三 意外な原因
まあ、この時はそれですんだんですが、もう明らかに何かがおかしいですよ。ただ怒りっぽくなったなんていう話じゃすまされない。
何か、この世ならざるものの力が働いているとしか思えないんですよね……。
でも、誰かに相談しようにも母親や妹、女友達だと冷静でいられなくなってしまいますからね。怒りを覚えずに話をするとすれば男性にするしかない。
そこで、何こいつ、変なこと言うやつだなあ…と思われるかもしれないし、本当は嫌だったんですがね、他にこんな相談できるような相手もいませんし、仕方ない、A子さんは最近付き合い始めたカレシに相談してみることにしたんですね。つまり、私が一緒に仕事しているスタッフの彼ですよ。
すると、A子さんの心配とは裏腹に、彼は意外にも大真面目に話を聞いてくれて、A子さんの言うことを信じてくれました。
A子さんは知らなかったんですがね、じつは彼、オカルトというかそういう霊の話とかが大好きなんですよ。まあ、私はよく存じてるんですがね。それで思いの外に興味を持ってくれたんですね。
ともかくも、キャバクラ前での出来事を聞いたカレシは、ちょうど無類のキャバクラ好きな友人がいたんで、その友人を頼っていろいろ調べてみたんです。
そのA子さんが店の前に立っていたというキャバクラに通って、そこの女の子からこっそり裏話を聞かせてもらったりしてね。
そうしたらですよ。ちょっと気になることがわかったんです。
そのキャバクラ、じつは以前、店のNo.1キャバ嬢に入れ込んだ客が破産した挙句、彼女への恨みつらみを書き連ねた遺書を残して自殺するっていう事件があったらしいんですね。
しかもそのキャバ嬢、A子さんが店の紹介写真を確認したところ、案の定、あの抑えきれないほどの怒りを感じたあの女性だったんですよ。彼女の写真を見ただけでも、あの時の激しい感情がふつふつと甦ってくるんです。
A子さんが女性にだけ怒りを覚えるようになったのと、そのキャバ嬢の間になんらかの関りがあるのは間違いない……そうした事実から、A子さんのカレシはある仮説を立てたんですね。
もしかしたら、A子さんがネットのフリーマーケットで買ったブランドもののショルダーバッグ、自殺した客がそのキャバ嬢へプレゼントしたものだったんじゃないかと……。
だから、そのバッグに宿った客の怒りや恨みのようなものが、A子さんにも移ったんじゃないかというんですね。
いや、実際にそのキャバ嬢が自殺した客にひどい仕打ちをしていたのか? それともその客が勝手に期待を膨らませて逆恨みをしたのか? それはどうだったかわかりませんよ。
でも、そのキャバ嬢に強い恨みを抱いて自殺した客が一人いるのは確かなんだ。
そこでA子さん、そのショルダーバッグを買ったフリーマーケットのサイトで出品者の情報を改めてよく見てみたんですね。
すると、そのサイトは自分の情報ページにアイコンを設定したりもできるんですが、そのアイコンの写真、やっぱりあのキャバ嬢に似てるんですよ。
まあ、昨今は画像処理ソフトでみんな同じような顔にしてしまってるんでわかりませんけどね。だけど、その女性の写真を見ていても、自然とあのキャバ嬢に感じたのと同じ強い怒りが湧いてくるんです。
それにそのIDの名前も、あのキャバ嬢の源氏名とどうも似てるんですね。アルファベット表記なんでまったく同じじゃあないですし、源氏名をそのままIDに使うようなこともないような気がしますがね。
でも、さらにその出品者、A子さんの買ったもの以外にも、どうやらブランド品を大量に出品してるようなんですよ。しかも頻繁に。
ブランドは一つのところだけじゃなくいろいろとあって、あのショルダーバッグほどの破格の値段ではないんですが、やっぱりみんな手が出せるくらいのお値段なんです。
ブランド品の卸売り業者とか、そうして割安で商品を手に入れられるような人間が、わけあり商品なんかをこっそり出品してるって可能性もないわけではないでしょうけどね。
だけど、そうでなかった場合に考えられるのが、やっぱり水商売系の女性ですよ。お客からよく高級ブランド品を貢がれるような人気のキャバ嬢だったら、そんなにたくさんあっても使わないし場所をとるだけなんで、捨てるのももったいないし、質屋に持っていくかフリーマーケットサイトで売りに出すのがまあ、常套手段でしょうからね。
もし、A子さんの推測どおり、この出品者があのキャバ嬢と同一人物だとしたら、あのショルダーバッグが自殺した客のプレゼントだったってことも充分考えられます。
そう考えると、なぜあんな破格の値段だったのか? その理由もなんとなくわかる気がしますよね。
使わないからいらないってのもありますが、自殺した客からもらったプレゼントなんて、手元に置いておくだけでも嫌ですからね。なるべく早く手放したいと思うのが人情ってもんでしょう。
おそらくですけど、男がプレゼントしたブランド品はあのショルダーバッグだけじゃなかったでしょうから、A子さんは見なかったんですが、他にもいろいろ破格の値段で出品されていたかもしれませんね……。
他のブランド品を購入した人達はどうだったんですかねえ? やっぱりA子さんみたいに怒りっぽくなったり、気がつくとあのキャバクラの前に立ってるなんてことがあったりなんかしたんでしょうか?
あのキャバ嬢の身に、何か大変なことが起こる日も近いかもしれませんね……。
(ブランドもののバッグ 了)
ブランドもののバッグ 平中なごん @HiranakaNagon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます