11日目ー逆転と逆転

さっきまでとは流れの違う風が頬をかすめていく中、カナトの目つきは今までとは全く違うものになっていた。

アメノは過激派の連中を参戦させ、一対一のタイマンではなくなっていた。

先に仕掛けてきたのは先ほどコケにされた過激派のリーダーだった。

「さっきのお礼、させてもらうぜ!」

「いいぜ、来いよ」

リーダーは地面を蹴り颯爽と駆け出した。

そのスピードは速く、さっきまでのカナトなら止められなかっただろう。

だが今のカナトは違った。

走ってくるリーダーの剣を鮮やかに流して何事も無かったかの様にサッとリーダーの方を向いた。

「なんだ、終わりか。次は俺だな」

カナトは剣を構えて相手が武器を構え直そうとした一瞬の間に相手を斬れる位置まで近づいていた。

「な…」

「動くなよ、斬るぞ。とりあえず武器を捨てろ」

リーダーの男は勝てないと判断したのか大人しく武器を手放した。

カナトが剣を首元から放して直そうとした隙を見逃さなかったリーダーがサッと剣を拾いカナトの後頭部に切っ先を向けた。

「ここでお前は終わりだぜ…。言い残すことはあるかい?」

カナトは剣を捨てて両手を上げた。だが口元は口角が上がり微笑んでいた。

「言い残すことは?か。そうだな…お前は1つミスをした。かな」

「ミスゥ?」

カナトはスッとしゃがんだと思えば瞬時に銃を生み出しリーダーの顎に銃口を突きつけた。

「そのミスは俺を能力で封じなかったことだ」

リーダーの男はカナトの見る目で本当に勝てないと悟ったらしく剣を捨て両手を上げた。

「分かってるじゃん」

そう言うとカナトは銃口を下げた。

リーダーは安堵からか少しホッとし顔を緩めた瞬間その顔はまた表情を変えた。

「な、なんで……」

カナトはリーダーの太ももに右、左一発ずつ弾を撃った。何故かその弾は元いた世界での物とほぼ同じものだったようで血が溢れ出ている。

「なんでって、普通敵が目の前で動かないならこれ以上動かないように封じとくでしょ」

カナトの目は冷たくカナト本来の暖かなゆるーい性格が消え失せたかのような目だった。

クルッとアメノ達の方へ振り返るとその目からでる威圧感からか過激派の連中達はたちまち森へ逃げていった。

アメノは過激派の連中を味方につけて勝てる気でいたため突然1人になって流石に焦っていた。

「あのグズどもめ!使い物にならない奴らだ!」

何やら一人でキレてブツブツ言っているようだが独り言にしてはボリュームが大きかった。

「おいアメノさーん。あんたしかいないようだけどー」

カナトはとてもフレンドリーに呼びかけた。

カナト的には。けど周りから聞くと笑ってない冷たい目で効果がプラスされ中々怖いものだった。

「クソッ!もういい!」

そう言うとアメノは何かが入った小瓶を取り出した。

「おい、それなんだ?」

「フッ知りたいか?教えてやろう。この中身はこの村を1つ潰すには十分な細菌だ!」

細菌。

この世界にそんな物は存在しない。恐らくはアメノが作ったのだろう。

村人達はピンときていなかったが愛梨はその言葉を聞いた瞬間に体に戦慄が走った。

この村は愛梨が転生して間もない頃に村人達にとてもよくしてもらい、一時期生活をしていた言わばこっちの世界の故郷であった。

今の屋敷を近くの街に建てたのもこの村が近くすぐ訪れることができるようにしたためだ。

それくらい愛梨には大切な場所だった。

それを壊されるなんて許せない。

動きたい。けれど体がアメノへ向かって走っていかない。何故だろう。

理由は単純。アメノに勝てないと体が分かっているから。

愛梨がここまで落ち込む理由、動かない体。

それはアメノが愛梨の師匠であるからだった。

この村で人を救い、世界を守りたい!と高らかに宣言した時村人達は笑い愛梨をからかった。

そんな中でも優しくその言葉に耳を傾けてくれたのはアメノだった。

「私の能力は戦闘に向きませんがあなたの能力なら戦闘の仕方などを教えてあげればすぐ強くなれるはずですよ」

その言葉は当時の一人で不安だった愛梨の心を救った。

そして半年間アメノから戦闘方法やその他沢山のことを教えてもらい旅に出たのだった。

半年間の修行中アメノに勝てた回数はゼロ。

体がアメノに勝てないと判断してしまっていたのだった。

「なんで!なんで動かないの?!私だって強くなったのに…この村を守りたいのに……」

