冒険者の手続き

カルラ山から歩くこと6時間、目の前にようやくラルム王国が見えてきた。改めてみると大きな国である。最初に見た時は街に見えたのだが、どうやらそれはこの国の中でも田舎の方に来ていたかららしい。今回は正面の門から入るので国の立派さがより際立つというものだ。俺は、そのままこの門から国内に入ることにした。


門前では兵士による検閲が行われているが、軽く犯罪履歴などを調べるだけなので過去に何もしていなければ特に引っかかることはない。ただ、俺は12歳の子供だから当然どこから来たのかを聞かれた。閻魔の森から来たと言ってもカルラ山から来たと言っても普通なら信じてもらえないだろう。しかし、このために俺はティアナから紹介状をもらっていた。ティアナはこの国では有名な人らしく、紹介状ひとつでなんなく通してもらえたのだ。


入国したあと、俺はとりあえずギルドを目指した。金が必要だからである。この国において国籍を持っていない人が手っ取り早くお金を稼ぐには冒険者しかないのだ。幸い、俺は戦闘能力に長けているのですぐにでも安定した金を稼げるようになるだろう。


ちなみに、この世界での通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種類だ。ギルドに行くついでに街を歩き回って相場を見たり、人に聞いたりしたところ、日本円で換算した一枚あたりの相場は銅貨が1000円、銀貨が1万円、金貨が10万円くらいのようだ。また、この世界には紙幣がない。貴金属性通貨のデメリットである持ち運びの不便さや摩耗による減価を、魔法で解決できるからだ。つまり、この世界には魔法があるために、紙幣のメリットがあまりないのである。


この世界の金銭感覚を確かめつつ街を歩いていると、ギルドにたどり着いた。早速中に入って簡単な手続きを踏み、冒険者の称号を手に入れた。ただ、異世界転生では王道な魔力の測定や、荒くれ者との喧嘩で力を誇示するようなイベントはなく、ただ淡々と書類を書いて手続きを終えたのである。正直ちやほやされる展開を期待していたので残念に思ったのは内緒だ。


冒険者はその実績と強さによってE、D、C、B、A、Sという風にランク分けされるらしい。それより上になるとランクという制度からは外れ、英雄の称号を与えられるのである。今までこの国で英雄の称号を得たのはティアナを含めた3人だけらしい。ティアナのレベルが3人と考えると英雄の称号というのは相当すごいものなのだろう。


俺はEランクから……と思っていたのだが、その必要はなかった。紹介状を持っていたからだ。ティアナの紹介状を受付のお姉さんに見せると少し驚いた顔をした。もうすこし……こう…大慌てでギルマスを呼ぶくらいのイベントはあってもいいのだが………と思った。しかしまあ最初からAランク冒険者の称号を得れたので結果満足である。ティアナの紹介状には仙級魔法まで使えることが書いてあり、そのレベルであれば本来はSランクにも相当するらしい。しかし、第三者の紹介で昇格できるのはAランクまでなのでAランクからは地道にランクを上げるしかないようだ。


俺はギルドの受付が終わると次に宿を探した。冒険者は基本宿に泊まるのでこの国は宿が充実していた。それだけ冒険者家業も盛んな国である証拠だろう。俺はその中でも安くて食事が2食つく手頃な宿でしばらく過ごすことにした。


翌日から、俺はギルドの掲示板にある依頼を片っ端から受けまくった。魔物討伐依頼も素材採取依頼も、俺には簡単だった。スキル『時空隠蔽カクレンボ』によるサーチ能力と魔法による戦闘能力があるからだ。サーチ能力というのは文字通り、探したい物質を生物無生物問わず探し出すことができる能力のことだ。これはスキル制御練習の一環で習得した技である。正直チート能力だと思う………。



俺は着々と依頼をこなしていき、ついにSランク昇格が目前となった。Sランクの昇格には特別な試験が必要らしい。その内容は希少レアスキル持ちの魔物を倒すことである。希少レアスキルは生物の10万分の1が所持しているスキルであり、強力なスキルが多い。そのため、Sランク昇格試験にはぴったりの魔物と言えるのだ。Sランク昇格試験には3人の試験官が付き添う。それは採点のためというよりは非常事態に対する対策のためという意味が大きい。相手にするのはSランク指定の中でも強い個体なので、安全マージンをとってのことである。


今回俺が相手にするのは、Sランク指定の魔物『群衆狼クラスターウルフ』である。そう、俺が飢えて死にそうだった時に襲ってきた狼の群れである。あの時はティアナが助けてくれなかったら俺は死んでいただろう。群衆狼クラスターウルフは一体一体はAランク相当の魔物らしい。しかし、それが何十匹と群なすことで、その圧倒的な数と統率力によりSランク指定の脅威となるのだ。と言っても俺はカルラ山でSランク指定の魔物を難なく相手にしていたので今回も問題ないだろう。


こうして、俺と試験官3人は群衆狼クラスターウルフの生息している森を訪れることになったである────

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