第6話 影

あの後、彼がどうなったかは知らない。知りたくないとも思う。


でも、なんだか胸の奥にイヤなものがつき刺さったようでモヤモヤする。


今まで彼のように優しく近づいて食べ物を奢ってくれたりモノをくれたりした人はいた。いたが必ず後々なにがしかの要求を受け、トラブルになっていた。


だが彼は違う気がしていた。


見返りを求めず、ボクをみていた。

ただ、まっすぐに。


……だから、余計、怖かった。


『初めて会ったんだよね。なんでかな、なんか幼なじみに会ったみたいな気がするよ』


何度も言っていた。


バカみたい。


そう、思うけど。

思うけど、思いたくない気持ちもどこかにあった。


ふと唐突に思い出す。


親父に追出され、途方にくれ階段に座っていたボクにパンをくれ、何をするでなく横にずっといてくれたお兄ちゃんがいた。


その子にどこか似ている気がした。


……もう、会うことはないんだし。


彼から無理にはぎ取った上着は少し大きかった。微かにタバコのニオイもする。凄く暖かい。彼が上着の下は半袖だったのも納得するくらい暖かった。


財布から約束の3枚だけ抜き出し、後は返した。ポケットの中身は全て取り出し彼のお腹の上においてきたハズ、だった。


だが。ポケットからはタバコとライター、彼の写真が載ってる何かが出てきた。


……学生証?見たことあるのと似てるけどちょっと違うな。


ボクは漢字がほとんど読めない。

一生懸命読もうとしたけど……


「やっぱり、ムリ」


漢字ばかりのソレはボクには全く分からないもの。必要ないからそのまま、ポイっと投げ捨てる。


タバコはとりあえず口にしてみるが火のつけ方が分からず、結局そのまままるごと投げ捨てた。


「収穫は上着と3枚のお金だけかあ。まあお腹もいっぱいだし、後は寝る場所の確保、だね」


ふと、視線を感じて振り返る。


誰もボクなんかをみるハズはない。

分かりきっている。間違えようのない事実だ。だがそれでも時々見られてる感じがするのは何故なんだろう。

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