8日目ー悲劇の始まり
祭りの日。
夜の村は明るく、人々は賑やかに話し、屋台を周っている。
「こっちの世界の祭りもあんまり変わんねーな」
叶人は1人祭りの屋台で賑わう通りを歩いていた。
ブラブラと歩いていると時々人にぶつかってしまう。それくらい人が多かった。
なんでも他の街や村の人たちも来るからいつもよりも大分人が多いらしい。
異世界とは言えどもやはり人間がほとんどだった。
お金は少しだけしか持っていないのであまり何かを出来るというほどでも無いがやはり祭りは雰囲気を楽しんでこそ。と思っている。
「さて、どんな屋台があるのかな…ん?なんであんなに人だかりができてんだ?」
広場の近くに大勢の人が集まっていた。
「誰か有名人でも来るのか?見に行ってみるか」
叶人は人の群がる広場へと足を向けた。
広場に着いてみると遠くで見ているよりもずっと多くの人がいた。
「これは誰か大物が来ているはず。美人さんだったらいいなー」
人を掻き分けながら前の方へ出てみて驚いた。
そこではよく知った女が皆んなにあれやこれや勧められては苦笑いで遠慮している姿があった。
「愛梨かよ!」
思わず出てしまった声に愛梨は勿論周りにいた人全員が叶人に注目した。
「げっ、なんであんたここにいるのよ!」
「お、お前こそなんでここにいんだよ」
楽しい祭りは愛梨が来たことによって最悪の方向へ舵を切っていたことをこの時は誰も知る由もなかった。
「ったく……なんで祭りでまであんたと一緒なのよ。嫌になるわ」
「なっ…昔は祭りも一緒に周ってたろ。久し振りに一緒に周ろうぜ」
「ちっ、仕方ないわね。周ってやるわ」
はっきりと聞こえる舌打ちに少しムカッとしつつもこれで金の心配が無くなったと思えばなんとも思わない。
多少はね。
「しかしなんでこの祭りに来たんだ?」
「私は去年転生してからもここに来ていて楽しかったから来年も来るって言ってたのよ。勿論楽しくなる予定だったわ。誰かさんがここに来てると分かるまではね」
本当に人をイライラさせるのが上手い妹だ。
世界イライラさせる選手権があれば大分上位に入ることが出来るんじゃないか、なんて思ってしまう。
「俺あんまり金無いからなんかやりたい時は自腹でやってくれよ」
「はぁ?あんた本当に私の兄なの?金ぐらい私の代わりに払うのが普通でしょ?」
マジでイライラする。妹と恋愛するラブコメみたいなのもあるけどこいつとはありえないな。
「てかお前は英雄様なんだしタダで大体させてくれるんじゃないのか?」
そう言うと愛梨は少し顔をしかめた。
「私そうやって英雄だからタダとかなんとかそういうやつ嫌いなのよ。私も同じ人間なんだし対等に扱って欲しいわね」
ほー。こいつ意外と偉いところがあるんだな。
兄は感心したぞ。ほんの少しだけな。
「じゃあちゃんと金払わないとな。俺は払わないが」
「ほんとにマジで死ね」
もう既に死んでますー。なんて言い訳しても逆になんか言われそうだからやめておこう。
他愛のない話をして歩いていると広場に出た。
広場では大勢の人が雑談を楽しんでいた。
太鼓の音に合わせて踊る人も中にはいた。
そんな時だった、大きな爆発音が響いたのは。
「何だ?!」
「とりあえず行くよ兄ィ!」
爆発音がしたところへ向かって行くとそこには1人の男を先頭にさっきの過激派の連中どもがこちらへ向かって進んできていた。村を破壊しながら。
叶人が先頭の男を見てみるとそれは知っている男の姿だった。
「さっきの武具屋のおっさんじゃねーか…」
愛梨は俺より目が悪いから見えないみたいだが俺の言葉を聞いて驚いていた。
「え、武具屋のおっさんって…え?あの人がそんな事を…」
「おい愛梨!しっかりしろ!」
愛梨は放心状態だった。
チクショウ。
今戦えるなら1番はやっぱり愛梨だ。
だが愛梨は今とても戦える状態じゃない。
とりあえず奴らに話だけでも聞かないと。
そう思っているといつの間にかタソマが前へ出ていた。
「アメノよお前何を考えているんだ!お前はこの村で長い間武具屋として過ごしてきただろう!」
先頭のおっさんに向かってタソマは言い放った。
というかあのおっさんアメノって名前だったのか。知らなかった。
「タソマ……お前には私がこの村に来てから随分と世話になりましたね。しかし私の本来の目的を知らないからこうなったんですよ」
「本来の目的?」
アメノが何かの紐を引いた。
その瞬間煙がアメノの服から吹き出し辺り一面が煙だらけになった。
「ゴホッゴホッ。なんだこれ?!」
煙が晴れて来ると相手のシルエットがだんだんと浮かんできた。
だが先頭に立っていたのは先程までのずんぐりむっくりとした男ではなく、すらりとした背の高い男だった。
「見るがいい、これが私の本当の姿です」
「ア、アメノ…?」
別人の様に変わったアメノにタソマはもちろん村人、愛梨も驚いていた。
「私の本来の目的…それは英雄アイリを殺すことです」
「な、何だと…」
全員が一斉に愛梨に注目した。
ザワザワする村人の声の中から「アイリ様を差し出せば全て終わるんじゃないのか?」という発言が聞こえてきた。
愛梨はもはや何が何だかんだ分かっていない。
どんどん動悸が激しくなっていく。
俺はその発言が聞こえた瞬間ブチギレた。
「今言ったヤツ誰だ!出てこいよクソが!」
叶人は村人の群れに飛び込んで行こうとした。
だが服を誰かに引っ張られた。その引っ張った正体は誰でもない愛梨だった。
「あ、兄ィ…いいから。やめて…」
服を引っ張った手は震えていた。
英雄はただの少女にいつの間にか戻っていた。
「愛梨…」
「わ、私が戦ってみる…」
愛梨は震える体を必死に前へ前へ進めた。
そんな姿をただ見ているだけの兄でいいのか。
言い訳がない。例えウザくても、腹が立っても守ってやってこその兄貴だ。
「愛梨、お前は下がってろ」
「兄ィ?」
俺はアメノや過激派の奴らへと向かって歩いた。
「カナトさん、無茶は止めてください!」
「いいんだ。俺に一度やらせてくれ」
タソマの説得に耳も傾けずどんどん近づいていく。何故だろう。さっきの様にビクビクしていない。何でだろう。
「おやおやカナトさんじゃないですか、先日はスナイダーを倒して頂き…」
「うるせぇよ。てめぇみたいなやつのせいで誰かが死ぬのは御免だ」
「まぁいいでしょう。かかってきなさい」
「その前に質問だ、何故愛梨を狙う」
いきなり核心を突く質問を投げかけた。
理由によっては手加減しないこともない、と考えた。
「何故か。あの人のためですよ」
「なら、てめぇをボコボコにしてその誰かを吐かせればいいんだな」
「そうですねえ、出来るのならばですが」
叶人は剣を一本生み出した。
「やってやるよ」
叶人は走り出した。
同時にアメノも走り出す。
開始の合図なんて要らない。
これは戦闘なのだから。
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