7日目ー祭りの開幕

やべぇどうしよう……。

威勢よく飛び出したはいいものの俺はそんな度胸のある人間じゃなかったはず。

何故だろうか。

「おいおい、どうしたんだ平民くん?威勢よく出てきたのは見せかけだけかー?」

過激派のやつらはケラケラ笑って俺を見ている。

「う、うううるせー!俺の能力は超ぉー強いからな!」

確かに「能力」は強い。

しかし俺自身は最近少し素振りをしているぐらいの戦闘ド素人。

今のも内心ビクビクなのを必死に抑えて絞り出した一言だった。

「ほー、お前の能力強いのか。自慢じゃないが俺は能力でここよりは小さいが一つの村を支配した事があるぜ」

あ……。

詰んだ。

村一つ支配って何だよ。もしかしたら俺よりも強いかもしれない。

仕方ない秘密にしておきたかったが能力を言うしかない!

「俺の能力は…頭の中で思い浮かべた物を作り出す能力だ!」

その瞬間過激派のやつらの顔から笑いが消え今までザワザワしていた空間がいきなり静かになった。すると過激派の1人がドサッと倒れこんだ。

「あ、ありえねぇ。こ、こここんなやつがあの伝説級の能力を持っているなんて」

お?もしかしたらいける?

リーダーまでビビってるし勝てるかもしれない。

「お前の能力は何だリーダーさん!」

「俺の能力は半径5メートル内の重力を操作する能力だ」

・・・・・普通に強いじゃねぇか!

てかなんかのマンガで見たのと似た能力だな。

「ま、まぁ強いんじゃない?」

こうやって威勢を張っていないとマジで心臓が破裂するかもしれないっていうレベルまで内心はバクバク。

一か八か剣を出して突っ込んで行くしかないのか?

いや相手の効果を試す絶好の武器がある。

「出てこい!」

「?!」

生み出したのは散弾銃。

最近になって銃の類を生み出せるようになってきたので遠距離戦闘をしやすくなった。

これで相手の能力のインターバルや色々と知れるはず。

パン。

大きな銃声が響いた。

銃口は二つあるので弾が2つでて中の小さな弾が広がるはず……だった。

しかし弾は出なかった。

「しまった…」

銃は生み出したが焦って肝心の弾を生み出すのを忘れていた。

過激派のやつらも見たことのない武器だから一瞬焦っていたが何ともなかったのでまたケラケラ笑い始めた

「見せかけだけの武器か。驚かせてくれやがって。次は俺の番だな」

「やべっ!」

俺は即座に弾を生み出し装填した。

だが相手はすでに走り出しており既に5メートル間近まで迫っていた。

「クソッ!」

逃げても意味はなかった。なぜなら体力勝負では負ける。確実に。

「今度こそ…」

パン。

改めて俺は引き金を引いた。

今度はちゃんと弾が出た。しかし相手との距離は近く弾を止められることを覚悟していた。

だがその覚悟は杞憂に終わった。

敵のリーダーは今までに見たことのない速さの弾を喰らった。

腰と腹部の辺りに命中した。

本物の弾をあまり知らないのであまり硬くはないはずだがあのスピードで射出されたので貫通こそしていないが血は出ている。

「グホッ…」

ドサッと崩れ落ちたリーダーは何が起きたのか分かっていなかった。

「ハァ…ハァ…何だよ今のは…」

「言ったろ頭で思い浮かべた物を生み出すって」

相手のリーダーを手負いにさせただけなのに叶人は明らかに調子にのっていた。

だが相手は怯えており、村の住民たちは「撤退させれるかもしれないぞ」と話していた。

リーダーはヨロヨロと立ち上がり俺を指差して言った。

「忘れているかもしれんが、今お前は俺の能力の適用範囲内にいるんだぜ」

しまった…!

ニッと口角を上げたリーダーが見えた瞬間身体が一気に重くなった。

地面が叶人と一緒に沈んでいく。

「これが…重力操作か…」

「どうだクソ野郎。俺に与えた痛み分お前にはそれ以上の苦痛を味わってもらうぜ」

ヤバイ。絶望的な状況だ。

まだ相手が動けるのに調子にのりすぎた。

何か能力を解除する方法は無いのか…。

ん?

そこでふと思い出したのは愛梨の話だった。

「敵がいないようなこんな世界でもチンピラ共に襲われた時の能力の解除方法だけ教えといてあげるわ。1つ。相手を気絶させる。2つ。術式を使って能力を解除する。3つ。相手に自分は絶対に勝てないと思わせる。この3つよ」

確かこの3つだったはず。

ならば今取るべき最善の行動は…。

「おい!お前の能力はこんなクソッタレなのか?思っていたよりもクソだったもんで呆れたぜ」

叶人は未だに内心バクバクだが今はこうするしかなかった。

相手に自分が敵わないと思わせればいい。

だから敢えて能力を相手に使わせてそれ以上に強いということを見せつければいい。

「なんだとコラァ!」

リーダーはこんなチョロい煽りにすぐにのってきた。こんなにすんなりいくとは思ってなかった。

だがこの方が都合がいい。

「だからお前の能力がクソだって言ってんだよクソ野郎!」

「てめぇ絶対コロス!」

さっきとは比べ物にならないくらい一気に身体が重くなった。

立つことが出来ず地面にうつ伏せの状態だったがこれで準備は整った。

「これでいける!来い!」

叶人が生み出したのはとてつもなく大きいドラゴンだった。

最近気付いたことだが生物も生み出すことができると分かった。

だからドラゴンを生み出せた。

「なんだこの大きさのドラゴンは……」

この世界のドラゴンは何処かへ雲隠れしたと聞いた。だから驚くのも無理はない。

相手のリーダーが一歩退いたら身体がフッと軽くなった。

叶人は立ち上がって言い放った。

「いいかお前ら!今回は見逃してやろう。だが次に見つけたら容赦なく潰す!さっさと行け!」

「クソッ。覚えてろ」

リーダーを先頭に過激派は撤退していった。

連中の姿が見えなくなると住民たちから歓声が上がった。

「カナトさん!ありがとうございます!本当に助かりました」

タソマは叶人へ近づいていった。

「あぁ気にすんなよ。ん?」

叶人は少し後ろの方でこちらを見て怖がっている子供達を見つけた。

あぁそうか。

叶人はドラゴンをすぐに消した。

すると怖がっていた子供達は明るい笑顔になった。

「とりあえず村の事件は防げたみたいだな。じゃ祭りがあるまで適当にブラブラしてるよ」

「分かりました。どうぞご自由にお周り下さい」

タソマと別れて村を周ることにした。


ブラブラと村を周っているとどの人も皆んな笑顔で祭りの準備をしていた。

何か面白そうな店はないか探していると不思議な看板を出している店を見つけた。

看板からしておそらく武具屋だろう。

興味が湧いたので叶人は店に入った。

「ごめんくださーい」

見た感じ人の気配はなく、武器や防具が店内に飾られていた。

明かりはついておらず窓からはほぼ沈んでいる夕陽が差し込んでいた。

店内を見回っていると何処かで見たような剣を見つけた。

「ん?この剣って確か…」

「おや、カナトさん?ですね」

店の奥から小柄でずんぐりとした男が出てきた。

これが俗に言うドワーフと言うやつだろうか。

「あ、すみませんお邪魔してます」

「いえいえ構いませんよ。と言ってもカナトさんは武器なんて買わずともいいと思いますが」

「いやこの武器をどっかで見たことあるなーって思って」

男は寄ってきて剣を見た。

「あぁこの剣はアイリ様のお使いになっている剣ですね」

「道理で見たことあるわけだ。しかし愛梨はここで買ってるのか?」

「えぇよくお使いの方が買いに来ますよ」

そんなにいい武器なのか。

なんかあったらここに買いに来ようかな。

「じゃ俺は行くね」

「はい。またのご来店をお待ちしています」

叶人は店を出た。

もう外は暗くなってきていた。

「そろそろ広場へ行くか」

叶人は広場へ向かった。

広場に着くと丁度タソマが祭り開会の太鼓を鳴らしていた。

夜にも関わらず村は明るく賑やかだった。

「よし、今日は楽しむぜ!」

叶人の異世界生活初めての祭りが始まった。

裏である策略が進んでいることも知らずに…。

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