3日目ー冒険者登録とギルドと美人と

美しい水色の空の下、叶人は憂鬱な気分で歩いていた。

転生して2日目の昨日を能力の練習と称してゲームやマンガを生み出して一日中ゴロゴロしていると愛梨から「ゴロゴロしてないでギルドに行って来なさい!」と言われたため朝早くに叩き起こされて街を歩いていた。

しかし昨日の練習で分かったことがある。

1.見たことがあるものは大体のことがイメージできれば生成できる。(ゲームなんかはこの性質のおかげで簡単に生み出せた)

2.見たことがないものはしっかりと細かく想像しなければならない。(剣とか銃とかの類は生み出すことが難しかった)

大まかにはこの2つを学んだ。

「しかしギルドって言われても敵がいないんじゃあ行っても意味ないよなぁ」

なんて考えながら歩いているとギルドの看板が見えてきた。

「お、あれがギルドか。でかい建物だなぁ」

上は5階まであるこの街では1番大きい建物であるギルドは看板もそれなりに大きい。

歩いていると嫌でも目に付いてしまう看板だった。

ドアの前に立ってもドアは開かなかった。まだ自動ドアは発明されていない様だ。

ギィとドアを押して入っていくと中からは賑やかな声が聞こえてきた。

「いらっしゃいませー。なんの御用ですか?」

ドアの近くにいた女の人に話しかけられた。

恐らくギルドの職員だ。

「えーと、冒険者?登録でしたっけ?それをしに来ました」

「登録ですね。ではこちらへどうぞー」

案内されるがままに叶人は女の人の後ろをついて行った。カウンターに到着すると

「少々お待ちください」

と言って女の人は行ってしまった。

「中々美人だったな…」そんな事を考えているとカウンターの奥からさっきの人がやってきた。

「では改めましてあなた様の担当をさせて頂きますニーナです。よろしくお願いしますね」

「あ!よろしくです!」

駄目だ微笑みながら言われると笑みを隠せない。

妙にテンションが高い返事になってしまった。

「ではこちらに必要事項を記入して下さい」

「あ、分かりました」

ツラツラと日本語で書いているとニーナがんっ?と不思議そうな顔をしている。

「あの、どうかしましたか?」

「いえ。その言語を見たことがないもので…。出来れば共通言語であるアステア語でお願いしたいのですが…」

「え、えーと…」

不意に出てきた知らない言語。日本語で話していたので書体が違うなんて思いもしなかった。

「ちょっと待ってて下さい」

そう言って叶人はスマホを取り出した。

こんなこともあろうかと愛梨にも渡していたのだ。

プルルルルプルルルル。

2回のコールで電話は繋がった。

「もしもし俺だ。愛梨か?」

「何よ?何の用?」

愛想の無い適当な反応。少しイラッとくる。

「アステア語だっけ?そんな言語知らないから登録できないんだけど」

はぁ。と溜息が聴こえてきたが3日目で言語覚えてる方がおかしいだろ。とツッコミたくなる。

「そんなんも知らないの?兄ィは本当に馬鹿よねー」

「うるせー。さっさと対処法を教えろ」

「アステア語はそんなに簡単に覚えれる物じゃないのよ。今からギルドに行くから待ってなさい」

そう言い残してプツリと電話は切れた。

仕方なくカウンターへと戻るとニーナがこちらに気付いてニコっと笑ってくれた。

先程までのイライラが全て吹き飛んでしまうぐらいの神々しい笑顔だった。(ただただニーナが美人で叶人のどストライクというのもあるが)

