第一七話「TDLだから、友達なのに恋人になる」

朝の六時、ロードスターのエンジンをかけ幌を開ける。


愛車に寄りかかりタバコを咥え、缶コーヒーを飲みながら暖気をする。


こんなに朝早い時間なのに、スーツ姿で駅に向かう人が多い。


ひらめの代休に合わせ、真央は有給を取りディズニーランドに出かけることになった。


(雨も大丈夫そうだな。行くかっ!)


待ち合わせのコンビニで真央をピックアップし、高速道路で一気に『夢の国』へ。

新宿で渋滞にハマったが予定通り、九時前には浦安に到着した。


駐車場内をゆっくりと進んでいるオープンのロードスターに幼稚園くらいの女の子と母親が手を振ってくる。


真央が笑顔で手をふり返す。


「かわい〜いっ! ねっ、ひらめ。あの子、手を振ってくれた! かわいいよね」


「このクルマに乗ってると、小さい子から手を振られることが多いよ」


「こんなゲスな男なのに? 違うな・・・。このカエルちゃんが可愛いからだな。ひらめは手を振りかえしちゃダメだよ。犯罪になる」


「・・・意味が分からん」


「恭子が『ひらめと目を合わせると妊娠させられる〜』って騒いでたもん」

「待て待て。どこまでメルヘンの世界の住人なんだよ。やることやらんと妊娠もさせられん」


「ちょっとさ。『夢の国』なんだから下ネタはやめてよ」

「えっ? 真央さん? この流れで俺か?」


「あ〜、ひさしぶりだ〜! 楽しみだね」


(今日の真央さんは抜群にかわいい・・・)


ジーンズに白いノースリーブのシャツを着て、ナチュラルメイク。

いつもはヒールを履いている真央だけど、今日は歩きやすいスニーカーだ。やる気を感じる。


「・・・聞いてる?」


いつもよりちょっとだけ、背の低い真央が腕に絡みつき、見上げてきた。


「ごめん。聞いてなかった」

「大丈夫? ひらめらしくないぞ。二日酔い?」


「ないない。なんか、真央さんがいつもにも増して、かわいいから見惚みとれてた・・・」

「うん。ありがと」


幌を閉め、クルマを離れる。


「ひらめ、今日はたくさん楽しもう」

「うん」


やけに真央との距離が近い。さっきからずっと腕に絡みついてくる。


「真央さん。おっぱいが当たってる・・・」

「うん。今日は良いの」

「・・・」


普段だったら「変態っ!」とか「スケベっ!」と怒るはずなのにリズムが狂う。


ひらめの前に腰に手を当てた真央が立ちはだかる。


「ひらめ、今日は真央が、ひらめを楽しませる! なのでルールを守って欲しい」

「・・・」


「今日の真央は、ひらめの彼女。おっぱいが当たっても気にしないこと」

「・・・うん」


「彼女のおっぱいくらいじゃ興奮しないでしょ?」

「いや、するよ。絶対する。間違いなくする」


「するなよ・・・。今日だけは我慢して・・・」

「分かった」


「もうひとつ『真央』って呼ぶこと。『真央さん』は禁止っ」

「おっぱいはまだしも、それは照れるなあ」


「じゃ、おっぱいも禁止・・・」


周りを歩くカップルが笑いながら歩いていく。


顔を赤らめた真央が、急いで、ひらめにしがみつく。


「今の絶対、聞かれたよね。恥ずかしい・・・」

「朝から『おっぱいも禁止』って俺も恥ずかしいわ。というか、おっぱいの何が禁止か分かんないし・・・」


(かわい過ぎるから、照れながら睨むな・・・)


「ね。お願い・・・」

「うん。俺は真央の彼氏ね」


「今日だけだからね。今日だけ。ディズニーランドは恋人同士の方が楽しめるんだよ・・・。だから、今日だけ・・・」

「なんで『今日だけ』を強調した?」

「・・・」

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