第三話「社会人として非常識だけど、可愛がられる」

サラリーマンに個性はいらない。周りに合わせ、目立たないように生きるのが、のサラリーマンだ。


ひらめは、頭の中では理解をした。だけど、周りと同じサラリーマンにはなりたくない。


そんなひらめを煙たがる大人と可愛がる人間がいる。


配属初日の朝礼で、ひらめたち新人の自己紹介が行われた時もそうだ。


社会人としての常識を押し付けてくる古い人間からは「いつまでも学生気分でいるんだ? 社会人としての自覚を持て」と叱咤激励しったげきれいを受けた。


(待て待て。学生のうち、どれ位の人間が金髪だと思ってるんだ? 学生も社会人も変わらんだろ・・・)


反対に、奇妙な生物を見て興味を持ってくれる人間もいる。


朝礼後の社内清掃時に、先輩女子社員に話しかけられた。


「中井くん、それは派手すぎるな」

「そうっすよね。ちょっと目立ち過ぎますよね」


「でも、私はありだと思うよ。中井くんみたいな人間がいると助かる」

「どういうことっすか?」


避雷針ひらいしんだよ。流石にそこまでは派手な格好は出来ないけど、誰でも個性を出したいと思ってるハズ。中井くんが目立てば、私たちもラクにできる」

「・・・」



配属された部署での新人歓迎会が行われた。


「今年も優秀な新人が四人も配属されました。先日の朝礼で自己紹介は済んでいるので、今日は親睦を深め、少しでも早く職場に馴染めるように先輩としてアドバイスをしてあげてください」


各新入社員は、各々、上司、先輩方に呼ばれ、席に着く。


「ひらめくん。こっちおいで」


ひらめは先輩女子が集まる下座に呼ばれた。


「「お疲れ様!」」


「そういえば、なんで『ひらめ』って知ってるんすか?」


「女子のネットワークを舐めちゃダメだよ」

「すごい噂うわさだよね」

「システム部の金髪新人『ひらめ』くん。結構、悪名あくみょう高いから」


「・・・」


「すごいよね。普通のサラリーマンは金髪にはできないよ」

「よく就職できたよね」

「社会人としてどうなの?」


「あざーすっ!」


「「いや、褒めてないから」」

「・・・」


「いいな〜。メグも明るくしたいな〜」

「似合いそう・・・。キャンディキャンディみたいな感じで可愛くなりそうっすね」


「待て待て。金髪を流行らせてどうする?」

「メグが金髪にしたら、俺、銀色に染めようかな」

「そうね、被らない方が良いよね」


「そうじゃないでしょ」

「そうか、きよえ。なかなか考えてるね。みんなで金髪の方が目立つ。数の暴力って感じで・・・」

「なるほどね。気づかなかったっす。一理ある」


「だから、金髪も銀髪も社会人としたら、おかしいでしょ?」

「・・・。そうなんすか? びっくり〜」


「期待の院卒新人が、これだもんな」

「どう見ても、イチバン社会人ぽくない」

「・・・」


「ネクタイもユルユルだし、お前は歌舞伎町の呼び込みか?」

「あの人たちは、もっと派手なスーツ着てるじゃないですか? 僕なんて、まだまだっすよ」


酔った部長がひらめたちのテーブルにやってきた。


「中井、お前は目立って恥ずかしくないのか?」

「全然、恥ずかしくはないっすね・・・」


「最近の若者は、そんな頭が普通なのか」

「最近の若者は就活でみんな黒髪っすよ。明るい髪色だった女子も黒に戻す娘が多いっすね」


「そうだよな。そんな頭の人間は少ないよな」

「多かったらやらないっすよ。目立たないから」

「そりゃそうだな。あははは」


酔った部長はご機嫌で戻って行った。


「ひらめくん。サラリーマンは目立つ必要はないんだよ」

「そうなんすね。はじめて知った」


「・・・」


ひらめは配属から二週間が経つと先輩からイジられ、揶揄からかわれるキャラとして、直ぐに職場に馴染んだ。


異端児として目立つことは悪いことばかりではない・・・。と思う。

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