第一九話「弱い男だけど、娘のために勇者になる」

ひらめと真央は、午前中のディズニーランドを満喫し、昼食を取る。


「めっちゃ美味そうに食うね・・・」

「そんなにマジマジと見ないでよ・・・恥ずかしくなるでしょ」


「かわいい娘は何をしても絵になるな・・・」

「ありがと」


真央は口いっぱいにハンバーガーを詰め込みながら、ランド内のマップを広げ、回る順番を一生懸命に考えている。


(こんなかわいい娘と遊べるだけでも、幸せだよな・・・)


「ねえ、ひらめ。聞いてる?」

「うん。聞いてるよ・・・。真央にまかす」


「じゃ、真央のために『メダル』もらって・・・」

「よっしゃ。勇者『ひらめ』のチカラを見せてやる」


午後イチはシンデレラ城ミステリーツアーに決定した。


ひらめは過去に何度も『勇者のメダル』の獲得に失敗をしていた。


メダル獲得作戦を真央と打ち合わせる。


まずは、子供がいないパーティに入ること。

子供優先で勇者に指名される。子供がいると大人の男性は勇者にはなれない。


おそらく、平日で子供が少ないので、簡単にクリアできる。


次にミステリーツアーは二組が別々にツアーを行い、どちらかのパーティは勇者にはなれない「ハズレ」組になる。


これは運次第、賭けるしかない。


さらに、当たり組になっても、他に勇者候補がいると指名される確率が下がる。


最初から勇者は『ひらめ』しかいないと周りに思わせる必要がある。


アホなカップルを演じ、周りの男性から勇者の座を奪う。


ツアーが始まった瞬間からひらめと真央は、二人でバカップルになりきる。


「私、なんか怖い・・・」

「大丈夫だよ。僕がついている」


全員に聞こえる声で会話をする。ガイドにも聞こえるように話を続ける。


「何があっても僕が君を守るよ」

「お願いね・・・」


ひらめの耳元で真央がささやく・・・


「ねえ。ひらめ緊張してる?」

「してないよ」


「なんで真央を手を握ってるの?」

「絶対に離すなよ」


「何? なんで?」

「いや、いいからマジで・・・」


ひらめは自分がどうにもできない場所が好きではない。真っ暗で周りに人の気配がすると足がすくむ。


「何? ひらめ。もしかして・・・。怖いの?」

「怖くないから。いいから離れないでよ」


「ふふっ。かわいい・・・」

「ぶっ飛ばすぞ・・・」


「どなたか、魔王を倒してくれる勇者様はいらっしゃいませんか?」


こっちのパーティが「当たり」だ。

ガイドと目が合う。視線が集まる。空気を読まずに手をあげる奴はいない。


ひらめが声を張り上げ、立候補をする。


「俺が倒すっ!」


真央が大袈裟に拍手をする。つられて小さな拍手が起きる。

周りの大人たちは恥ずかしがって手を上げない。そして、バカでも勇者候補がいれば、押し付けようとする。


作戦成功。


ひらめはメダル授与式で、恥ずかしがりながら、しっかりとメダルを首にかけてもらった。


勇者ひらめと真央には特別な声がかけられる。


「勇者様、ありがとうございました」

「お誕生日のお姫様もありがとうございました」


「よっしゃー。作戦成功っ!!」

「うん。うまく行ったね」


「ありがとう。勇者様!」

「助かったよ!」


「あっ、ありがとうございます」


周りのカップルも盛り上がっている二人に声をかける。


「ひらめ、恥ずかしくなかった?」

「ちょっとだけ。メダル授与式は照れたね」


「えっ? 『俺が倒す』じゃなくて?」

「じゃなくて・・・」


「マジか・・・」


「はい。誕生日プレゼント」

「ありがと」


真央がひらめの肩に手をかけ、耳元で話しかける。


「・・・本当は怖かったんでしょ?」

「何が怖い? こんな子供だまし・・・」


「次はホーンテッドマンション行こ。真央は離れて観察してるよ」

「・・・」


「大丈夫だよ。子供だましだよ」

「・・・」


「・・・もしかして、スペースマウンテンも怖かった?」

「・・・」


「ずっと手を握ってきたよね? あれ? もしかして・・・」

「・・・」


「はははは。ひらめの弱点、見つけたっ」

「・・・早く行こう」


「照れてる」


真央は悪戯いたずらっ子のように、ひらめを揶揄からかう。


「真央、勘弁してよ・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る