第23話 魔術師の妻

 窓から、葡萄畑が見える。

 冷涼地に耐える品種の、故郷の葡萄畑。

 西部の北寄り、モンフォール伯の領地と二つの川に挟まれて菱形に近い形をした小さいけれど肥沃な土地であるユニ領の。

 ということは、ここはわたしの家?

 ぼんやりと霞がかかったような意識で部屋を見回す。

 木組みの天井、壁には草花模様のタペストリーが掛かっていて、部屋の扉を開けてすぐの壁際には暖炉、すぐ目の前に厚い毛織物のかかった寝台がある。

 なんだか目線が低い。

 まるで小さな子供みたい……そう思った時に、マリーベルと名前を呼ばれた。

 柔らかくて優しいすこし儚さも漂わせる、母様の声。

 なあに、と返事をしたわたしの声は小さな子供の声だった。

 ああ、これは夢だ。

 ここは母様のお部屋……小さな子供のわたしは臥せているお母様の寝台の側にいる。母様は普段は元気だけれど、時折熱を出して横になることがあった。

 

『ごめんね、遊んであげられなくて』


 ううん、と頭をなでてくれる母様にわたしは首を振る。

 母様は、“きこうのへんかによわい”のだと父様が言っていた。


『だって三日もお外が白くて少し寒かったもの、“きり”っていうのですって。ジャンおじいさんがね、ユニ領がゆたかなのは“きり”のおかげだって』


 わたしが村の農夫のお爺さんから教わったばかりのことを自慢げに話せば、そうと目を細めて母様は微笑んだ。

 わたしと同じ緑色の瞳。栗色の髪。

 母様は貴族の縁戚の娘らしく、淑やかでふんわりと花がほころぶような柔らかい雰囲気の人だった。

 

『本当に、あなたは賢くていい子ね……マリーベル』


 再び頭をなでられ、褒められたこともあってすこしくすぐったいような気持ちで、かあさま……とわたしは枕元に甘える。


『ジャンおじいさんもかあさまに早く元気になってほしいって。お家の裏に植えてる豆のツルが元気にならないから、かあさまに見て欲しいって』

『そう、それは困ったわね……だれかが悪戯しているのかしら』

『いたずら? 村のひと?』


 首を傾げたわたしにそうではないの、と母様は少し困ったように微笑んでゆっくりと首を振る。

 じゃあだあれ?

 尋ねたわたしに、そうねえと……母様は目を閉じた。


『おつかいを頼んでいいかしら、マリーベル』

『おつかい?』

『ええ。あなたも皆から好かれているから』


 わたしも好かれてる……?

 皆って村の人かしら……たしかにみんな親切だけど。

 やっぱり夢だ。

 いまのわたしと子供のわたしの考えが混じっている。


『かあさま?』


 ふと窓の外を見たら白い靄で葡萄畑は霞んでいた。

 葡萄畑だけじゃない、気がつけば部屋の中も白い靄に包まれている。

 見る間に真っ白にすぐ側にいるはずの母様の姿も、なにもかも見えなくなる。


『でも気をつけてね、マリーベル』


 霧だ……濃い霧の中でわたしは子供から大人に戻っていた。

 母様の話す声が遠く微かに聞こえる。


 ――……達は、よいものばかりではないから……。


 なに? はっきり聞こえなかった。

 なんて言ったの?


「……ぁ……さ、ま……?」


 白い霧はいつの間にか閉じた瞼の暗い視界に変化し、夢うつつなままわたしは薄く目を開く。

 ぼんやりと明るい昼の光と、きらきら繊細に輝く銀色がちらついた。


「マリーベル?」


 なにかひどく気遣わしげな耳に心地よい低い声に囁くように呼びかけられた。

 

