絶望

「まずは小手調こてしらべじゃ……!-詠唱棄却-『ウォーターレーザー』!!」




発動された魔法は水系統上級魔法『ウォーターレーザー』。しかしその魔法は賢者【ジェラハム・エルタ】の真骨頂である詠唱棄却────すなわち無詠唱魔法によって通常10秒はかかる詠唱を全て棄却して発動されたものである。圧倒的な威力と圧倒的な瞬発性。これこそがジェラハムが賢者と呼ばれる所以である。




「ドガアアアァァァァン!!!!!」




こうして放たれたウォーターレーザーは猿魔の横をかすめとって後ろの木に命中し、綺麗に真っ二つに両断した。なんと、猿魔はこの魔法を避けたのだ。音速の3倍以上の速度で発射される賢者のウォーターレーザーをである。




「なんじゃこの出鱈目な速度は……。魔粒子の乱れがなかったということは魔法による移動ではない……。……となれば、あの速度はスキルによるものか。ならば……!-詠唱棄却-『万能鑑定』────なんじゃと……これは…まさか、こやつのスキルは異常エクストラスキルだというのか!バカな!!世界に1000しかないと呼ばれるものが……。しかもそれをこんな奴が持っておるとは……となればこやつのスキルはおそらく『身体万能リクジョウ』。これがあやつの俊敏性の原因ということか────」




異常エクストラスキル『身体万能リクジョウ』。それは、【遊戯系列アソビシリーズ】と【闘争系列スポーツシリーズ】に分けられるスキルの中でも【闘争系列スポーツシリーズ】に属しているシンプルにして最強とも言えるスキルである。




「これでは、最初から手は抜けんな……。それでは、わしの最大奥義をもって沈めてくれよう。覚悟せい!-詠唱棄却-『核撃結界』!!!」




「ズガアアアアァァァァン!!!!!」




『核撃結界』。それは名の通り中で核爆発のおきる結界を生成するという出鱈目な魔法。しかも結界はどんな衝撃を与えてもびくともしないので、どれだけの速度を持っていても避けることはできないのである。威力は言うまでもない。




「これでどうだ………。さすがにこの魔法は耐えきれまい。」




────しかし、『核撃結界』によって巻き起こされた凄まじい量の粉塵の中にやつの影は悠然と立っていた。そして、結界が消えた瞬間に一瞬の跳躍のうちにまた目の前に現れた。




「なっ………なんなんじゃこの頑丈さは!?このスキルは身体能力を極端にあげるものではないのか!!?最強の魔法、核撃結界ですらも倒せない生物がこの世に存在していいはずがない────」




そう。存在していいはずがないのである。なぜなら核撃結界とは、異常エクストラスキルを持つ生物を倒すためだけに魔法の始祖【ベルアード・ニコラス】によって生み出された最強の魔法だからである。しかし、猿魔はそれを悠然と耐えて見せたのだ。これは異常エクストラスキルの域を遥かに逸脱していることを意味している。




「万能鑑定ですらも見抜けないスキルにその身体能力と圧倒的な防御力────そうか……お前があの独創オリジナルスキルの中でも最強と名高い伝説のスキル、『悪鬼羅刹オニゴッコ』の所有者か……!!」




[圧倒的な防御力]。それは鬼ごっこにおいては誰にも勝利条件がない、という理不尽さがそのままスキルの一部となった故のもの。どんな物理、魔法攻撃も無力化する、絶対無敵の防御である。




「このままではまずい!!!ディア!早く逃げるのじゃ!わしはもう助からん……!!せめてお前だけでも────」




そう俺に言うために猿魔に一瞬背を向けたその瞬間、猿魔がその巨大な手をじいちゃんに振りかざそうとした。




「やめろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!」




俺は心の底から叫んだ。死ぬ。このままだとじいちゃんが、家族が死んでしまう────




《『時空隠蔽カクレンボ』の能力の一部を最大威力で発動します》




この瞬間に俺は、じいちゃんが死ぬくらいならスキルを使ったほうがましだと無意識に判断していた。いや、判断してしまったと言ったほうが、今目の前に広がっている惨状を的確に表していると言えるかもしれない。




「え……あっ………う……うそだ────」




俺の周りは、半径20mほどが更地になっていた。草木も、石や岩も、地面の一部も。そして猿魔も、………じいちゃんも。俺の周りの全てのものが跡形もなく消えていた。




「あ……ああ────これを……俺が……?そんな……!!じいちゃん!じいちゃん!!!────」




これがジェラハムが言っていた『創作オリジナルスキル』の暴走である。




「じいちゃん!!早く出てきてくれよ!!!そうだ……。スキル解除!解除だ!!解除って言ってるだろ!!!早くじいちゃんを出せ!!!!!!!」




しかし何度願ってもじいちゃんは出てこない。




「ああ………。本当に……本当に消えてしまったのか………。じいちゃん……じいちゃん────」




そして俺は絶望した。これは、俺が経験するこの異世界で最初・・の絶望だった。じいちゃんは消えた。もしかしたら、じいちゃんは今も消えたままここにいるのかもしれない。俺がスキルを自分に試した時のように。あの何にも干渉できない寂しい世界に。そうだとすれば、じいちゃんは幽霊になったも同然だった。




「俺のせいで……俺が……俺が家族を、育て親を殺したんだ────







俺は恐怖と後悔に苛まれながら、12時間以上もひたすら森の中を歩き続けていた。目的はなく、ただ歩き続けていた。そして、さらに3時間ほど歩くと、いつの間にか森を抜けていて、目の前には一つの街が見えていた────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る