第3話 あったかいね

ボクは再び夢の中へと戻っていた。


身体中の痛みとボンヤリした視界、なによりどうしようもない寒さがそれを証明していた。


「っ、つ」


痛いし、寒い。雪は情け容赦なくボクに積もっていく。何処か……。


割りと近い場所にベランダが見える。

その下に隙間があった。


少し時間をかけズルズルと這いずって行くと更に奥に空間が広がっているのがみえた。


暖かいだろうかと思いながらも奥まで進む。真ん中あたりで力尽きた……。


もう、動けない。身体を丸め寒さに耐えようと考えた。雪に埋もれてしまうよりもマシだと思う。


そのとき、何かが近づいてきた。


しばらくボクの周りをウロウロとしたあと、クンクンとニオイを嗅いで奥に戻って行った。


もうこないかと思った頃、ボクの上に何かを置いて行く。そしてまた、奥に戻る。


ボクの上に1つずつ置いていては奥に戻るを何度か繰り返していた。全てやり終えたのか柔らかく温かいものはボクをピッタリと包み込むように身体をくっつけてきた。ボクの上のものはモソモソと動いている。


犬の親子だった。母犬、仔犬の温かさが凄く心地よかった。人にすら抱きしめられた覚えがないボクにとっては初めての経験だった。母犬は時折ボクをなめる。傷を癒すかのように優しく。

ボクを慰めるかのように前足で抱き寄せる。


とても不思議な感じ、だった。


何日かたったと思う。ボクはすっかり良くなり動けるようになっていた。


母犬の耳の後ろを優しくかいてやってからベランダの下まで戻り外をのぞいた。


「おやまあ。今度は犬の仔が出てきたねえ」


少し出過ぎたみたいでベランダで外を見ていた老婆と目があってしまった。


引っ込もうとしたボクへ優しく声をかけてくる。


「逃げなくていいからコッチへおいで。寒いだろ。ババ1人だから怖くないよ」


ボクは思わず、こう答えてしまった。


「ホントに?」


老婆は優しく笑い


「賢い犬の仔だね。ささ、あがっといで」


ベランダから老婆の家にあがった。傷だらけ、泥だらけ、髪はボサボサのボクをみて老婆はビックリしたんだと思う。一緒にお風呂に入ろうか、と誘う。怖くないよ、とまるで呪文のようにしきりに言っていたのを覚えている。


冷たくないお風呂に入りいい香りのする白いものを身体に塗られる。タオルでこするとそれががモクモクと柔らかいものに変わりボクの目が真ん丸になってしまう。


「コレは石鹸じゃよ。身体も綺麗になる、ニオイもいいじゃろが」


老婆はクスクスと笑っていた。


「仔犬は風呂を知らんのかの」


頭の先から足の先まで、老婆に大人しく洗われて身体からホカホカと湯気がたっていた。


老婆がボクにテキパキと服を着せていく。ボクはされるがままジッとしていた。と、急にお腹がなった。


「とりあえずオニギリでも食べな」


と丸い大きなものをくれた。ボクは手にしたそれのニオイを嗅いでみる。老婆をみればニコニコとボクを見ているだけ。


思い切ってカブリつく。


最初は小さく一口。飲み込んで。次は一気に全部を口に入れる。


「慌てて食べなくても数はまだある。足りなかったらまた握るでな」


ボクの頭を優しく撫でてくれる。


後ろからボクをふわりと抱きしめてくれた。老婆の体温が背中に優しく伝わってくる。


何故か、ボクの目から水が落ちていく。


「ばあちゃん、あったかいね」

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