「大丈夫ですか?」


 片頬にふれるふかふかした枕が心地よくて、まだぼんやりしている意識の中で懐く。再びまどろみかけて、はっとした。

 寝かされていた寝台から勢いよく起き上がろうとして、立ちくらみのような目眩に失敗し、再び寝台に仰向けに倒れ込む。


「急に動いては……っ!」

「うっ! ぅうん……っ。ここは……王きゅ……あれ?」


 目に入った落ち着きはあるけれど豪華な部屋の様子に、一瞬どこにいるのかわからなくなった。

 すぐ近くから、「しっかりしてください」といった言葉が聞こえて、声の方向へと顔を向ける。

 冴えた月の光を紡いだような銀色の髪、ゆったりしたシャツと膝下丈の脚衣を身につけて、紺地の足首まである長さの絹のナイトガウンを羽織った魔術師が寝台の側に椅子を置いて腰掛けていた。


「ルイ……」


 随分と寛いだ恰好だと思いながら彼の名を口にして、そうだここは寝室だと胸の内で呟く。

 フォート家の、わたしの。


「目が覚めましたか? マリーベル」

「……はい」

「気分が悪いなどはないですか?」

「特には」

「ひどく体や頭が重いなども?」

「ええ」


 質問してくる魔術師にぼんやりと答えれば、よかったと彼は心底安堵したように息を吐いた。

 どうしたんだろ。


「どうしたの?」

「……マリーベル。貴女、丸三日眠っていたんですよ」

「三日……」

「ええ」

「三日!?」


 なんてこと、そんなに眠っていたら家の事が溜まりに溜まってしまうと、今度こそ上半身を起こした。


「そんなっ、手紙や伝票や、薬草の始末がっ」


 魔術師が領地のあちらこちらへ出向いては様々な問題を解決しているから、そのお礼状やら、なにかフォート家持ちで処理したらしい請求書やら、いまだに遠方からお祝いやらとなにかと届くものが多い。

