カルラ山での成長
カルラ山。それは純度100%の魔粒石のみでできた道も谷も見分けがつかないほど荒れた山である。標高は2000mほどと低い。しかし、魔粒石から溢れ出る高密度の魔粒子によって、吸うだけで失神するほどの強いめまいにを引き起こす空気。夏は猛暑、冬は極寒。多数のSランク指定の危険な生物たち────とても人が住めるような場所ではない。
「いい?今日から私たちはここで数年間を過ごすの!」
「え?さっきカルラ山は危険って………」
「だからこそここに住むの!そしたら強くなれるから。」
ティアナは笑顔で答えた。その元気な性格からは想像もできないほどのスパルタ思考のようだ。笑顔でとんでもないことを要求してくるものである。
「それは……流石に俺の身がもたないんじゃ………」
「大丈夫!魔粒子酔いなんて何回か失神してたらすぐ慣れるし、暑いのも寒いのもそのうち大丈夫になるって!それに君には私がいるからどんな奴が襲ってきたって死なないからね!」
「……………」
せめて、酔い止めとエアコンぐらいは用意してあってもいいと思う。ほんとに。だけど、どっちにしろ従わないとどこかで倒れて餓死するだけだろうから、俺はここに住むしかなかった………渋々……
*
最初の半年は苦痛しかなかった。昼間は40度を超える猛暑で、夜は−40度を下回る極寒。1日に2回は魔粒子酔いで倒れるし、食料を取りに行くにも足場の悪い山道を歩かなければいけない。おまけに危険な生き物に襲われないために常に身構えている必要があるのだ。これは8歳の子供の体にとっては過酷すぎるというものである。
さらに半年、この頃には魔粒子酔いで倒れる回数が3日に一回ほどになった。慣れたのだろう。普通の生き物なら立っていられないような濃度の魔粒子を耐えられる俺の体は一体どうなってしまったのだろう。
2年後、この頃になると猛暑も極寒も魔法の結界で軽減できるようになった。それでも昼の体感温度は35度以上、夜の体感温度は0度ほどと、普通に過酷な環境なのだがこれに慣れるのも時間の問題だろう。魔粒子酔いはこの頃から起こらなくなった。さらに、実はティアナに2年間ずっと魔法とスキル制御のやり方を教えてもらっていた。その成果として、魔法は聖級まで扱えるようになり、スキルも暴走することは無くなった。初めの頃は何度もスキルが暴走しかけたが、その度にティアナがその力をスキル『
*
ティアナに拾われて、カルラ山で過ごし始めてから4年、僕は12歳になっていた。まだまだ見た目も声も小学生といった感じで子供っぽいのだが、その能力は凄まじいものになっていた。魔法は仙級まで扱えるようになり、熱変動に対する耐性をある程度獲得した。これは薄い膜のような目に見えない結界を体の周りに張り巡らせているからである。ちなみに魔法は下から初級、中級、上級、聖級、仙級、神級という順である。さらにスキルは今や完璧に制御できるようになり、自由自在に使いこなすことができるようになった。カルラ山に住むSランク指定の魔物たちは今やどいつも俺には勝てない。こうしてみると俺はいよいよ化け物になったような気がした────のだが、それでもティアナには手が届かなかった。いや、手が届かないなんて次元じゃない。
俺は一度、12歳になりたての頃にティアナと手合わせをしたことがあった。自分の強さを確かめたかったからだ。ティアナの前ではスキルが使えない。この数年で、スキルを使うことへの抵抗は無くなったのだが、そもそも使えないのでは意味がない。だから、魔法で応戦することにしたのだが………ティアナは風、水系統の神級魔法が使えるのだ。風水系統神級魔法『エスプロシオン』────それは大地を切り裂き天を穿つ超暴風。天候をも変えるこの魔法はまさに神と呼ぶにふさわしい。結局、全く歯が立たずに終わった。
しかしそれはティアナが異次元すぎるだけである。実際俺は、Sランク指定の魔物を倒せるようになったのだから並大抵の冒険者とは格が違うだろう。なんせSランク指定というのは、国一つに多大な影響を与えると言われている魔物のことをさすのだ。つまり今の俺は国家存亡の危機を救えるほどの力を手にしたということなのだろう。
「ディア、4年間修行した気持ちはどう?」
「正直死ぬかと思ったけど……でも強くなれたから結果往来……なのかな?」
「うんうん!ディアは強くなったよー。いつか私にも勝てるようになるんじゃないかな!あっ、でもねディア。これだけは覚えておいて欲しいの。世の中には今の君より強いのがたくさんいるの。だから、やばいと思ったらスキルですぐに逃げること!そして魔法で私に助けを求めること!わかった?」
「うん。ありがとう!それと、今ままで育ててくれたことも………!」
「うんうん!あとは────」
「力は見せびらかすものじゃない。守るためのもの。………でしょ?その口癖はもう痛いほど聞いたから大丈夫!」
「そうそう!見せびらかしても恨みを買うだけだからね!」
「肝に銘じとくよ。それじゃあティアナ、今までありがとう。またどこかで────」
こうして俺はティアナと別れることになった。ティアナ曰く、俺はもう一人で生きていける力を持っているから、これ以上修行しなくても大丈夫だということらしい。言われたのは一週間前で急な話だったのが気になったが、きっと話す機会がなかっただけだろう。
カルラ山、4年間も住んでみると過酷なのに思い出のせいでいいところのように思えてしまった………。そういえばカルラ山って名前はどこからきたんだろう?カルラって前世で見た何かの神話にあったような……。まあ、考えても仕方ないか。俺はもうここを出るわけだし。
そして、俺はティアナの助言に従って、ラルム王国を再び目指すことにした。あの時は逃げるのに夢中で街中をほとんど見れていなかったから、今から楽しみである。
こうして俺は期待と希望を胸に、ラルム王国へと旅立ったのである。
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