愛梨はうずくまり悲しさと悔しさ、辛さなど色々な感情がこもった涙を流した。

パサッ

愛梨の頭を覆い被すようにタオルがかかった。

そっと顔を上げるとそこにはカナトがいた。

その顔はいつもの兄ではなくどこか兄ではないようにも思えるような凛々しい顔だった。

「安心しろ愛梨。すぐにぶっ倒してきてやる」

目は笑っていなかったが微笑む顔、そしていつもの兄の言うような言葉に大きな安心感を覚えた。

カナトの背中はなんだかいつもより大きく見えていた。まるで大きな大きな壁のように。

「直ぐに決着つけてやるよ」

「えぇそうですね。やってあげますよ!」

カナトはすかさず銃をアメノに撃った。

狙った先はアメノが小瓶を持った左手。

小瓶に当たるかもしれないのになんの躊躇いもなくカナトは引き金を引いていた。

パァン

大きな銃声が響いて鮮血が飛んだ。

アメノの左手に綺麗に命中していた。

小瓶は地面に転がり落ちていた。地面が柔らかめの土だったことで幸いにも小瓶は割れずに落ちていた。

「クッ…あなたは本当に遠距離からの攻撃が好きですねぇ」

「まぁ嫌いじゃないな。言ったろ。俺はヘタレだって。だから近距離は怖くてね」

カナトはまた引き金を引いた。今度は2回。

どちらもしっかりとアメノに命中していた。

リーダーの男と同じように太ももに一発ずつ撃ち込んだ。

「ガアッ…!クソ…だが俺はまだやれる。まだ立てる。まだ動ける…」

フラフラと今にも倒れそうに立ち上がるアメノにカナトは少し驚いていた。

「わお。まだ立ち上がるんだ。いい加減諦めればいいのに」

アメノはまた懐を漁り新しい小瓶を取り出した。

中には緑色の液体が入っており小瓶は左手で出されたため血で赤くなっていた。

「今度はなんだ?またお前の左手撃たなきゃいけないの?」

アメノはニッと笑った。

「そんな事はしなくていいよ。これは私が飲むものだからな」

そう言うとアメノは小瓶の栓を開けて小瓶を震える手で口に運んでいった。

「ちょっ何勝手に飲んじゃってるの?」

アメノは中身の空になった小瓶を地面に叩きつけた。流石にその衝撃には耐えられず小瓶は割れてガラスの破片が飛び散った。

「これで私の勝ちだ」

アメノが勝ちを宣言した瞬間アメノの体から煙が出てきた。何があったのかは分からないがアメノの周りは一瞬にして煙で覆われた。

なんか最近見た光景とそっくりだ。デジャブ?

「なんだなんだ?」

煙が晴れてくるとアメノは立っていた。変わりなくそこに。ただ大きくなっていた。横に。

太った訳じゃない。筋肉が大量に付いていた。

「うおっ!お前でかくなってんなー」

しかも体が大きくなっただけではない。銃で撃ったはずの傷が全部無くなっていた。

「さぁここからが本番ですよ?」

「お前なんか気持ち悪りぃよ」

カナトは取り敢えず銃を撃った。

太ももに真っ直ぐに飛んだ弾はしっかり命中した。はずだったが筋肉に弾かれてしまった。

「うげっ!なんだその筋肉?鉄でできてんのか?

硬すぎるだろ」

「美しいだろこの大きなボディ。惚れ惚れしちゃうね」

こいつはこういうフェチなのだろうか。

いい歳こいたおっさんが。想像するとなんか気持ち悪くなってくる。

「まぁ大きいのは認めよう。その硬さも。でも的は大きい方が当たりやすいんだよね」

カナトは残りの弾を全て撃ち尽くした。

銃口からは煙が昇っている。狙ったのは右の太ももだった。

結果は全弾筋肉に弾かれた。だが少し擦り傷くらいには傷をつけられた。

「おっ?ちょっと傷入った」

「おや。傷が入ってしまいましたか」

思ったよりあっさり流された。

「ではこちらも行きますかね」

アメノがそう言うと目の前からアメノの姿が消えた。

「どこ行った?」

カナトがキョロキョロと見まわしていると右の脇腹あたりに大きな衝撃と鋭い痛みが走った。

「こっちでした」

カナトはそのまま吹っ飛び民家の壁にぶつかった。

「グホッ…やられちまったな」

「まだ終わりじゃないですがね」

その言葉を聞いた時急に頭が真っ白になり膝から崩れ落ちた。地面の冷たい感触が伝わってくる。

「な、なんだ?」

「あなたにはもっと苦しい目にあってもらいますよ。楽しい夜になりますねぇ」

体が動かない。なんだ?

今までの空気がまた流れが変わり不穏な風が小さな村を通り過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る