13日目ー発覚
転生してから早1ヶ月ほど過ぎたある日の昼下がり。昼ご飯をたいらげ満足気に部屋のベッドでゴロゴロしていたのはあの祭りの日以前のぐーたらな生活をしていた叶人に戻っていた。(まぁ翌日から戻ってはいたのだが)
あの日能力が進化して以来物を生み出すことが前よりも容易になったためそれを活かして叶人は以前よりも更にニート生活を送っていた。
そういう時真っ先に家から追い出そうとする愛梨は王都ガレオンの議会から呼び出しを受けて祭りの三日後くらいに王都へ向かって行き、まだ帰ってきていなかった。かれこれ1週間以上経っているので何か深刻な事態でもあったのかもしれない。
だからといって叶人は何かする訳でもないが。
なぜか?それは叶人の人生のポリシーが"危ないことに近づかず目立たず暮らす"だからだ。
そんな訳でゴロゴロしていると門の開くおとがした。
「ん?なんだ?」
叶人がひょこっと窓から顔を出すとやはり死角で何があったか分からない。
仕方がないので玄関の方へ行くことにした。
気怠げにパジャマ姿で階段を降りていくと玄関の扉が開いた。
特に隠れる必要も無いのでそこに立っていると入ってきたのは愛梨だった。
「たっだいまー。みんな元気してたー?」
家主がついに帰ってきた。
ゴロゴロしてるのがバレたらまた何を言われるか分からないので足早に部屋へ戻ろうとしたが見つかってしまった。
「あ、兄ィいたんだ。それよりもちょっと話あるんだけどいい?」
「話?」
愛梨の話をしたいという言葉にいつもとは違う何かを感じた。
それが緊張感なのか緊迫感なのかは分からない。
だがいつもと違う雰囲気だったことは分かった。
「分かった。お前の部屋に行けばいいのか?」
「そうね。後で来てちょうだい」
そう言い残すと愛梨は食堂の方へと歩いていった。
叶人はいつものような他愛もない会話とは訳が違うと察し、部屋へ足早に戻り着替えを済ませた。
愛梨はおそらく食事を済ませてから部屋に戻るだろう。なのであと30分くらいは余裕がある。
とりあえずベッドでゴロゴロしよう。
そう思い叶人はベッドに飛び込んだ。
スマホをいじっているといつの間にか30分ほど過ぎていた。
「そろそろかな」
ベッドから降りて叶人はドアを出た。
長い通路を歩き3つとなりの部屋のドアをノックする。そこが愛梨の部屋だ。
「来たわね。入りなさい」
ドアの奥から愛梨の声が聞こえた。
ドアを開けるとそこには見たことのない景色が広がっていた。
それもそのはず、叶人は愛梨の部屋に入るのが初めてだった。
部屋には明らかに高そうな家具ばかりだったが置いてある小物類は何か前の世界でも愛梨が好きだった物を彷彿とさせるものばかりだった。
だが今気にするところはそこではない。
ソファが目に付いたのでそこに腰掛けて本題に入った。
「で、話ってなんなんだ?」
愛梨は座っていた椅子からスッと立ち上がりこちらを見てテーブルを挟んだところにあったソファに俺と対面するように座った。
「今から話すことは多分兄ィに関係していると思う。しかもそのせいでこの世界が大変なことになるかもしれない。その覚悟を持って聞いて」
いきなり覚悟をしろとか言われても困るし心当たりもない。まぁ取り敢えず聞いておこう。
「いいよ。で、なんだ?」
「兄ィは祭りの日のこともちろん覚えてるよね」
「ん、まぁな…」
正直に言うと叶人には途中からの記憶が無かった。記憶が戻ったのは夜家に戻って来てからだった。ので戦いの結末がどうなったか叶人は知らなかった。
「あの祭りで起こったことにより多分世界の書にあんな内容が追加されたんだと思うの」
世界の書?
確か本で読んだことがある。この世界の理を記した本だって。
確か王都ガレオンにあるはずだが。
「世界の書がどうかしたのか?追加って言ってたけどあの本に内容が追加されることなんてあるのか?」
「そうなのよ。普通あの本に内容が追加されることなんてあり得ないはずなのよ。なのに追加されたから議会は大騒ぎよ」
「だからお前は呼ばれた訳ね」
しかしそんな大層な話なんで俺にするんだ?
そういえばさっき俺に関係あるとか言ってたか?
「おいそれが何で俺に関係あるんだ?」
「なんでってその内容が兄ィに関係してる可能性がとてつもなく高いからよ」
なんだ?俺なんかしたっけ?
体のいたるところから変な汗が出てくる。
「で、その追加された内容は2つ目の能力の発動についてよ」
「2つ目の能力?そんなもんあるはずないだろ」
「待って。兄ィほんとに祭りのこと覚えてるんだよね?」
「お、おう…」
ここで無いと言えば何か起こる嫌な予感がする。
「で、内容の続きだけど。発動には条件があるのよ。その条件は"過去と現在をしっかりと割り切る"こと。もう一つは"その過去をいつでも切り捨てることができる"ことよ」
その条件を聞いた時背中に冷たい雫が流れ落ちた。叶人の記憶が途切れる前の最後の記憶。
それは前の世界の叶人ではなくこの世界のカナトとして生きようと決意した記憶だった。
ということは………
追加の元凶俺じゃん!
