12日目ー祭りの終わり
体が動かない。
カナトは必死に体を動かそうとするが全く動かなかった。
せいぜい動くのは顔くらいだった。
「お前何したんだ?…」
さっきまでと打って変わってボディビルダーよりもデカくなったレベルのアメノは余裕の笑みを浮かべている。
「何をしたか?そうですねぇ。神経を麻痺させる一種の毒薬ですかね?それをあなたに注入しました」
「そんなもんまで作ったのかお前?」
この世界では前の世界ほどの技術力はもちろんない。毒薬くらいならあるだろうが、こんな絶妙に体の神経を麻痺させる毒薬なんてないはずだ。
だからアメノはこの毒薬を作ったはず。
「まぁ作りましたよ。とは言えどもこの薬は実に単純な作りですがね」
ゆっくりとこっちへ歩いてくるアメノの足取りは一歩一歩踏み出せばその度に軽く地面が振動しそうなほどに重かった。
「さてさて、これからあなたを始末していくのですがどうします?じっくりと強烈な痛みを味わいながら死ぬか、軽い痛みですぐ死ぬか、どっちがいいですか?私は寛大なので選ばせてあげましょう」
目の前でしゃがんでカナトの顔を覗き込むように見るアメノの顔はただのサイコ野郎にしか見えなかった。
しかしカナトも今までの叶人とは違う。
今までならここで諦めていただろう。すぐに逃げるように生きてきた叶人ならば。
だが今のカナトは違う。
「どちらがいいか…か。残念だけどまだ選択肢はあるはずだぜ」
「と言うと?」
「俺がお前をブッ飛ばす、だよ」
アメノは一瞬キョトンとしていたが直ぐに肩が震えだした。
「クククク…あなたが私を?笑わせないで下さいよ!なんて馬鹿なんだ…ムフ…ムフフフ…フハハハハハ!」
高らかにゲス笑いを響かせるアメノの姿はただのヤバイ奴でしかなかった。(ヤバイのは元からなのだが)
「まぁ見てろって」
カナトは頭である物を思い浮かべた。
注射器と先程打たれた毒薬、そして毒を分解する解毒剤を。
まず解毒剤を口の中に作り出し飲み込んだ。
バレないようにこっそりと。
なぜこんに簡単に生み出せるようになったのか。
それはカナトの覚醒により能力の発達が行われ、抽象的なものでもある程度は生み出せるようになったからだった。
そして次に注射器と毒薬を生み出すのだが、アメノがこっちを向いていない間にしないとバレてしまう。体は動くがまだ動かないフリをする。
アメノが油断した瞬間。その一瞬で全てを賭ける。
「まぁ無理でしょう。そうだアイリさんに聞きたいことがあったんですよ」
カナトとは真逆の方向にいた愛梨の方をアメノが向いて歩いて行った。
しめた!