「すみませんね。もうすぐ連れが来るんでそれからで大丈夫ですか?」

「はい!大丈夫ですよ」

ニコリと笑うニーナを見て叶人は「守りたい、この笑顔」と思わずにはいられなかった。

少しすると愛梨がやって来た。一応英雄なので顔は大きめのマスクで隠しているが。

「うちの兄ィがすいません。何かご迷惑をおかけしませんでしたか?」

こんなちゃんとした言葉遣いの愛梨見たことない。

白い目で愛梨を見ているとニーナはまたニッコリと笑って

「大丈夫ですよ。いいお兄さんだと思います」

だなんて言われた。

叶人は鼻の下を伸ばしてデレデレしていたが足を愛梨に蹴られてすぐさま現実へ舞い戻された。

隣の愛梨からは白い目で見られ前にいるニーナも流石に苦笑していた。

「ではこちらに必要事項の記入を」

と改めて登録用紙を渡された。

「よし。頼んだぞ愛梨」

「うるさいわね。分かったわよ」

ブツブツ言いながら愛梨は体を屈めて書き始めた。書いている字を見てみたが全く理解ができない文字だった。

「出来ました」

ペンを置いて体を起こした愛梨は紙をニーナに差し出した。

「はい。お預かりいたしますね。確認致しますので少々お待ちください」

と言われたので呼び出しがあるまでベンチに座って待つ事にした。

「それにしてもあんたが白憐高校に行ってるなんて以外だわ。あんたにそんな学力あったのね」

「うるせー。俺を少し舐めすぎだぜ」

「はいはいすごいわねー」

やっぱりイライラする。本当に人をイライラさせるのが上手い妹だ。

「登録待ち番号1番の方ー」

ニーナの呼び出しがかかったので再びカウンターへ戻った。

「確認が終わりました。えーと、名前はカナトさんですね。ただ…能力だけが少し分からなくて。能力の詳細を頂けませんか?」

愛梨は知っていたのに知らないんだな。とか思ったがとりあえず説明することにした。

「えーと、簡単に言うと思い浮かべた物を生成出来るっていう…」

「ぶ、物体生成能力ですか?!」

話を遮ったニーナは身を乗り出して聞いて来た。

しかも近い。目のやり場に困る。

また鼻の下を伸ばしていると隣から物凄く汚物を見るような目を向けられていることに気づいて我に帰った。

「そ、そうです!物体生成能力です」

そう返事するとニーナはプルプルと震え出しバッといきなり拳を突き上げてガッツポーズした。

「やったー!超レア能力の担当になれました!やったー!」

カウンター越しだがピョンピョン飛び跳ねるニーナを見ていると和む。

あぁずっと見ていたい。

これ以上愛梨にイライラさせられたくないので出来るだけ顔に出さないように頑張っていた。

「でもどういうことですか?俺の能力ってそんなにレアなんですか?」

ハッと気づいたニーナは顔を赤くして改めて椅子に座り直した。

「すいません。少し取り乱してしまいました」

「いえいえ全然問題ありません」

むしろもっと見たいです。

なんて流石に言えなかった。

「そうですね。こういったレア能力の担当になると担当者としてのランクがアップするのですよ。だからちょっとテンション上がっちゃって」

「なるほどね」

「んで、うちの兄ィの冒険者証は?」

愛梨が急に話題を変えるもんだから少しニーナも戸惑っていた。

「も、申し訳ありません!こちらになります!」

ニーナはカードをスーッと出してきた。

それを愛梨は取って渡してきた。

「はい、あんたのよ。大切にしなさい」

「あ、あざーっす」

受け取った俺はポケットへしまった。

「ではこれからは私があなたの専属担当になりますのでこれからもよろしくお願いします!」

「こちらこそお願いします!」

こんな美人が俺の専属担当になってくれるなんて。俺近々死ぬかもしれないな。もう一回死んでるけど。

「じゃ用も終わったし帰るわよ」

「ん、あぁ。ニーナさんまた来ますねー」

「はい!お気をつけてー」

ニーナさんに挨拶をして俺と愛梨はギルドを出た。外はまだ太陽が燦々と輝いていた。

「さーて、帰ったらゲームするかー」

「あんたはアステア語を勉強しなさい!」

「痛っ!」

ボコっという音が叶人の頭から発され賑やかな街へ消えていった。

転生も楽なもんじゃなさそうだ。

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