5日目ー英雄たる所以
今日も今日とてゴロゴロしていた叶人。
いい加減同じゲームにも飽きてきていた。
「うーん。新しいゲーム生み出すにもこのゲーム以外本気でやってなかったしなー」
と呟いているとバン!とドアが開いた。
見なくても分かる。愛梨しかいない。
「何?まだそんなのやってたの?」
「うるせー。何の用だよ」
「今日友達が遊びに来るから兄ィは部屋でじっとしといてよ。てか部屋から出ないで」
おいおい。この暇な状況で部屋から出るなとか、何ですか?俺を殺したいんですか?と言いたかったが良いことを思いついた。
「あぁいいぜ。じっとしといてやるよ」
「何でそんなニヤニヤしてんのよ気持ち悪いわね。何か企んでるんじゃないでしょうね?」
「そんな訳ないだろ」
まぁ嘘だけど。
その友達とやらに挨拶という名目で邪魔してやる。その友達とやらが可愛い場合はとても紳士に対応しよう。そうだそれが良い。
「まぁいいわ。じゃあじっとしといてよね」
そう言うと愛梨は部屋をサッサと出て行った。
ドアが閉まるのを確認した俺はクローゼットを開けて衣装を確認した。
「日頃の鬱憤晴らす作戦開始だぜ!フハハハハハハハハハハ!」
2時間後馬車が一台門へ入ってきた。
「ん?あれか」
家のドアはギリギリ死角なので降りるところは見えない。故にどんな人か分からない。
「よし。作戦開始だぜッ」
普段より少しオシャレな格好をして玄関へ向かった。途中愛梨に見つからないように注意しつつ美人であることを期待して向かった。
玄関が近くなると愛梨の声が聞こえてきた。
「サフィちゃん!久し振り!」
「アイリさん!お久しぶりです!」
可愛らしい声が愛梨の声に続いて聞こえてきた。
近くの角からそーっと覗いたが視力が良い訳ではないためハッキリと見えなかった。
「仕方ない。この角の向こうから歩いてきたという程でいこう」
2人の楽しげな声が近づいて来るのに合わせて角を出た。
「ん?愛梨じゃないか。そちらがお友達の子かい…っとー!」
愛梨の隣に立っていた少女はまだ幼げの残るニーナに引きを取らない程の美人であった。
愛梨は「黙っていれば」そこそこ美人な顔立ちをしているのでこの2人が街を歩いていたら男は振り向くに違いないだろう。
「あんた部屋にいろって言ったでしょ!」
「あの…そちらの方は?」
初めて見る男を不思議そうな目で見ているソフィはなんとも言えぬ可愛さだった。
「お初にお目にかかります。愛梨の兄の叶人です。愛梨がいつもお世話になっています」
「何その挨拶?キモいんですけど」
おいそこうるさいぞ。
「まぁ愛梨のお兄様でしたか。はじめまして。隣国のフラマード国第三王女ソフィと申します。愛梨とはいつも仲良くさせて頂いております」
しっかりした子だなぁ…ん?耳が長い…。ということはまさか。
「その耳。もしかしてエルフの方ですか?」
「ええその通りですよ」
ニッコリと笑うソフィは後光が差しているかのような眩しい笑顔だった。
「エルフなんて本当にいるんですね」
「はい。ここにいますよ」
さぁここからだ。
ここからさらに好感度を…
「ほらソフィ、行くわよ」
「あ、ちょっと待って…。ではお兄様また」
「うん。またね」
愛梨に手を引っ張られてソフィは奥へと消えていった。
チクショー。良いところで切りやがって。
だが俺には作がある。
「作戦開始だぜーー!」
プラン1.愛梨が出て行った時に偶然を装って2人きりになる。
これは愛梨の英雄としての善意を利用した少しばかり心の痛む作戦だ。また今度なんかおごってやろうかな。
「アイリ様実は……」
「何ですって?分かったすぐに行くわ。ごめんねソフィ。ちょっと行って来るね」
「うん。気をつけてね」
やってきた使用人に耳打ちされて愛梨は飛び出して行った。
街で愛梨の助けを待っている人がいる。
という俺の流したデマ情報を聞いて。
「第1段階成功だ」
愛梨が出て行き食堂で1人になったソフィにあくまで「偶然」を装って近づいて話しかけて好感度を上げる。我ながら完璧だ。
「おやソフィさん。1人かい?愛梨はどうしたんだい?」
「あ、お兄様。アイリはどこかへ行ってしまって…」
「愛梨のやつ折角ソフィさんが来てくれているのに行くなんて…。一言言ってやらないとな」
「いえいえ。逆に褒めてあげてください」
ほぉ。思っていたのと違う反応だな。
てっきり「本当に困った人ですね」なんて言ってクスクスと笑うのかと思っていた。(完全に俺の妄想ではあるのだが)
「褒めるってどういうこと?」
「アイリは困っている人がいれば誰から構わず助ける良い人です。叱るなんてとんでもないですよ」
あいつそんなに良いやつだったか?
表と裏の差が激しいのかな。
「現に私もアイリに助けられましたし」
「あいつにか?」
これまた予想外だった。
普通にどっかで出会った友達かと思っていた。
「助けてもらったってどういう事だい?」
「アイリは…私たち王族を救ってくれたのですから…」
3ヶ月前
フラマード国は反乱軍によって占拠されていた。
ボスの能力は服従。
この能力で国王を奴隷にして国を自分たちだけのものにしようとしていた。
元々この国は経済もそれなりに発展しており豊かな国ではあった。
占拠が始まって約1ヶ月。
反乱軍の規模は大きく、どの騎士団も手が出なかった。
そんな時だった愛梨達の隊がやってきたのは。
既に第1王女や第2王女は牢へ捕らえられ、奴隷のような生活を送っており次はソフィの番だったという。
そんな酷い状況に置かれていた王城へ愛梨は乗り込んでいった。
「反乱軍の者共よ。今ここに我らは貴様らに宣戦布告する!一刻も早くこの国から去れ!」
愛梨は大広間のど真ん中で叫んだ。
もちろん一瞬にして辺りは軍に囲まれてしまっていた。
だが愛梨達の隊は全員が馬鹿みたいに強いらしく。国の直属の騎士団よりも余裕で強かったらしい。
ソフィのいる王室へ乗り込んで行き、ボスとの最終戦が始まった。
愛梨の身体能力超強化でもちろん相手を圧倒はしていた。
だが相手も基礎の戦闘能力がそれなりに高いらしく紙一重で攻撃をかわしていた。
一瞬でも目を合わせたら負ける。
そんなギリギリの状態で戦っていた。
約30分にも渡る激闘の末なんとか愛梨は勝利し国を、王族をも救った。
それが英雄と呼ばれる所以である。
「以上が私の過去です」
「あいつがそんなにすげぇやつだったとは…」
今まで見くびっていた妹への見方は変わってきていた。
丁度話も終わりタイミングの良いところで愛梨がバン!とドアを開けて入ってきた。
「本当になんなのよ…街を駆け回っても誰も助けなんて求めて無いじゃないの…ってなんで兄ィがここにいんのよ!」
「愛梨。俺はお前のことを今まで少しバカにし過ぎたようだよ。これからは少し控えめに言うことにするよ」
「あんた何言ってんの?キモいからどいて。てかさっさと部屋に戻ってよ」
ほんとコイツは腹立つな。
褒めてやってもこれだ。
「ほらソフィ行こっ!」
「あ、はい。ではお兄様また」
「カナトでいいよ。じゃあね」
ニッコリと笑いながら手を振ってソフィは愛梨に続いて部屋を出た。
バルコニーに出て空を見上げるとすでに日は沈んできていた。
「英雄か…あいつもよくやったな」
ここは兄としてこう言っておこう。
「ごめんなさーい!さっきの情報はデマ出したーー!許してくれ愛梨ー!」
3つほど隣の部屋からハァ?!と大きな声がしてドアが開く音がした。
「来るの早くね?!」
「このバカ兄ィーッ!」
「痛ッテーーー!」
男の叫びは綺麗な夕空へ響いていった。
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