4日目ー初仕事
早いもので転生してから早1週間が過ぎていた。
この1週間叶人は愛梨宅で悠々自適に快適な暮らしを楽しんでいた。
ゴロゴロしていても朝昼夜ちゃんとご飯がやってきた。フランスのコース料理みたいな高級そうな料理が毎食ごとに。
但し材料は知らない。というか聞きたくない。
聞くと今後食べたくなくなる可能性が少なからずあるためだ。現に愛梨は食べない料理がある。元の世界では好き嫌いが無かったはずだったのに。
という感じで1週間を過ごしていたがとうとう妹から魔の宣告がやってきた。
「あんたそろそろ働きに行きなさいよ。家から追い出すわよ」
「お、おおぅ……」
そして今日。
俺はギルドへ職を探しに行く。クエストでもなんでもいい。金さえ稼げればいい。怪しくさえなければ…。
またしても憂鬱な気分でギルドへ向かうとギルドの前で憂鬱な気分を飛ばしてくれる美人がルンルンと掃除していた。
俺もルンルンで行こうと向かっていくとむこうもこちらに気づき手を振ってくれた。
「カナトさん!お久しぶりです!」
「ミーナさん久しぶりっ。今日はちょうどミーナさんに用事があったんです」
「もうっミーナでいいですよ。それで用事とは?」
やっぱりミーナさんは可愛い。「もうっ」とか可愛すぎるだろ。
いや、それよりも用事を伝えなくては。
「ちょっと仕事とかを探しに来たんですけど…クエストとかでもいいんで何かありますか?」
「初仕事ですね!任せて下さい!取り敢えず中に入りましょうか」
初仕事を探すのを頼まれてテンションの上がるミーナに誘導され俺たちはギルドへ入っていった。
「では少々お待ちを!」
そう言ってミーナは駆け足でカウンターの奥へ入っていった。
数分すると「お待たせしましたー!」と1番奥のカウンターからミーナが顔を出した。俺は足早に向かい置いてある椅子に座った。
「では早速希望の仕事等あれば伺いますが何かありますか?」
「そうだなー。楽だけど稼げるやつとかある?」
やはりこれに尽きるだろう。まぁ無いとは思うが聞くのはタダだ。
「んー。そうですね…」
ミーナは手元にいつのまにか置いてある紙を見ていた。恐らく仕事が書いてあるのだろう。
「こちらはいかがでしょうか?クエストにはなりますが早くて収入もそれなりに良いクエストですよ!」
「お!何なに?」
「スネイダーを5匹倒すクエストです!収入は10000タルカです!」
10000タルカ。それがどれぐらいの価値なのかは分からない。
だが1万だ。万だ万。絶対いいだろう。
そんな淡い希望を持って
「やりましょう!」
なんて威勢よく言い放ち街から離れた森へ出発したのがつい1時間前。
俺は既に後悔していた。
理由はいかにもシンプルだ。
スネイダーの存在を知らなかった俺はどうせ小動物的な生物だろう。なんて軽い気持ちで向かったため装備も何もせず普段着に生み出した刀一本だけで向かった。その結果後々後悔することになる。
スネイダーの姿は絵に描いてもらったので見れば分かる。名前の通り蛇と蜘蛛を合わせた感じのあまり見た目のよろしく無い生物だった。
森を散策して20分が過ぎたころようやく草むらからガサガサと音がした。
「ようやくお出ましか……んっ?!」
見た瞬間全てを悟った。
小動物を倒すだけで良い収入が手に入るはずがない。なんてバカなんだ俺はッ!
スネイダーの胴体は3m近くあり、その気持ち悪い見た目がますます強調されていた。
逃げなきゃ死ぬ…。
本能的に俺は走り出していた。
「ギヤァァァァァァァァァァァァ!」
走る俺の後ろからはスネイダーも追ってきていた。ていうか愛梨が敵はいないとか言ってたのになんなんだ。普通にいるじゃねーかよ!
そして俺は決断した。戦うしかない。
しかし遠距離戦の方がいいが銃を生み出すには時間が足りない。その間に食われる。
「一か八か…」
俺はクルリと振り向き迫ってくるスネイダーに向かって走っていった。
「うおりゃぁぁぁぁぁ!」
俺は目を瞑ったまま剣を振り下ろしていたのでイマイチ状況が掴めていなかった。
恐る恐る目を開けると目の前には足が一本転がっていた。
「ん?一本だけ?てことは…」
体の穴という穴から冷や汗が吹き出る。
そーっと後ろを振り向くと足を切られてお怒りのスネイダーさんがこちらを見て
「キシャァァァァァァァァァァァァッ!!!」
と咆哮した。
「クソッタレーー!」
そうしてなんやかんやで1匹殺すのに30分近く時間をかけて原っぱに寝転がって後悔しているのが現在の状況だった。
「あぁクソッ!もっとよく聞いてから受けるべきだったな…。ミーナさんの顔見てたら断るに断れないぜ…」
そうやって感傷に浸っているとまたも奥の草むらからガサガサと音がしてきた。
「おいおいまたかよ…。流石にキツイぜ」
今回はしっかり装備をつけているものの流石に体力がもたない。
だけどモンスターも待ってはくれない。
目の前の木が倒れて先ほどまで見ていたあの気持ち悪いモンスターが現れた。
「アァァァァァァァァァァァァ!」
「やっと終わった…」
既に日は落ちて辺りは暗くなっていた。
トボトボとギルドに帰った俺はミーナさんのいるカウンターへ向かった。
「ミーナさんただいま。やってきたよ」
ミーナはビックリして聞いてきた。
「随分と遅かったですね。まぁあのモンスターは中々大きいので大変でしたよね。ご苦労さまです!」
「あ、ありがとう…。それで報酬は…」
ポンと手を合わせニーナは慌ててお金を出し始めた。恐らく忘れていたのだろう。
しかしそれは担当者としてどうなのだろう。
可愛いから許すが。
「ではこちら報酬の10000タルカになります!お納め下さい」
報酬を受け取った俺はミーナさんに挨拶をしてギルドを後にした。
家に戻ると食事室では既に愛梨が食事をしていた。
「あら?やっと帰ってきたの。遅かったわね。何やってたの?」
「スネイダーの討伐」
それを聞いた愛梨は「アハハハ」と笑い出した。
「な、何だよ!」
「あんたあんな雑魚にこんな時間かけてるの?呆れて物も言えないわ。で、報酬は?」
「1万タルカだ」
「まぁ妥当ね。日本で言うところの二千円ぐらいなんだけどね」
今何かとてつも無く嫌な事を聞いた気がする。
「今何て言った?」
「だからー日本で言うところの二千円ぐらいだっていってんのよ」
嘘だろおい。
あれだけ苦労して二千円とはこの世界も中々酷いものだ。特に報酬が。
「しかも物価は日本とあまり変わらないしね」
愛梨がさらに追い討ちをかけてくる。
俺は今日二千円を稼ぐ為に命を懸けたらしい。
取り敢えず食事を食べて落ち着こうと思い、食事を食べて部屋に戻った。
しかし我に返って思い出した。
二千円に命を懸けたことを。
「このクソッタレーーーー!」
またも夜空に男の悲しい叫びが響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます