2日目ー転生したはいいものの
「俺は一体何をすればよいのか」
叶人は悩んでいた。右頬を赤く腫れあがらせて。
恥も制服も捨て去って現在妹の力で豪邸に居候することになった転生初日の夜。慣れない格好にソワソワしながら出来事を振り返っていた。
昼間に大勢の人の前で高校の制服で飛び出して妹の名を叫び、その後妹から色々話を聞いて(ほとんど話は入ってこなかったが)、現在に至る。
ー正午過ぎ。豪邸にて(愛梨宅)。
「なんでここに兄ィがいんのよ!」
「俺も死んだ!」
疑問と怒りの混ざったよくわからない表情を浮かべる妹の前に正座した俺。
その俺は妹に再会できた喜びと転生したことによりテンションが上がり思わずドヤ顔で答えてしまった。
この絵面はどうなのだろうかと我ながら思ってしまう。
「てかなんで死んでるのよ」
「簡単に言えば信号無視だな」
「呆れた。私が死んで1年経ったら今度は兄ィも死ぬってなんなのよ!」
「さぁな。それよりもお前こそなんだよ"英雄"って」
一瞬ピクリとしたようだが溜息をつき、語り始めた。
「私も最初ここに来た時は戸惑った。あんたみたいにアニメを見てた訳でも無いから転生なんて知らなかったのよ」
「だから言ったろ?アニメは見とけって」
「そこはいいの!で、その後1週間くらいはこの街を歩きまわったわ。そこである情報を手に入れたの。"この世界は誰でも能力を持っている"っていうことをね」
「ほほぅ…」
能力と聞いて更にアニメっぽいなー。と思ったがふと疑問に思った。
「ていうことはだ。俺もお前も何かしら能力とやらを持っているんだよな?」
「その通りよ。私の能力は身体能力の超強化。これのおかげで冒険者になって旅に出れたのよ」
すげぇなおい。
なかなかに凄い能力を聞いて期待は膨らむばかりだ。
「俺の能力ってなんだ⁈」
「ちょっと待ってなさい」
そう言うと愛梨はドアの方へ歩いて行き部屋から出て行った。
それにしてもだ。よく英雄なんかになれたものだ。昔は臆病な奴だったのに…
過去を振り返っていると
「お待たせ」
と愛梨が部屋へ戻ってきた。後ろにはフードを目深に被ったおばさんを連れて。
「この人は人の能力を鑑定する能力の持ち主よ。私が雇っているの」
「じゃあ早速お願いしようぜ。お願いしますねおばさん」
コクリと頷いておばさんは叶人の目を見つめた。フードの陰でやはり顔は隠れていたが目を見ている間おばさんの目は光っていた。
目の光が消えたと思ったら今度はポケットからペンと紙を取り出して何かを書き始めた。
「な、何て書いてあるんだ?」
日本語や英語ではない。見たこともない書体だった。異世界なので当たり前かもしれないが。
おばさんは愛梨に紙を手渡した。
愛梨がそれを見てフッと笑った。
「おいおい何笑ってるんだよ。さっさと教えろ俺の能力を!」
「いいわ教えてあげる。あんたの能力は……勇者への道ブレイブロードよ」
聞いてもイマイチ分からない。詳細もなく能力名だけ言われても。
「で、そのブレイブ何とやらの能力は?」
「単純には生成能力ね」
「生成能力ゥ?」
「頭の中でその物を思い浮かべて生成することのできる超レア能力よ」
「お、おお…」
チート級能力に驚いた叶人は言葉が出てこなかった。
「平凡な兄ィには似合わない能力ね。見た時少し笑っちゃったわ」
「うるせーよ。もしかしたらお前より強いかもしれないだろ」
「もしかしたらじゃなくて、絶対よ。こんな能力この世界にも指折りするぐらいしかいない能力よ」
「マジかよ」
転生初日に英雄妹を超えてしまえる様だ。
「なんて楽な世界だ最高だ」なんて考えていると横槍を指す様に「ただし!」という愛梨の声が耳に飛び込んできた。
「な、何だよ!」
「その能力は出したいものをただ思えばいいだけじゃない。大分詳しく思い浮かべないと出てこないから即座に想像する力が必要よ」
「な、なるほど」
できるかな。そんな大層なこと。
「まぁ頑張りなさい。そしてここからはこの世界の歴史について教えてあげるわ!」
「あ、はい」
そこからは本当に地獄だった。
延々と正座のまま話を聞かされて、寝そうになったら顔面ビンタされて。
兄としての威厳は丸潰れだった。もはや愛梨と立場が完全に逆だった。
そんな地獄がやっと終わり気付けば夜になっていた。
「お、終わったのか…」
「ええ。あら、もうこんな時間ね。私はもう寝るわ。この部屋を自由に使っていいわよ」
「ああ。ありがとう」
愛梨はトコトコとまたドアの方まで歩いて行き部屋を出て行った。
そういえばあのおばさんいつの間にかいなくなっていたな。
何はともあれゆっくり出来る時間がやっと取れることに変わりはない。だがここに布団やベッドはなくあるのは机と椅子だけのただの少し広めの部屋だった。
「うーん。まずはベッドでも作りますか」
スッと立ち上がり頭の中でベッドを浮かべているとドアが開き愛梨がやってきた。
「おう。なんだ?」
「言い忘れたけどもうこの世界にほとんど敵とかモンスターといった類はいないわよ」
「えっ」
「じゃ、おやすみ」
バタンとドアが閉まりしばしの間部屋は静寂に包まれた。
そのまま無心でボーッとしていたら今に至った。
「さて、敵もいないこの世界…」
ベランダへと叶人は歩いて行き大きく息を吸って外へ向かって叫んだ。
「何の為に俺は転生したんだよコンチクショーーーーッ!」
雲ひとつない星の輝く夜空に男の悲しき叫びが響き渡った。
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