「デ、ナンデオレナンダ?」
動揺しすぎてロボットよりも外人よりも綺麗にカタコトになってしまった。
「何その言い方?まぁいいわ。で、あんたを疑ってるのはね、兄ィあの日途中から急に別人みたいになったじゃない?」
「そうだっけ?いつもの俺だったと思うけど」
しらを切る。そうするしかない。マジで嫌な予感がする。なんやかんやで前の世界でも嫌な予感だけはほぼ的中していた。
「そしてもう一つ理由があるの。あんた最近能力が便利になったーって言ってたわよね」
「あぁ言ったな。それがどうした?」
「追加された内容の中に1つ目の能力が2つ目の能力解放と同時に進化するって内容があるのよ」
また背中を変な汗が流れ落ちた。
俺は何を口走ってるんだバカヤローッ!
そんなの2つ目の能力解放して進化したから便利になったに違いないじゃねーか!
「でも2つ目の能力なんて俺は分かんねーぜ」
「だから確かめるのよ。入って来ていいわよ」
ドアが開き入って来たのは見たことのある人物だった。
フードを目深に被ったおばさん。そう、愛梨の雇っている能力鑑定士のおばさんだ。
「またこの人に頼むわよ」
「久し振りに見たなぁ」
この前と同じ手順で物事は淡々進んでいった。
「出たわね。あんたこれ見なさい」
愛梨は能力の書かれた紙を渡してきた。
最近ようやく文字が読めるようになってきたのでこんどは読めるようになっていた。
「えぇと能力は勇者への道と…覚醒…?」
本当に2つ能力が書いてあった。
「やっぱりね。兄ィあんたはこの世界の理を大きく変えた存在ってことよ」
どうやら俺はいつの間にか世界のルールを追加してしまったようだ。
そんなもんいきなり言われても知るかよ。
俺には記憶無いのに。
「まぁそうだとしても俺が変わった訳じゃないだろ?能力が追加されただけだし」
愛梨は俺をこいつマジかよと言わんばかりに見ていた。
「な、なんだよ?」
「兄ィ祭りのこと本当は覚えてないでしょ?」
「そ、それは…」
もう隠し通しても意味はないと悟り叶人は全てを語った。
「あぁそうだ。正直あの日のことは途中から記憶が無い。あの戦いの結末も何も知らない。おそらくその覚醒ってやつのせいだろう」
「よし、兄ィあんたは今から冒険者として冒険しなさい。装備は自分で出せるから大丈夫よね?」
「ちょっ、ちょっと待て。今から冒険者になれと?なんでまた?」
いきなりの展開に頭がついていかない。
「実はね魔王には隠し子がいたのよ。それが王都の調査団による報告により分かったの。そこで兄ィを出向かせようと思ってね」
なんでそこで俺になるんだよ。
てか魔王に隠し子ってことはまた敵が湧くってことなのか?
「魔王の子供ってことはその子供は魔王になる訳だよな?」
「そうよ。但しその子供は魔王の子供だけど見た目はただの人間らしいの」
「なんだそれ?そんなことあんのか?」
「そうなのよ。異例よこんなの。私が倒したのは見るからに恐ろしい悪魔みたいな感じのだったんだけど」
魔王が人間の子供を作っただと?
そんなことあり得るのだろうか?
「で、なんで俺なんだ?」
「なんでって暇そうだからよ」
理由の浅さと理由を告げる淡白さにお兄ちゃんは泣きそうだよ。
もう泣いてもいいかな?
「そんな理由で旅に出ろと?」
「安心しなさい。私も同行してあげるから」
英雄様は暇な兄の冒険について来るようだ。
「お前ついて来るったって用事とかあるだろ?」
「別にいいのよ。それに…」
「それに、なんだ?」
「ううん、何でもないわ。旅立ちは1週間後よ準備しといてね!」
愛梨はその場を濁したつもりだろうが俺には分かった。愛梨は昔から場を濁す時はいつも厄介な騒動に巻き込まれていた。
この世界でもやっぱり細かな性格の部分も一緒について来たらしい。
「ったく、しゃーねーな。1週間後だな。今の内に別れはすましとけよ!」
「兄ィこそね」
ニッと笑った愛梨はまだ幼げの残る少女であることを思い出させる純粋な笑顔だった。
愛梨の部屋を出た俺は自室に戻り机の引き出しを開けた。中には一冊の本が入っていた。
本のタイトルは"勇者と魔王"。
この世界の子供向けの童話だった。
叶人はこの話を未だに読んでいない。本を貰ったのは転生して直ぐだった。
けれどなんやかんやで読む機会が遠くなっていった。しかし読むのは今だと思った。
椅子に腰掛け本を開いた。童話にしては難しい内容かもしれない。
けれど脳はそんな童話を読むことを欲していた。
ページをめくると最初のページにはアステア語でこう書かれていた。
勇者は人を救う為に存在するのではない。自分と戦う為に存在している。この本を読んだ者達がどうか己と戦うことを放棄しないことを願う。さあ冒険の始まりだ。
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます