9日目ー能力と才能
小さな村に満ちた緊張感。
その真ん中にいるのは叶人とアメノ率いる過激派の連中。
村の住人は殆どがその周りを円で囲むようにその行く末を見届けようとしていた。
「ハァァァァァァ!」
叶人は必死に剣を振る。しかし剣は当たらなかった。
アメノの動きは明らかに戦闘慣れしている人間の動きだった。流れるように軽々と叶人の攻撃を避けている。
叶人は確かに戦闘慣れこそしていない。
だがここ最近で少しづつだが伸びてきているのも確かだった。
しかし当たらない。
それどころかアメノは余裕の笑みすら浮かべていた。
「オイオイ叶人さん、そんなもんなんですか?英雄様の兄ってのは」
英雄様…か…。
いつしか英雄と謳われた妹。そんな妹は英雄様と言われみんなから尊敬されていた。
だが愛梨はそれを望んでいない。
むしろ英雄様だと言われることが嫌いだった。
「うちの妹は英雄様でもなんでもねぇぞ。ただの少し頑張り屋なガキだ!」
たまにはやる兄だって見せてやらないとな。
叶人はピストルを弾を装填した状態で生み出した。と言うより生み出せた。
過激派との一件の経験を生かして弾を装填させた状態のピストルを創造した。
一か八かの賭けだったが成功した。
「これで…」
「ほう、ピストルですか」
「何…?」
叶人が銃の類を生み出す理由、それはこの世界の技術で銃が作れないことに他ならなかった。
だがアメノは何故か知っていた。
これが何を意味するか叶人は一瞬で把握できた。
「ま、まさかお前…」
「あら、お気づきになりましたか。そうです私は……あなたと同じ転生者です」
愛梨はそれを聞いてビクッと身震いした。
勿論叶人もビックリはした。
だがそれが今の状況に大きく関わる訳でもない、しかも同じ世界の住人同士やり合いたい気持ちが大きくなった。
「やっぱりそうか、だが俺がお前を止めるのに変わりは無いぜ!」
「いいでしょう。相手をしてあげます。あなた達は手出しをしないで下さい」
アメノは過激派の連中達に釘を刺しておいた。
「行くぜ!」
右手に剣を左手にピストルを持って叶人はアメノへと走って行った。
距離が少し近付いて来た。
距離は約1.5メートル
この距離ならいける!
叶人は確信し、ピストルを発砲した。
弾はアメノの足へと見事に命中した。
アメノはガクッと崩れて片膝を地面につけている。これで直ぐには動けないだろう。
「喰らえッ」
叶人はアメノの前、丁度剣が当たるくらいの距離から剣を振り下ろした。
だが剣が命中する前に叶人の右手は痺れるように力が入らなくなり剣は手から落ちた。
「な、何だ?右手が…」
叶人はハッとしてアメノの方を見た。
目の前でアメノはニヤニヤと微笑んでいる。
「お前何をした。能力だろ?」
「ええ、その通りです。能力は麻酔。効果適用範囲は約1メートルくらいですがこの能力は近距離戦闘においては無敵です」
しくじった。
叶人はめっきりの近距離戦闘専門。
銃は最近初めて生み出して撃ったのに関しては今日が初めてだった。
「俺の相性最悪の敵だなお前」
「そのようですね」
2人は再度睨み合う。
そこからは火花が散っているようにも見える。
「あ、兄ィ無茶はやめて…」
愛梨が心配して出てこようとする。
だがこれは俺がやると決めた勝負。愛梨を巻き込む訳にはいかない。
「来るな愛梨。お前は見てろ」
叶人は片手でパーを作り来るなという合図を送った。
「いいお兄さんですね」
「そうか?俺はただのヘタレだぜ?こんな俺でいい兄貴なら世の中は気持ち悪いことになってるだろうな」
「それもそうですかね」
ひとまず叶人はアメノと距離を取った。
すると右手は元の通りに戻った。
10メートル程下がったところで叶人は止まった。
叶人は今度はスコープの付いたスナイパーライフルを生み出した。
この銃は昔遊びでシミュレーションゲームをした事があるから出来るかもしれない。
しかしミスすれば後ろの過激派の連中に当たるかもしれないし、下手すれば村人に当たるかもしれない危険な賭けだった。
「ほぉスナイパーライフルですか。面白いものを生み出しましたね」
素直に初めて見たスナイパーライフルに目を輝かせるアメノは子供のようにも見える。
「残念だがこれは俺もまだ完全に扱えちゃいない。だからお前に当たるかも分からない。言ってしまえば博打だな。お前に当たるか、過激派のやつらもしくは村人に当たるかのな」
さすがにこの発言は村人たちを怒らせてしまったようだ。
「ふざけるな!」
「この村を救う為に来たのに村人を怪我さしてどうするんだ!」
当たる気なんか毛頭ない。
だが当たる可能性は捨て切れない。
アメノに当てるのも腕と足など致命傷にならないような場所でないといけない。
この後聞きたいことがあるから死んでもらっては困る。
「叶人さんは私に止められないようスナイパーライフルで遠距離からの慣れない戦闘をしようとしているのですね」
「そうだな。これを機にスナイパーとして生きるのも悪くないかもしれないな」
映画で見たことがあったため弾を生み出すのも難しくはなかった。
弾を装填した叶人はスコープを覗いた。
スコープに映るアメノは大きくどこを狙っても当たりそうなくらいはっきりと映っていた。
「さぁ撃ってみなさい、私に当たるかそれ以外の人たちに当たるか、はたまた何処かへ飛んでいくのか3分の1ですよ」
「3分の1か。それじゃあちょっと厳しいな」
しかし叶人は当たるだろう。という確信があった。シミュレーションゲームとは言ったものの結構本格的なやつをやっていた。
銃の重さは本物同様。リロードもしっかりやる。
そのシミュレーションで叶人はミスをした事が無かった。
初っ端から的に命中させスタッフから才能があるとまで言われた。
当時は「そんな才能はあっても使わないでしょう?」と切り捨てていたが、この世界に来てその才能を活かせそうだ。
「じゃあ撃たせて貰うよ」
照準をアメノの腕に向けて、弾をロードする。
引き金に指をかけ、深呼吸する。
息を整えて狙いがブレないようにしっかりと狙いを定めて引き金を引く。
「パン」
と大きな銃声が響いた。消音器を着けてないから仕方がない。
スコープから目を離してアメノを見るとしっかり右腕に命中していた。
アメノは反動で少し飛んで血がドクドクと出る右腕を抑えて地面で悶絶していた。
「よっしゃ!」
叶人が軽く拳を握りガッツポーズをした瞬間村人たちからは歓声が響いた。
「ほんと勝手な村人たちだな」
笑顔で村人たちを見ていると最前列にいた愛梨も勿論目に入った。
その姿は心なしか嬉しそうだった。
「さぁまだやるかアメノ?」
アメノに聞くとアメノは「フフ、フフフフフ、フハハハハハ」と高笑いを上げぬらりと立ち上がった。
「まだやるか?当たり前でしょう!ここからが本物の戦闘でしょう!さぁ来なさい!」
「こいつ…」
アメノは戦闘に関しては頭のバグった奴だったらしい。
「フハハハハハ……」
アメノの高笑いが夜空に響いていった。
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