ラルム王国編
猿魔消失の波紋
「街…か……。」
(グゥゥー)
「お腹……すいたな────」
どれだけ歩いただろうか。ただただ意味もなく森の中を徘徊していた俺は、街を見つけるとともに初めて自分が空腹であることに気がついた。もう立っていられないほどに目が眩み、餓鬼のような空腹に苦しめられる。無理もないだろう。飲まず食わずで過酷な環境の森の中を15時間以上も歩き続けたのだから。しかも8歳の体でである。
「なんでもいいから食べ物を………。」
そう思って街に入ろうとしたのだが、そこで俺の理性が歩みに歯止めをかけた。
「あぁ……そうだ…。誰かが近くにいたら、その人をまた消してしまうかもしれない……。じいちゃんみたいに────」
俺の意識はそこで途絶えた。空腹には勝てなかったようである。俺は、森の入口で力尽きて倒れてしまった。
*
「閻魔の森の支配者、猿魔が消えたというのは本当ですか!??」
焦った口調で喋るこの男はラスティン・モーリアル。閻魔の森から南に数10km離れた場所に位置するユーイアス王国のギルドマスターである。
「間違いない。森の周辺に張り巡らされていた魔粒子感知結界が、巨大な魔粒子を持った個体の消滅を警告した。元々あの結界は猿魔の監視用に設置されていたのだからこの警告はまず猿魔のものと見て間違いない。…とすれば猿魔の消滅は確実だろう。」
ユーイアス王国騎士団長、バーナルド・ルドウェルは答えた。
「そうなればもう猿魔の脅威に怯える必要はないのでしょうか!?」
「いや、そういうわけにはいかないだろう。あの猿魔が消滅したということは、言い換えればあの猿魔を消滅させるだけの何かがあの森で起こったということだ。下手をすれば猿魔以上の脅威がいるのかもしれん。」
「ばかな!!猿魔は最強と名高い
「だが消えたことは事実だ。奴にとって変わる何かがあることを前提に、これからの方針を決めよう。」
「そうか……。そうだよな。あまりにも現実味がないもんでつい興奮してしまった。」
閻魔が消えたという情報は世界各地に広がっていった。猿魔はこの世に100しかない
*
「暑いなーもうー!。こんな危険な仕事になんで私が一人で行かなきゃいけないの……。いくら私が強いからって扱いが雑すぎるんじゃないかなぁ!」
彼女は嘆いていた。自分の強さゆえに危険な任務ばかりを与えるギルドに納得ができなかったのだ。しかも、今回の任務はあの猿魔の消滅の調査だという。それこそ、命の危険が伴うような任務であった。しかし、これは裏を返せばそれほどまでに彼女の実力はギルドに信頼されているということなのだが、彼女にはそんなことは関係なかった。
「そろそろ森の入り口かな。早くももう帰りたいんだけど……もうここまできたらサクッと任務を済ませちゃいますか。」
そして彼女が森の目の前に着いた時、そこには一人の少年が倒れていた。まだ10歳にも満たないような少年である。さらにはその少年の後には足跡が続いている。それも、森の奥の方に向かってである。
「この子……まさか閻魔の森から出てきたっていうの!?ここは子供どころかS級の冒険者ですら立ち入りが禁止されてるようなところなのに……。いったいどうしてこんな小さな子が………まさか────」
彼女は、この少年は猿魔の消滅と何か関係があるのではないか、と考えた。それは別に何か根拠があるというわけではなく、彼女の直感であった。
「とりあえずこの子を街まで送らないと……!!」
こうして、ハーディアは彼女によって拾われることとなった。この彼女こそが、のちのハーディアの運命を大きく変えることになるのだが、今はまだ、誰も知る由はない。
「う……うぅん………。」
「起きた!やっと目を覚ましたよー!」
目が覚めると、そこは知らない場所で知らない人がいた。
「ここは……?君はいったい……。」
「ここは東の国、ラルム王国だよ。私はティアナ。君をここまで運んであげたんだから感謝してね!」
「ラルム…王国……。ティアナ………。ということは────だめだ!!俺に近寄るな!!!君を消したくない!もう……誰も……死なせなくない!!!!!」
「ちょっと待ってよ!私は死なないよー失礼だなあもう。」
「そういうことじゃないんだ!スキルが!またスキルが暴走してしまう────」
「なーんだ、そういうことね!だったら大丈夫だよ!私は強いから。」
「どれだけ強くたってだめなんだ!あの猿の化け物でさえ消えちゃったんだから………!!」
「え………!?今なんて言ったの!!?あなたが猿魔を倒したの!?」
「だからそう言ってるじゃんか!!とりあえず俺から離れろ!死んじゃう……殺したくない……!!!」
「じゃーなおさら離れられないなー。私は猿魔の消滅の原因を探ってるんだから。」
この後もしばらく言い合いが続いたが、この少女────ティアナは俺から離れようとはしなかった。むしろ、俺と一緒にいようとしているくらいだ。俺はこの人を傷つけたくない。だから俺は逃げないと……そう思ってこの部屋から走り出していった。そして、いとも簡単に逃げることができてしまった。この少女は自分を強い、と語っていたがそれでも逃げ切れてしまったのだ。スキル『
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