第一八話「恋人同士として、TDLを楽しむ」

ひらめは、真央の『恋人ごっこ』に付き合うことにした。


「よし。彼氏になる前にタバコ吸ってくる」

「真央もトイレに行っておく」

「うん」


真央と別れた後、ひらめはキャストに声を掛け、真央のためのバースデーシールをもらう。


二人で腕を組みながらランド内に入った。


ひらめは、もらっておいたバースデーシールを真央のジーンズの左腿に貼る。


「何? 変態っ!」

「待て待て。恋人に『変態』はないだろ?」


「冗談抜きに襲われるのかと思った・・・」

「アホかっ! 夢の国だぞ」


「いや、ひらめだし・・・」

「なんだよ。それ」


「ありがと」

「うん」


「ねえ、ひらめは右回り派? 左回り派?」

「俺は右かな? スペースマウンテン、スプラッシュマウンテン、夜のビッグサンダーマウンテンからのカリブの海賊」


「ほほう、夜のビッグサンダーマウンテンを知っているのかい? バースデーシールといい、お主、なかなかの腕前と見た」

「うむ。お主も詳しそうじゃな・・・。どこから行く?」


「ハニーハントのファストパスを取ってから、スペースマウンテン・・・でどう?」

「OK。行こう」


平日なのに『夢の国』はそれなりに混んでいた。

スペースマウンテンも、そこそこ待ち時間があった。

ひらめは、繋いだ真央と手を握りしめ、順番を待つ。


「すごく気になっていたことがあるんだけど、聞いていい?」

「うん。性癖でも何でも聞いてくれ・・・」


「最初から『真央さん』って呼んでるでしょ?」

「呼んでるねえ」


「なんで?」


「苗字、知らなかったから?」


「違う違う。他の娘は『さやかちゃん』とか『恭子ちゃん』って呼んでるのに真央だけ『さん』なのかってこと」


「真央、マナー研修で教わっただろ? 社会人として『さん』付けが普通なんだよ。いつまでも学生気分でいるんじゃないよ」

「お前がいうな。ねえ、なんで『真央さん』なの?」


「なんだろうな・・・。苦手な娘だから距離をとりたかったのかなあ」


「今でも『真央さん』って呼ぶでしょ?」


「いや、真央のことが苦手なんだよ。基本的に。俺は誰とも深い関係になりたくない。誰かと仲良くなるのが怖いんだよ」


「なんでそんなに他人から逃げるの?」

「逃げてる・・・。まあ逃げてるね・・・。俺は誰も信じないし、信じられたくない。なんか、重いじゃん。そういうの・・・」


「真央はひらめを信じてるし、ひらめにも信じて欲しい」


「うん。分かってる。真央がいい奴なのも。俺は真央を信じてるよ。でも、俺を信じて欲しくない・・・。なんかあるじゃん。そんなの?」

「・・・」


「俺が裏切られるは別に気にしないんだけど、真央から『ひらめに裏切られた・・・』なんて思われたくないんだよ。俺は裏切らないよ。裏切らないけど、勘違いで裏切られたって感じるときがあるでしょ。そういうのが嫌なんだ」


「大丈夫だよ・・・きっと大丈夫」


「真央ちゃん。ありがと」

「バカにしてる?」


「あはははは。ちょっとバカにした」

「もう! 真剣に話してたのに・・・」


ディズニーランドは恋人との方が楽しい。


周りの人間はみんな浮かれている。だから、普段恥ずかしくて、できないこともできるはずだ。

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