 フェリシアンさんが処理してくれているけれど、挨拶もままならないでいる領主の妻の立場としては、せめて返事の手紙やカードくらいはと書いていた。

 屋敷の中も相変わらず大部分が放置されたままでいるし。

 それに薬草園の様子を見て、頃合いの薬草をエンゾさんに頼むか自分で摘んで束にしておく作業もある。

 薬草は生育状態や摘み取る時間帯で薬効の強弱に影響する。

 薬として使うために育てている薬草園だ、きちんと使えるように処理しなければ意味がない。


「そんなことはいいですから。まあ助かりますけど、特に薬草の類はエンゾはあまり詳しくないため……ですが当面、安静に様子見です」

「安静?」

「貴女、いきなり精霊の道に連れてかれて、おまけに術だけは仕込み終えたばかりのアレを私が教える前に動かしたのですよ。消耗しているはず」

「消耗……?」


 魔術師に言われて、自分の状態に意識を向けてみる。

 特に疲れも感じないし、違和感もない。

 むしろ沢山眠っていたせいかすっきりしていた。

 寝具の中で少し足を動かしてみたけれど、特に問題もなさそうだ。

 魔術師の前だけれど、腕をうんっと前に伸ばし、続いて天井へと向けて伸ばしてみる。


「全然。なんともなさそうですけど?」

「そんなはず……」

「そうだ、リュシー! リュシーはどうしてる!?」


 だんだん頭がはっきりしてきて、温室に置き去りにしたリュシーのことを思い出した。

 たぶん心配させてしまったはずだ。


「彼女なら自室で休ませてます。戻ってきたら、この屋敷に不意の来客がないことを伝えられなかった自分の責任だと泣きじゃくっていました」

「そう」

「貴女の側を二晩の間、寝ずに離れずにいて……流石に三日目は保たずにうとうとしだしたところでオドレイに自室へ運ばせ、いまは休んでいます」

「あとで謝らないと」

「貴女に非はない。色々と教えるのを後回しにした私の責任です」


 申し訳ありません、と魔術師が謝罪に頭を下げる。

 その後頭部を見下ろし、ええそうねと私は声を低めた。

 リュシーを温室に置いてからのことが、次から次へと糸をたぐるように思い出されてくる。

 本当にまったく、この魔術師のおかげで。

 わたしの声音に、怪訝そうな表情で顔を上げた彼を睨むように目を細めた。


「ともあれ、ひとまず無事でよか……」

「ルイ」

「ん?」

「話があります。オドレイさんも」

「マリーベル……私も、丸一日眠っていたのですが?」

「いーからっ!」


 *****


 寝台の上から、側に椅子を並べて神妙な様子で腰掛けている麗しい男女二人を見下ろす。

 見下ろすといっても、二人共背が高いからほぼ目線の高さは同じではあったけれど。


「あの、奥様……」

「黙って」

「はい」

「ここは大人しく彼女に叱られましょう、オドレイ」

「ここは? 大人しく?」


 魔術師を睨みつけながら大きく息を吸って吐きだした。

 言いたいことなら山程ある。

 まずはあの蔓バラ姫。


「一体、なんなのあの人……いや精霊はっ?」

「彼女は蔓バラ姫といって、フォート家が小国王家の頃から付き合いのある古精霊です。ああ見えて大変に強力な精霊で多くの眷属を持ち、人の目で見える形に姿も取れます」

「そういえば守護精霊がどうのと仰っていたような……」

「彼女が一番最初にフォート家と盟約を結んだ精霊なのですよ」


 なんでも。

 彼女は基本的にフォート家の血筋やその血を繋げる配偶者に親しみを持っていて、なにかと近づいてくるらしい。

 守護精霊ならいいのではと一瞬思ったけれど、貴女もすでに知っての通り人間の常識や感覚では推し量れないのが精霊なため、不用意に相手をするのはよろしくないと接触は最小限としていますと補足する様に魔術師は説明した。


「そこへ結婚なんて、あのお祭り好きの彼女のことです。絶対に貴女に直接手出ししてくるに決まっている」

「はあ」

「貴女は魔術師でもなければ精霊の子孫でもない。精霊との付き合いは人間のようにはいきません。ほとぼりが冷めるまで屋敷内に出没するのは遠慮いただこうと」

「締め出した、と」

「そうです」


 元々、フォート家は人ではないものの血を引く使用人が多い。

 そういった者は、精霊が誘いにやってきやすく魔物にとっても恰好の餌。

 それに魔術師自身も、彼の命を狙う者は人にも人でないものにもいるし、日頃の魔術研究の中には外に漏れては危険なものもある。

 フォート家には代々の当主が引き継いできた護りが何重にも屋敷全体と各所に掛けられていて、さらにはその時々の必要に応じた護りも施されている。

 たとえば、目眩しの魔術。

 森の中の屋敷は、無関係な人間にはその場所がわからないようになっているらしく、屋敷に近づいても方向を違えて延々と森の中を彷徨う術が一番外側に掛かっているらしい。

 そのため、魔術師が訪問を許可していない、屋敷の使用人達も知らない不意の来客などあり得ないのだそうだ。

 蔓バラ姫が言っていた、このお屋敷は何重にも見えない鍵がかかっている箱の中にあるようなものとはそういったことかと、魔術師の話を聞いて理解した。


「それならそうと教えておいてくれれば……」

「精霊なんて、魔術師でも聖職者でもない人にいきなり話してすんなり想像してもらえる客人とは思えません」

「そうかもしれませんけど」

「こちらにいらしたばかりで右も左もわからない新妻の貴女に、物騒な話をして怯えさせたり無用の心配をかけさせるのもしのびない」


 魔術師の理由はわかるけれど、納得はいかない。

 正直、あんな力業を使って人を妻に娶っておいて、どうしてそんな大事なことを黙っているのと不満だった。

 だってそれって、わたしをフォート家に迎え入れておきながら信用してないってことじゃない。

 いやまあ離婚するつもりでいるから別にいいんだけど……ううん、やっぱりよくない。


「オドレイさんも同意見?」


 尋ねれば、ですから私は忠告しましたとぼそりと魔術師に呟いたオドレイさんに寝台の上で思わず腕組みしてしまう。

 魔術師を見れば、涼しい顔をしている。

 

