第四話「目立つ新人は、飲み会要員として呼ばれる」

ひらめをとして感じていたのは、ひらめの教育係の石田も同じだった。


ひらめは、入社して約三週間、毎日のように本部長から注意を受けている。石田は、可愛い後輩が凹んでいるかと思い、何度も飲みに誘っているが本人は気にしていない。


「ひらめ。俺の彼女が会いたがってるから、飲み行くぞ」

「飲みに行くのは全然OKなんすけど、石田さんの彼女さん知らないし・・・。会いたがってる意味も分かんない・・・」

「良いから。行くぞ」


待ち合わせの店に着くと、ひらめたちに気づいた女性が、立ち上がり手を振ってきた。


(かわいい・・・)


「石田さん、あの女性ひとが彼女さんすか?」

「そうだよ」

「めちゃくちゃ、かわいいじゃないですか」


「どうも、中井です。彼女さん、かわいいですね。天使、いや女神っす」

「ありがと。聞いてるよ〜。ひらめくんでしょ?」


「そうとも呼ばれています。よろしくお願いします」

「よろしく〜」


「琴ちゃん、待った? こいつが噂のひらめ。社会人ぽくないでしょ?」

「うん。想像以上に軽い」

「だろ?」


「ひらめくん。私、琴音。この娘は真央、知ってるでしょ?」


(真央さん・・・。苦手なんだよな・・・)


ひらめは、研修会の喫煙所以来、真央に苦手意識があった。


さりげなく、緩んだネクタイを締め直す。


「ひらめくん、ひさしぶり。元気だった?」

「うん・・・」


「なんだ、ひらめ。お前もかわいい娘と仲良くなってんじゃん」


「石田さん。仲良くなんかなってないっすよ。この娘は研修のと・・・」

「ひらめくんとは、話さなかったけど目立つじゃないですか〜」


「あのですね。研修で・・・」

「すごく盛り上げていたし・・・。琴音さんも聞きましたよね?」

「聞いたよ。いきなり、下の名前で呼んできたり、タメ口で話してくる軽い男がいるって」


「・・・」


「「乾杯っ!」」


「ねえ、石田くん。教育係の先輩として、この頭は注意しないの?」

「そのうち、本人が気づくだろ? な、ひらめ!」

「気づくかな? 自分の頭って、自分で見れないんすよ」


石田が隣に座るひらめの頭をぐちゃぐちゃにする。


「見えてる癖に。めっちゃ前髪、邪魔そうじゃん」

「石田さん、個性っすよ、個性。この見た目なら一発で覚えてもらえるでしょ? 絶対に得することの方が多い・・・と思う」


「うん、絶対に忘れない。ヒト間違いとかも、ないしね〜」

「でしょ? 琴音さん。きっと、お客さんも直ぐ覚えてくれますよ」


「ひらめ・・・。『でしょ?』じゃないから、会社の代表なんだぞ? そんな頭の奴が来たら、相手はどう思う?」

「オモロイ奴、来たな・・・かな?」


「確かに・・・。面白い奴、来たなって思うね」

「琴音さん。分かってますねっ。そういうことですよ!」


「琴ちゃん・・・。こいつ、本気にするから・・・」

「えっ? 琴音さん。本気っすよね?」

「・・・」


ひらめは、石田を持ち上げ、琴音と真央を笑わせる。


あっという間に二時間が過ぎた。


「ひらめくん。また飲みに行こうね」

「次は、琴音さんと二人きりがいいっすね」


「待て待て。ひらめ。俺の彼女だって」

「石田さん。こんなかわいい彼女を独り占めはズルいっすよ。琴音さん、次は二人っきりで行きましょう」


「あはははは。本当に軽い。ありがと。また今度ね」


石田が会計を済ませ、先輩カップルは腕を組みながら、夜の街に消えていく。


「じゃあな、ひらめ。また来週!」

「ひらめくん。真央をよろしく」


ひらめは、苦手な娘と新宿の街に取り残された。

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