第10話 ボクの一歩

朝ご飯が済んでもテーブルに頬杖をついてテレビを見ていた。ネコがネズミにやられるヤツでバタバタしているが面白かった。


「ずっと見てるが面白いんか?」


答えの代わりにテツをチラッと見てすぐにテレビに視線を戻す。


「ビデオだぞ。いつでも見れるから。ほらっ手伝え」


テツはそう言ってテレビを消し、洗濯カゴをボクにわたす。


「何?」

「洗濯物。干せよ」


ボクにはさっぱりわからなかった。


「さっさとやれよ」


ボクはカゴを持ったまま途方に暮れてしまう。


「マジか。一緒にやろか」


テツと並んで『洗濯物を干す』ということを初めてした。


「次からは1人でしてもらうからな」

「了解」


……にしても、このアパート静かだな。人がいる気配もないし。


洗濯物を干しながら周りを見ていたら裏の店のオジサンと目があった。オジサンは隣にいたオバサンをつつく。 オバサンがコチラを向いて大きく手を振った。


「ちょっと待ってて〜」


オバサンは奥に数分ほど引込み何か袋を持って出てきた。オジサンに渡す。


「受取れ」


オジサンは一言だけ言って投げてきた。


思わず受けとってしまった。


中身をみればたくさんのモノが入っていた。顔をあげたときには2人はいなくなっていた。


「テツ、テツ!」


「何?どうした」


ボクは袋を見せた。


中を見てテツは優しく笑う。


ボクの頭にでっかい手を乗せ一言。


「よかったな。少しずつ喰えよ」


「エッ、コレ、ナニ?食べ物?」


テツは思いっきり驚いた顔をした。


「お前、なんも知らんのやな」


ため息、ひとつ。テツは中から1つ、ボクの口へ。


ゆっくりと溶けていく。なんだ、コレ…。


「チョコレートってもんさね」


テツは深くため息をつき


「ゆっくり、たくさん覚えてくれ」


テツの目からは何故か水が落ちていた。

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