「オドレイは伝えたほうがよいのではと言いましたが、精霊は基本的に気紛れです。一ヶ月もすれば飽きるだろうし、その程度なら凌げると判断したので」

「凌げなかったから、こうなったのですよね?」

「不可抗力です。蔓バラ姫の眷属やお仲間の騒ぎに引き寄せられて、まったく関係ない魔獣が出てきたから不覚にも彼女を阻む護りを緩めてしまっただけで……」

「お話にならないわ!」


 思わず部屋の外まで聞こえそうなほどの大声を上げてしまった。

 奥様、と。

 とりなしの声を掛けたオドレイさんの左手に包帯が目に入って、ますます腹立たしくなった。 

 蔓バラ姫と対峙した時、魔術師は彼女の血の力を借りたと確かに聞いた。


「いい歳した立派な立場の人が、事の重大さもわからないの!?」

「ですから、色々教えるのを後回しにした私の責任と謝ったでしょう」

「ええ、ええっそうよ。まったく腹が立って仕方がないわ、なにかありそうだなと薄々思っていながら悪徳魔術師のあなたのことだしと聞くのを後回しにした自分も含めて!」

「マリーベル?」


 まったくこんなに怒ったの、王宮で新米に失敗をなすりつけた侍女の指導以来だとため息を吐く。

 これはわたしと魔術師がきちんと話していれば防げた事態だ。

 リュシーを泣くほど心配させて、オドレイさんに傷まで作らせ、なにより魔術師もわたしもお互い自分の身を危険に晒した。

 東の国境の要所を領地に含んで護っている彼に万一のことがあったら、王国への影響は計り知れない。

 それに、東部の約六割を占めるロタール領は? 屋敷に雇われるまでは辛い境遇で苦労していたと聞いている使用人の人達はどうなるの? 

 フォート家の直系はルイ一人で、後継者はいないのだ。


「旦那様がそう仰るなら、私がせめて知っていることを奥様にお伝えすればよかったのです。申し訳ありません」

「オドレイさんが謝る必要ありません。非はこの人とわたしにあります」

「奥様……」

「その左手の包帯、ルイのためでしょう?」

「私の仕事です」

「あのね。護られる側が護られる気でいないのが問題なの! わたしの経験上、お世話が必要なのにされる気がない人にお仕えするのが一番厄介なの!」


 後ろ半分は魔術師にむけて、その鼻先に指を突きつけながらの言葉だった。

 魔術師は何故かびっくりしたような顔をして、はいと少々間の抜けた返事した。

 切れ長の目を見開いてぱちぱちと瞬きをしている。

 いつもは澄まし返っているような魔術師のそんな様子に、わたしはもちろんオドレイさんも少し驚いてしまった。

 少しばかり彼から身を引いて、怒ったわたしを不思議そうに眺める彼を見たけれど、特にしょげるでも気分を損ねている様子でもなかった。


「あとはこの人との話です。オドレイさんは下がっていいわ」

「はい、失礼します。奥様」


 寝室を出るオドレイさんの後ろ姿を見送って、再び魔術師を見れば今度は何故かにこにこと機嫌良さそうに微笑んでいた。


「なに、にやにやしているの……」

「流石、王妃の信頼も厚い元第一侍女と思いまして」

「それ、嫌味ですか? ちょっと怒り任せに言ってしまった自覚はあります」

「貴女のお怒りはごもっともですよ。それに自分のことだけではなく私の立場も込みで怒ったのでしょう? でなければ先程のような言葉はでない」


 フェリシアンからフォート家のことを教わっているようですし。

 ああそうだ、それはそれで文句があるわと思い出した。

 一日の内にめまぐるしく次から次へと大変な日だったと、気を失う前のことを思い返す。

 色々ありすぎて気持ちも出来事の整理も追いつかない。

 椅子に座って足を組み顎先を摘んで、心持ち唇の端を吊り上げてわたしを観察するように眺めている魔術師のふてぶてしい様子がなんとも癪に障る。


「……怒ってるんですから」

「ええ」


 だから、どうしてそんなにこにこしてるの。

 舐められてる?

