第13話 其処は見知らぬ異世界

テツと出会ったとき、街はキラキラと輝いていた季節だった。クリスマスという季節なんだって今は分かる。


そして、今。

梅雨という、雨の季節。


以前は毎回、寝る場所を確保するのに大変な、いやぁな季節だった。

どこも、ビショビショ。

乾いてる場所なんて見当たらない。


雨を避けるところもあまりない。

動けば必ず、濡れる……。


食べ物を確保するのも大変だった。


今はテツの家にいて雨に濡れることもない。ご飯もテツと一緒に作って食べることができるから大丈夫。


今日はショッピングモールと言うところへテツときている。


なんなんだ、ココは!


いつも行く店とは桁違いに大きさが違う!デカイ!


不思議な場所だった。


色々なサイズにスペース分けされてる店?


婦人服、紳士服、靴、眼鏡、書店……


どこもかしこも人、人。


『平日だから人は少ないよ』


って言ってたのに多いじゃないか…。


1日いても大丈夫、って何?


う〜んとね。今、ボクとテツがいるのはフードコートと言われる場所。

ちょっとした休憩やご飯を食べたりするところらしい。


らしいが、寝てる人もいるけどいいの?


「おい」


テツの声にビクッとなる。


「しっかり喰えよ。このあと映画を観ようぜ。何年ぶりだろな?」


「映画?」


「口で説明するより観たほうが早いって。タケがどれだけ驚くか楽しみだぜ」


ヒヒヒ、と変な笑いをするテツ。

ビックリなんか、しないもんね〜だ。


―3時間後


まだ頭の中がクラクラする……。


扉を開けて、少し歩いたら真っ白い四角い大きなヤツがあってさ、みんな椅子がそっちに向いてるからなんでとは思ったけどもさ。


そういうこと、だったんだ。


テレビの大きいヤツ?って思ったらいいのかな。音とかも凄かった。


あっと言う間だと思ってたら結構時間が過ぎてて、コレにもビックリした。


「面白かったね、テツ」


こういうの、って家族とか友達とかと観るんだろうね。

観てる間とかも、小さな声で話したりお菓子なんかを一緒に食べたりさ。


「ズルいな」


ボクの知らないところにはこんな楽しい場所があったんだ。

ボクがゴミのように転がってるその隣の世界には、こんな……


知らなきゃよかった。


知らなきゃこんな思い、しなかった。


ボクの目から、ポタポタと涙が静かに床にしみ込んでいく。


ズルいよ。なんでボクは……。


「大丈夫か?」


前にいたテツが振り向き声をかける。


返事の代わりにボクは小さく頷く。


テツは悪くない。

先生も、多分悪くない。


ダレガワルイノ?


「家族と言われる人たち、友達と言うものが同じ時間を過ごす場所。オマエには…」


言いかけて、テツは口ごもる。


分かってる。


ボクは存在しない人間。


でもボクはココにいる。


皆が6年かけて学ぶものをボクは数ヶ月で吸収した。残りは3年分。だがそれも多分大丈夫。


テツは勉強だけじゃダメだと言う。

もっとたくさんのことがある、と。


テツは優しい。

父親とはこんなものなんだろうか。


もっとたくさん学んで吸収する。

そして、考える。


もっと、効率的にボクが存在すると言う証明をするためにはどうするべきかを。


「落ち着いたら、次行こうぜ」


ニヤニヤが止まらないテツに浮かない顔のボク。


次はなに?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る