第5話 初下校での寄り道
太陽が先導して、三人は学生証の交付所についた。交付所には先に数人が並んでいた、スタートダッシュの差で先頭は取られたがそれでも全体から見れば、前部に並べているといえる。雑談しながら列に並んで、手続きを行い学生証を発行して受け取る。
ここで初めて自分が所属するクラスが分かることになる。アルファベットと数字の組み合わせでクラスが分けられている。理系はA、文系はB、芸術はC、体育はD、魔法はEになっている。そして、成績順に1から5に振り分けられる。
「ん、俺はE5だ」
「あ、私もだ!」
「私もです」
「俺も」
どういう偶然か、会ったばかりの3人は同じクラスだった。廊下を出て中庭で談笑していると周囲がどよめく。その騒ぎの元凶はこちらに近づてきた。
「兄さん!」
「朝日、お疲れ」
朝日は駆け足で太陽に近づいてきた。太陽は片手を上げて彼女を迎えてやる。すると、別の方向からどよめきが聞こえる。今度もとんでもない美少女が近づいてきた。
「手続きは大丈夫だったか?」
「はい、お兄様はどうでした?」
「Eの5だったよ」
「あら、残念。因みに私はEの1でしたよ」
「嫌味な答えだ」
辰馬は辟易とした表情で顔を顰める。心泉の口は中々に辛辣なようである。すると、先程とは比べられない位に周囲からの注目を集め始める。
「うーん、場違い感がある」
「そうか? 陽斗も十分整っていると思うが」
「いや、なんというか、うーん、そういう事じゃなくて」
陽斗は困ったような顔をして、頭を掻く。
すると、太陽はいつまでも集まっていても邪魔だと考えたのか、移動を提案する。
少し歩きながら、熱心についてくる人間を撒いてやると、中庭のようなところで一息つくことにした。
「うーん、初日からこれとは、最終的には何ができるやら」
「まぁ、別にいいのだがな」
「ストーカーには気を付けんとな」
初日に熱心につけて回ろうという人間がいたのだ、学校生活を続けていく上で最終的に熱心なラブコールを受け取るかもしれないと考えると頭の痛い問題だったりする。
「今気にしてもしょうがないですので、一旦置いておきましょう。兄さん、他の皆はどうしました?」
「んー、帰ったようだぞ。今日は入学祝だし、ごちそうの買い物もしたいらしいから」
「そうですか。……私はどうしたほうがいいですか?」
「今日は少し寄り道して帰るか、学校周りを見てみたいし。あいつらにも情報共有できるかもしれないしな」
「なるほど、なら私も同行しましょう」
「じゃあ、私たちも」
「俺も」
太陽が行動方針を決めて、朝日もそれに賛同すると、他三人もついていく事に決めて、行動が始まった。
* * *
太陽たちは人の目から隠れながら、学校を脱出し、学校周辺の散策を開始する。
伊月高から最寄り駅までは100mくらいのメインストリートでつながっており、文房具店や雑貨店が並んでいたり、若い人に人気がありそうなカフェが営業していたり、ゲームセンターも並んでいた。
そんなメインストリートは入学式を終えた伊月高生であふれていて、真新しい制服に身を包んだ初々しい少年少女が、騒がしく歩いている。
「なんか混んでいるみたいだし、外れのほうから歩いていくか」
「飲食店で少し食事をしたいです」
太陽たちは大通りを少し離れてカフェを探して少し歩くと。
「こっちから美味しそうな珈琲の匂いがする!」
「そんな匂いがするか?」
「朝日がいうならそうなんだろう。行ってみよう」
陽斗は朝日の発言を疑問に思ったが、太陽は朝日の言葉を信じているのか朝日の案内で珈琲のお店へ向かう。辰馬と心美も意義は唱えずついていくので、陽斗は訝しみながらも四人についていく。
大通りを外れて60mくらい歩いたところにある喫茶店。名前は『ドフト』というらしい。入ってみると、カウンターとテーブル席に分かれていて、席はかなり空いていた。クラシックの静かな音楽も流れている。
「いらっしゃいませ」
品の良い声が響くと、カウンターでカップを磨いていたマスターがこちらを見てきた。
少し目を見開くがテーブル席を案内し、お冷を置くとカウンターへ戻っていった。
5人はメニューを開いてそれぞれ頼みたいものを頼むことにした。
「珈琲にしようかな」
「じゃあ俺も」
「俺も」
「私は紅茶で」
「俺はー、紅茶の別の奴にしようかな」
朝日、太陽、辰馬は珈琲にして、心美と陽斗は別種の紅茶を頼んだ。
注文するとマスターが作り始める。
「いい感じの場所が見つかったな」
「朝日のおかげだな」
「そうね。ここに時々来ましょうか」
「まぁ、余裕があるときにだな」
注文したものが到着すると世間話をしながら、味を楽しみ、満足感を覚えながら帰路に就いた。
その後、太陽たちは家に帰ると、朝日の首席合格おめでとうのパーティーをしてその日を終えた。
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