英雄妹と平凡兄の異世界日記
高雨未知
1日目ー転生と再開
「ピリリリピリリリ」
7:00丁度に針を刺す時計が鳴っている。
「…ん…んー」
枕元に置いてある時計のボタンを押してアラームを止める少年。
グッと腕を伸ばし布団から出てキッチンへ向かった。
冷蔵庫から卵とベーコンを出してフライパンに火をかける。そして温まったフライパンでベーコンと卵を入れる。毎朝やっている動作だ目を見なくてもいけるかもしれない。
出来るのを待っている間に制服に着替える。シャツのボタンを1つ1つ留めていき、ズボンを履いてベルトを締める。着替えが済むとまたキッチンへ戻る。そしてベーコンエッグを皿に盛ってテーブルについて朝食を食べる。なんら変わらないいつものことだ。
食べ終わったらキッチンへまた持っていき皿を洗う。部屋に戻ると仏壇に手を合わせる。仏壇には笑顔で写る少女の写真。
「あれからもう1年か」
よっと立ち上がって鞄を手に取り、ドアに手をかけて
「行ってきます」
を言う。いつもの日常が始まる。
まだ夏の日差しが照らす夏休み明けの初日。
学校へ向かっていると後ろから背中を叩かれた。分かってる。あいつしかいない。
「よっ叶人!夏休みはどうだったよ?」
「弘樹さー、もうちょっと威力弱くしてくれないかなー?」
隣でヘラヘラ笑っているのは友達の弘樹。昔からの親友で俺が鬱になりかけた時に助けてくれたのも。こいつだった。
「そういえば妹ちゃんが死んでからそろそろ1年だっけ?」
「そうだな。1年って早いな」
あの時も丁度こんな暑い日だった。
「じゃあ行ってくるよ兄ィ」
「おう、気を付けろよ」
それが最後の会話だった。友達の家に遊びに行った妹は途中で交通事故に遭い中学3年にしてこの世を去った。親を早くに亡くした俺は妹もいなくなり鬱になりかけたがこの弘樹のお陰でそこからなんとか立ち直ることができた。
「あん時のお前はマジで目が死んでたもんな」
「仕方ないだろ。お陰で狭いアパートが広く感じるんだからな」
「まっお前も元気になったし天国の妹ちゃんも大丈夫だろう」
信号を待っていながらそんな話をしている時だった。赤信号に気づかなかった俺は信号無視している人につられて横断歩道へ踏み出してしまった。ノートを見ていた弘樹は俺に気づいた。
「おい叶人!信号赤だ!」
「やべっ!」
だが気づくのが遅かった。体に重い衝撃が走り俺の体は宙に浮いていた。うるさいクラクションと夏の日差しの中で意識が遠のくなか耳元で弘樹の呼ぶ声が聞こえてきた。だが体が動かない。
「俺こんなあっけなく死ぬのか…」
意識はそこで途切れた。
次に気がつくと俺は街のど真ん中に立っていた。
「どこだここ?」
賑やかな人達のざわめきと屋台の勧誘の声で満たされている、商店街のような所だった。
少しぶらついていると日本ではないことに気がついた。
「もしかしてこれは最近アニメでよくある"異世界転生"なるものなのか…!?」
内心喜んでいた。だがすぐ我に返って気がついた。
「金が無い」
行くあてもなく街の出入り口の門近くをぶらついているといきなり街に鐘の音が鳴り響いた。
「なんだなんだ?」
人々は歓声をあげていた。
「英雄のご帰還だぞ!」
「ついに帰ってくるのか!」
など辺りから英雄が帰ってくるとかなんとか聞こえてきた。
(この世界には英雄なんているのか…)
興味が出たので見てみることにした。
まず荷物を引いた馬たちが入ってきた。荷物を見たところ大人数のようだ。荷物の後から続々と入ってくる馬に乗った人達。そしてある人が入ってきた瞬間街は歓声と拍手のオンパレードになった。
どんな人かと思い見ているとビックリして二度見してしまった。
「あれ…愛梨じゃねぇかよ…」
英雄の姿は1年前に死んだはずの妹だった。
人混みを掻き分け最前列まで出ていき叫んだ。
「おい!愛梨ー!」
だがこの歓声の中で聞こえていないようだ。
しかし俺はなんとしても話を聞きたかった。
「クソッ!目立つのは嫌いだが…」
俺は恥を承知で大人数の集団が通る道へ乗り出して再び叫んだ。
「愛梨ーー!」
ビクッとした愛梨はこっちを見た。ようやく俺に気づいたようだ。
馬を止めた愛梨は馬から降りてこちらへ向かってきた。
「な、なんで兄ィがここにいんのよ…」
「久しぶりだな愛梨」
こうして異世界に転生した俺は1年振りに妹と再会した。
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