 そりゃこの人はわたしの倍も歳を重ねた人だから、わたしが怒ったところで小娘が癇癪起こしてるくらいにしか見えないのかもしれないけれど。

 でもさっきちょっと驚いたような顔をしていたし。

 わからない。

 この人の考えが。


「怒ってるのよ、色々と」

「知っています。私の立場も込みなら、きっと結婚前に私がしたことも薄々気がついているでしょうし」

「王様との取引」

「ええ。貴女が問題視していた身分差を解消するには最も手っ取り早い、それにその後も貴女に離婚されにくくなる」

「信じられない」

「文句ならいくらでも受け付けます。あなたがこうして私の妻で側にいてくれるうちは」


 ふぁさ、と衣擦れの音がした。

 魔術師が椅子から立ち上がって寝台の端に移動して腰かけたのに、つい反射的に彼が近づいた分だけ寝具の中でお尻を動かして離れれば、そんなに警戒しなくてもと彼は肩を落とす。


「それはそうと……いくら人にも見えるとはいえ、よく蔓バラ姫に近づこうと思いましたねぇ、貴女も」


 魔術師の言葉に、温室から後ろ姿を見かけてと答えた。

 そういえば、それも思い出すと別の苛立ちを覚える。

 なにを考えてるのかさっぱりわからない人だけど、これだけは言える。

 この人、わたしが腹が立つようなことをすることにかけては天才的だ。


「結婚前は色々とあるようなことを仰ってましたから、一体どこのどちらの貴婦人がいらっしゃったのかと。こっちは無駄に気を揉んで、危うく精霊の連れ去られっ子になるところだったんだからっ」


 本当にまったく冗談じゃないわと怒りが再燃しそうになって、わたしは魔術師に背を向けるようにそっぽを向いて息を吐く。

 なんだか少し疲れた。

 たしかに魔術師の言う通り、多少消耗しているのかもしれない。

 もっとも丸三日も眠っていたらしいから、その間食事もとれないし単純に栄養不足でちょっと萎えているだけかもしれないけれど。


「ですから謝ったでしょう。屋敷の護りの事は、リュシーや他の使用人も知っていることなので大丈夫だろうと勝手に思っていたんです。私からきちんと話しておくべきでした」


 それくらいの時間はありました、と後ろから緩く両腕を回される。

 

「なんです?」

「怒りを鎮めてもらえませんか?」

「言うだけのことは言ったし、別にもう怒っているわけじゃ……」


 マリーベル、と回されている腕がわたしを引き寄せるように少し力が込められたのを感じて振り返れば、想定外に顔が近かったのに思わずその両頬を両手で挟んで麗しい顔を潰すようにしてしまった。ぬっ、と魔術師が呻く。


「あ、あなたはもういいのっ? 丸一日眠ってたんでしょっ」

「え、ええ……」


 顔を押しつぶすのは止めてくださいと両手を外され、紺色のナイトガウンの中に押し込められる。額に、緩く魔術師の胸を包んでいるシャツの布地が触れて、囁かれた言葉にそのまま頬を寄せてしまった。


 怖い思いをさせました――。


「貴女のお怒りはごもっとも。それになかなか痛いところを突かれた。私はいい妻を持ったようです」

「調子のいい」

「まあ、そう仰らずに。賛辞は素直に受け取るものですよ」


 まだ細かいことなら色々あるのだけど、たしかにいつまでもこうしているわけにもいかない。

 リュシーにも心配かけたこと謝りたいし。

 だから。

 

「眠っている間は食事をとっていなかったのですから、動けるのなら軽いものを用意させましょう」


 わたしを支えながらの魔術師の促しを、素直に受けることにした。

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