第六話「弱い人間だから、誰とも本音で話したくない」

「嘘つき」以前にも真央に言われた。


ひらめは、他人からどう思われても、自分を守るために、本心をひた隠し、を演じている。


そんな自分を見透かされているような気がしてイライラしていた。


隣に座っている娘をにらむ。


真央はひるむことなく、睨み返す。


「本気で言ってる? 私の目を見て答えて」

「・・・ごめん。嘘、本心ではない・・・」


「うん。素直でよろしい」


(このままでは、この娘のペースに巻き込まれる・・・)


「真央さん、酒飲まないのに今日は大丈夫なの?」

「普段は飲むよ。ただ会社の人の前では飲まない」

「・・・」


真央曰く、お酒を飲んでガードが緩くなると、絡んでくるウザい男がいる。女子として保身のため、会社では飲まないそうだ。


(じゃあなんで、いま飲んでんだよ)


「私が飲めることを知ってるのは、ひらめくんだけだから、話したら直ぐ分かるからね」

「うん。内緒にしておく・・・。でも、なんかズルくない?」


「ひらめくんだって、無理してるでしょ? 一緒だよ」

「まあ、仕事だからね・・・」


「やっと本当のことを白状したね」

「・・・」


ひらめは、人間の好き嫌いが激しく、集団行動が苦手だ。加えて、他人に関わるのが面倒くさいと思っている。


絶対にバレていない自信があった。


「真央さん、いつからそう思っていた?」

「研修のとき。入社式のときの雰囲気と違っていたから」


(入社式で話したか?)


「タバコ・・・。すごくダルそうに吸ってたでしょ?」


「ああ、真央さんに睨まれたときか」


「睨んでないからね。ただ同じ会社の人だったら嫌な奴だと思った」


「こっちだって、いきなり睨まれたし、生意気なオンナだと思ったよ」


「睨んでないから」


「研修のとき、鈴木さん・・・、恭子ちゃんだっけ? と盛り上げていたでしょ?」

「うん」


「なんか、この人、無理してるなと」

「う〜ん」


「それで、懇親会のとき、ひとりで逃げてたのを見かけたから」

「逃げてねーし」


「嘘だね。ひとりで喫煙所にいたでしょ?」

「・・・」


「他の女子たちと直ぐに仲良くしてたのに、なんか冷たかった・・・」

「そうね・・・。真央さん、なんか重いんだよ」


「・・・どういうこと?」


(その殺人者みたいな目で睨まないでください・・・)


「軽くないんだよ。なんか重苦しい・・・。俺は、誰とでも軽い関係でいい」

「・・・」


「建前でテキトーに誤魔化せばいいんだよ。なのに真央さんは真剣というか、重い・・・。よう分からんけど・・・」


何の疑いもなく、他人を信じれる真っ直ぐな人間が苦手だ。お互いの利害関係を無視して築く関係なんて求めていない。


「俺は、誰とも本音でなんか話さない・・・。と思う・・・」


自分を守るために会社での顔、家族の前での顔、友達の前での顔を使い分けている人たちばかりで、本音で語るなんてことはない。


弱い人間は、自分の価値観に自信がなく、否定されることが怖い。だから、テキトーに周りに合わせて、求められるキャラを演じている。


少なくとも、ひらめはそうやって生きている。


「真央さんが本音で話してくれるのが重く感じるんだ・・・。俺は誰とも本音では話したくない。なのに、真央さんは隠したいはずの本音をぶつけてくる。だから真央さんが苦手・・・。ごめんね」

「・・・」


「もっとテキトーでいいと思うんだ。変な話をしてごめんね。よし、帰ろ。また機会があったら飲もう」

「うん」


後味が悪いが思っていることは伝えた。苦手な人間に嫌われても問題ない。

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