10日目ー覚醒
手負いのアメノは何か策があるかのように高らかに笑いを上げ宣言した。
「今からカナトさん、あなたを殺して差し上げましょう!」
「やっとやる気になったかい?さぁ来い!」
アメノは負傷した片腕を抑えていたが立ち上がった時に手を離した。
血はまだ止まっていないようだ。だがアメノは何も感じていない様子だった。
叶人はその理由にすぐに気付いた。
「お前撃たれた腕を能力で麻酔させたな。痛みを感じなくさせるように」
「ええ、でないとやってられませんからねぇ」
アメノは過激派のリーダーを手招きして自分の所へ呼んだ。
「あなたの剣を貸しなさい。いいですか手出しは絶対にしないで下さいよ」
「は、はいっ」
アメノは改めて手出しをするなと釘を刺した。
過激派の奴らはどうやらアメノには逆らえないようだ。
「ほら、私は剣を取りましたよ。あなたはそうやって遠距離から戦うのですか?それは男としてどうですか?」
こいつ……。
アメノは俺にどうしても近距離戦闘をさせたいらしい。今後の周囲での評価を考えると近距離戦闘をしたいところだが今回にいたっては相手の能力のせいでしたくても出来ない。
仕方ないな…。
叶人はライフルを消して剣を生み出した。
そして剣を両手に持って構えた。
「お前、結構煽ってくるな」
「そんなこと言って、その煽りにあなたは乗っているんですよ」
「そうだったな」
2人はまた睨み合う。
「どりゃあぁぁぁぁぁ」
先に走り出したのは叶人だった。
カーン
アメノが剣で防御を取り、叶人は斬り込んだため剣と剣がぶつかり高い金属音が響いた。
「なんだ?能力使わないのか?」
「えぇまだ使いませんよ」
剣と剣がジリジリとぶつかり合う中、叶人は相手の能力を更に知ろうと探りを入れた。
まだ使わないところを見るとインターバルがあるのか?
それとも手負いだとあまり使えないのか?
だがインターバルはさっき自分の腕にも使っていたのであまりないはず。
なんだ?まだ何かあるはず。
「何ですか?私の能力を探っているんですか?」
「なっ…」
クソ、バレてた。
どうする…?何かあるはず…。
「教えてあげましょうか?私の能力について」
アメノの言った言葉は軽かったが何か裏があるような重い言葉にも聞こえた。
「ほぉ、太っ腹だな。いいのか?敵に教えて」
「まぁ構わないでしょう。と判断したまでです」
なるほど。俺に言っても俺が勝てる訳ないと思っているのか。舐めやがって。
だがこれで何か打開策が見つかるはずだ。
さぁ何でも来やがれ!
「じゃあ教えてもらおうかな」
「いいでしょう。私の能力の秘密はズバリ代替能力の生成です」
「何だって…」
代替能力の生成だと…。
ふざけるなよ。この世界では1人1つの能力のはず。こいつはそれが麻酔だったはずだ。
じゃあ何だ代替能力って。
「おい愛梨!代替能力ってなんだ!」
焦っていた俺はつい怒鳴り声になってしまった。いつも強気な愛梨も何故か落ち込んでるこの状況で俺に怒鳴られてさらに唖然としている。
「クソッ。なんなんだよお前のチート能力は?」
「やはりそう思いますよね。まぁ私からすればあなたも大分チートですけどね」
よく言うよ。
それよりも早く打開策を見つけないと。
「焦ってますねー。まぁ無理もありませんよね。私の作った能力なのですから」
「何だって?能力を作っただって?」
そんなことあり得るのか?
こんな何もないような世界で能力を作り出すだなんて出来るはずないだろ。ここは一旦距離を取った方がいいだろう。
叶人はアメノの剣を弾いて後ろへ下がった。
「クフフ…フハハハハ、困った顔をしてますねぇ。いいですよ!その顔が見たかったんです!」
ゲス笑いをしてこっちを見ているアメノ。
その姿を見てるとみるみる殺意が湧いてくる。
「絶対ぶっ飛ばしてやる!」
とは言っても案は無い。
出来ることを頭をフル回転させて考えろ。
代替能力は詳細不明。
奴の戦闘能力はまぁまぁ高め。
俺が現状1人では勝てそうにない。
ん?現状1人では?じゃあ2人なら?
サッと愛梨の方を向く。放心状態でこちらを見ており何か出来そうにない。
しかも今回は俺1人でやると決めた。そこに愛梨を巻き込むなんて男じゃねえ。
2人……。2人じゃなく1人と一体なら?
何か巨大なロボを生み出して…いや、村が壊れちまう。チクショウ。どうすれば……。
「おやおやぁ?もう終わりですかぁ?あんなに威勢良く出てきた割にあっけないですねー」
悔しいがその通りだ。
昔から何事も全て平凡。勇気を出すこともなく、何かに立ち向かうことすら出来なかった。
元の世界でイジメられていた時が正にそうだった。あの時生まれ変わったら勇気の出せる人間になりたいと願っていた。
今俺は一応生まれ変わった身だと思う。性格も体格も何も変わっちゃいない。
だけど新しく手に入れた能力が今はある。
平凡な俺でも勇者を目指せる。そんな能力が。
迷っている暇はない。
今こそ俺は本当に変わるんだ!
「ハァァァァァ!」
叶人は大声を上げて全てを振り切った。
元の世界の叶人ではなく、この世界のカナトになる為に。
「むむ?まだやるんですね。いいでしょう。まだまだやってあげますよ……」
「黙れよ…。動いたら直ぐに首ちょん切るぞ」
アメノが余裕をこいて喋っている間にカナトはアメノの目前まで迫り剣を首の寸前で止めていた。
「なっ…いつの間に…」
「いつの間に?おいおいこれは戦闘だぜ。一瞬、一瞬が命のやり取りだろ」
「兄ィ?」
カナトの大声でハッと我に返った愛梨は兄に何があったかなんて当然知る由も無い。
気付いたらさっきまで押され気味だった兄が一気に王手まで行っていたのだ。
しかし1つ見ていて分かったことがある。今までの兄と今の兄その姿はまるで別人のようだった。
「兄ィ…頑張って…」
「いいか?これからお前には色々聞きたいことがあるんだ。だから殺すつもりは今のところは無い。だが少しでも何かしてみろ。お前の首が飛ぶことになるぞ」
「こ、こ、ここ、このクソがぁぁっ!」
アメノは幕を腰から取り出し地面に叩きつけた。
カナトはそれに気付かず煙幕で見えない隙にアメノに距離を取られてしまった。
少しして煙が晴れてくるとそこには怒り狂った顔のアメノが全身を武装して先頭に立っていた。
「この際もう関係ねぇ…。お前ら!奴をブッ殺せ!」
「ウオォォォォォ!」
アメノの声に続いて過激派の連中は一斉にカナトへ向かって走って来ていた。
「いいぜ…遊んでやるよ」
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