうな。ズルいんだよ。ひらめは・・・。好き勝手に行動して、周りを巻き込んで・・・」

「ごめん・・・」


「普通に生きている人間は、ひらめのように生きている人間に憧れるというか、嫉妬するんだよ。普通の人間ができないことを何の苦もなく、やっているから」

「うん」


「自己中心的で、テキトーで、いつも楽しそうで、困ったときには誰かに助けてもらえて・・・」

「ごめん。真央さん。何が言いたい? 褒めてるの? 落としてるの?」


「そうなんだよ。ひらめは、褒められる人間じゃなくて、ダメな人間なんだよ。でも、みんなが出来ないことをふわっとやっちゃうから、ムカつくんだよ。ヒトとして正しくないんだけど、自由というか、好き勝手というか、自分のことだけ考えて行動しているのに、周りに迷惑をかけてないというか、迷惑をかけているんだけど許して貰えるというか、いい意味あきらめられているというか、期待されていないというか、なんか、本当に腹が立つ・・・」

「うん・・・」


「真央は男子たちの気持ちが、すごくよく分かる。一生懸命頑張っているのに、頑張ってない人が評価されるなんて変なんだよ。本当は、ひらめだって頑張っているかもしれない。コソコソと影で頑張ってるのかも知れない。だけど、そんなの知らないし、頑張ってるんだったら、頑張ってる姿を見せるべきだし、なんかズルい。ズル過ぎる・・・」

「真央、大丈夫? 酔ってる?」


「いいから聞けよ。普通に考えてズルくない? こんなにダメ人間で、ひねくれているのに、実は素直な人間で、みんなで助けてあげなくちゃなんて思わせて、本当は何でもできるくせに、やりたくないからやらないだけなのに、最低の人間で腹黒いのに、妙に愛嬌あいきょうがあるというか、嫌われるようなことをしているのに、好かれるとかあり得ない。普通はみんな、嫌われないように行動していて、それでも嫌われるから悩むのに・・・」

「そうだね・・・」


「誰にでも気があるような素振りを見せて、相手の気を引いて、勘違いさせて、相手を悩ませて、本人は、のほほんと通常通り生きていて・・・。誰にでも『あなただけが特別』なんて態度で、本当はあっちこっちで特別な人がいて、特別が特別じゃないくせに勘違いさせて。気がない女子にも優しくして、好きな女子にも優しくして、みんな困るんだよ・・・ハッキリさせろよ・・・」

「うん、そうね・・・。でもさ、それが俺の生き・・・」


「そして、何よりもムカつくのは『いい人』より、いい人だからなんだよ。クソみたい人間だ? 俺を信じるな? ぜーんぶ、うそじゃん。クソみないな人間が周りのヒトに気を使うか? 弱ってるヒトに声をかけるか? それも求めているタイミングで・・・。あり得ないんだよ。あり得ない。全然、ジコチューじゃないんだよ。悔しいけど、凄く周りのヒトを見てる・・・。なのに、知らんぷりしたりする・・・」

「うん。分かった・・・」


「・・・帰る」


一通り、ひらめの文句を言って、帰り支度を始めた真央は、目も虚うつろだし、真っ直ぐ歩けていない。


「真央さん、大丈夫?」

「う〜ん・・・」


「トイレ行く?」

「うん・・・」


ひらめは会計を済ませ、自販機で天然水を買い、女子トイレの前で待つ。


(あ〜面倒くさい・・・)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る