カナトは瞬時に毒薬の入った注射器を生み出し、音を立てずにゆっくりと立ち上がった。
村人たちはアメノの方を向いてこちらに気付いていなかった。
カナトは音を立てないように得意のスピードを生かして走って行った。
アメノは目前にしてカナトに気づいたようで避ける暇も無かった。
「オラァ!」
プス
細い針が硬い筋肉を縫って入っていった。
注射器のピストンを親指でグッと押し込むと薬はアメノの体へと注入されていった。
直後アメノはどさっと倒れ込んだ。
「さて、これでまた俺の番だな、安心しろまだ殺す気はねぇ。聞きたいことが山程あるからな」
すると途端にアメノの体からシューという音がして、アメノの筋肉は徐々に収縮していった。
「クソ…お前どうやってこの薬品を…」
アメノは苦しそうにこちらを見上げたがそんなこと知ったこっちゃない。
「うるせぇな、今俺の番だっつってんだろ。黙って俺の質問に答えてろ」
アメノは自分がやられるとは到底思ってなかったらしく対策はしていなかったようだ。
「じゃあまず質問1だ。お前は何故、いつからここに転生してきた?」
「なんで言わなきゃいけないんだ…」
簡単に話す気はないようだ。
ならば言わせるまでだが。
「言わない場合は一本ずつ骨を折っていきます。人間の骨って全部で200本くらいあったっけ?」
「なっまさか…」
流石に気づいたようだ。骨を一本一本折られるのは死ぬよりも苦しいだろう。
「分かった、話すよ…。私がここに来たのは約10年前くらいだ、死因は自殺だ」
「ほぉなんで自殺を?」
「当時の私は薬品会社の上層部で働いていた。そこそこの会社だったから結構稼いでいたんだ。だが会社が事業に失敗して会社は多額の借金を負ったんだ。そこでお偉いさん達は私に全てを投げだしたんだ。私は家族にも逃げられ、借金だらけの生活が嫌で自殺したんだ」
「大変だねぇ。んで、死んでたはずがここに来てたと」
「あぁそうだ」
交通事故で死んだ人だけが転生するんじゃないんだと分かった。
愛梨も叶人も交通事故で死んでこの世界に来た。
もしかしたら交通事故で死んだ人間だけだと思っていたが違ったようだ。
「じゃあ質問2。お前1人じゃこんな薬品とか開発できる設備も材料もないはずだ。誰かがお前をサポートしてたろ?誰だ?」
「それは…それだけは言えない。というよりは余り知らない」
「知らない?んな訳ねぇだろ。骨折るぞ?」
「ほ、本当なんだ!いつも使いの人がやって来て交流を取っていたんだ。そいつらのリーダーについては何も知らない。だが1つだけ分かる。あいつはこの世界の裏社会での帝王だ。」
この世界にも裏社会なんてあるのか?
というかもしかしてそいつも転生した人間なんじゃないのか。
「ま、いいや。質問はこれだけだ。だが麻痺は解かないぜ。このまま街に連れて行ってお前を憲兵達に差し出す。そんでお前の牢獄生活スタートだ。いいな」
「クッ……」
そうして俺と愛梨はアメノとリーダーの男を街にある憲兵の支部に連れていって引き渡しこの件は一件落着となった。
「いやー今回は疲れたー」
「兄ィがあんなに戦えるとは思ってなかったわ」
愛梨はカナトの顔をちらっと見た。
その顔はさっきの戦闘のときのような目つきの顔ではなく、いつも通りの叶人と同じボーっとしている目に戻っていた。
翌日
叶人はいつも通り部屋でゴロゴロして過ごしていた。昨日の一件もあり何もする気にならなかったからだ。
「兄ィいる?」
バーンとドアが開き愛梨が部屋へ入ってきた。
「お前さ、ノックしろって…」
「そんなことより!昨日ちゃんと祭りが出来なかったから今日改めてやるんだって!」
「そーなんだ。で?」
そう返すと愛梨は不服そうな顔をしてこちらを睨んでいる。
「な、何だよ?」
「行くわよね?ね?ね?」
これは…行かないと殺されるやつだ。
「仕方ねぇな行ってやるよ」
「よしっ!」
愛梨は楽しそうに部屋を出て行った。
ああいう所はいつまで経ってもガキのままだな。
そう思いながら叶人は目を閉じ祭りの時間まで眠ることにした。
一方その頃王都ガレオンの中央議会ではある騒ぎが起きていた。
騒ぎの原因は世界の理が書いてある「世界の書」に新たな記述が追加されたからであった。
この世界が出来てから一度も無かった自体だったため大騒ぎになっていた。
追記された内容は「過去と現在を完全に分断し、その過去を切り捨てることのできる人間は新たな能力の解放に成功する。またその能力が解放された時、同時に元あった能力は進化を遂げる」という内容だった。
この内容が記された事によりこの世界を大きく動かす大戦が始まることをまだ誰も知る由は無い。
叶人/カナトー能力 1.勇者への道〜ブレイブロード〜
2.覚醒
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