第二話「非常識で目立つから、イジられる」
研修会の後、簡単な親睦会が開かれることになっていた。
女子が中心になり、懇親会の準備が始まる。
社会人として非常識で、目立つ金髪のひらめは、あっという間に女子たちに名前を覚えてもらえた。
「ひらめくん。これ、あっちに持っていって」
「うん」
「ねえ。ひらめくん。そのお皿、取って」
「うん」
「ひらめくん。コップ並べて」
「うん」
「待て待て。俺、忙しくない? 他の男子はどこ行った? っていうか、ひらめの名はもう捨てたのだ。僕はひらめじゃない。反応する必要はない。社会人として目覚めた僕はタバコを吸いに行きたい・・・良いよね?」
「ひらめ〜。やってからにしろ〜」
「だから、ひらめなんて人はいないんだよ」
「「良いから手を動かす!」」
懇親会の準備が一段落し、ひらめはタバコを吸いに会場を出る。
「恭子ちゃん、まだ時間あるよね? タバコ行ってくる」
「急いだ方がいいよ」
「うん。マッハで行ってくるよ」
ひらめはみんなが会場に入る中、ゆっくりとした足取りで逆流し、喫煙所に向かう。
「「お疲れ様!」」
親睦会がはじまった。
あちこちのテーブルでは、お互いが優位に立つための駆け引きをしている様子が見て取れる。
喫煙所から戻ったひらめは、壁を背にしてビールを飲みながら周りを観察する。
特に、仲良くなりたい人間も見当たらないし、寄ってくる人間もいない。それでも、ひらめは良いと思っている。面倒くさい人付き合いなど、ない方がラクだ。
(早く終わらないかな・・・)
「ひらめく〜ん! 端っこで、なにカッコつけてんだよ〜。こっち来なよ」
「行くから、叫ばないで。というか、カッコつけてねーし」
「ねえ、ひらめくん、ずっと金髪なの?」
「謝恩会用に染めたんだ。だから、金髪歴は一ヶ月くらいかな?」
「待て待て。じゃ社会人用に染めるでしょ? 普通」
「ああ、確かに・・・。なんで染めなかったんだ?」
「いやいや。絶対にわざとでしょ?」
「ひらめくんって専門卒? 大卒?」
「俺? 院卒」
「待て待て、ひらめ。その見た目で、院卒だと? 金髪ロン毛、パーマの院生なんて見たことがないぞ?」
「恭子ちゃん、金髪なのは謝恩会用だって。普段は茶髪だよ」
「違〜う。色の話をしてるんじゃない。そんな派手な人間が、コツコツと論文を書いているなんて、想像ができない。専攻は美術か? 音楽か?」
「化学、バケガクの方ね」
「ひらめくん、バカっぽいけど、実はできる人だったりするの?」
「さやかちゃん、今、グサッと刺さることをサラッと言ってるからね・・・。そして、できる人ではないと思う・・・」
(疲れる・・・)
ひらめは派手で目立つ格好をしているけど、成功して脚光を浴びる人生、人々の関心を集める華やかな人生なんて求めていない。数人の気心が知れた仲間とひっそりと楽しく生きたいと思っている。
(ひとりになりたい・・・)
ひらめが、タバコを持って会場から出ると数人の男が声をかけてくる。男なんて、単純でスケベな生き物だから、女子が集まるところに寄ってくる。
昼間は誰も目を合わせなかったのに、お酒のチカラもあり、笑顔で話しかけられる。
会場へ戻る途中、ひらめはトイレの個室に入り、みんなと別れた。
自販機で買ったコーヒー片手に屋外の喫煙所に戻る。
電球がひとつだけの薄暗い喫煙所。
ベンチに腰をかけタバコを吸っているひらめの元に、ショートカットの娘が近づく。
「お疲れ。ひらめくんだっけ?」
「うん。そっちは?」
「真央。よろしく」
「飲んでる?」
「私、お酒飲まないんだ」
「ああ、そうなんだ・・・」
「タバコ?」
「吸わない」
「・・・」
(・・・何しに来たんだ?)
真央が、ひらめと同じベンチの端に腰をかける。
「無理してるでしょ?」
「そんなことないよ」
「・・・嘘つきなんだね」
ひらめは、本心を見透かされたような気がして、真央に視線を向ける。
真央は大きな目でひらめを見返す。
真央の視線に耐えられず、目を逸らしてしまう。
「そうかもね・・・」
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