第2話 想い出

ホテルを出て、駅に向かう。

別に目的があった訳ではないが他に行くところなんてないし…。


駅についてまた、ポケットを探る。

ホテルでお金を使い過ぎてあまり残ってないなあ。


とりあえず、2駅分の切符を買い、電車に乗った。


電車の中はたくさんの人がいた。

みんなたくさんの荷物を抱えている。


ボクは隅っこの空いた席に座り、ボンヤリ外を眺めていた。


やることなく、目を閉じていた。

周りの音もいつの間にか聞こえなくなり……。


オヤジがボクの前に立ち、杖を振り上げていた。


何度も何度も、何度も永久に続くかと思うほどに。


ボクは杖で殴られていた。


殴られながらもボンヤリ周りが見えてくる。


小さい頃住んでいた団地?。


「……」


何か言おうとしたが声が出なかった。代わりにヒュ〜という妙な音が出た。

そして、口からたくさんの血が出てきた。


手も足も動かない。指先さえピクリともしない。どんだけ殴ったんだよ!


「ちっ、その目だけは相変わらずだな」


一言だけ吐いてオヤジはボクの腹を蹴りあげ何処かへ消えた。


酒を呑んで暴れるなんてものじゃない。杖で殴る、空いたビンで殴る。

ボクを持上げ、壁に叩きつける。


部屋の中は壊れたモノで溢れていた。


酒を呑むか、パチンコに行くか。

あるいは、競馬か。

それだけのクソ親父。


オフクロは気付いたときには既にいなかった。


……そうだ、逃げなきゃ。


今のうちに早く逃げなきゃいけないのに身体が動かない。もどかしい。確か今いる部屋は1階だったはずだ。窓から出ればなんとかなる、と思う。なるハズ、だ。


窓に向かってジリジリと這う。指を動かすたび身体中に激痛が走る。口から血が出る、視界が歪む。


逃げてやる。絶対に逃げるんだ。


普通であれば数歩の距離なのになかなか届かない。少しずつ指を動かし身体を引き寄せる。ナメクジのようにズルズルとはって窓を目指す。あと、少し。あと少しで……。


そこで目が覚めた。


夢か、と思うと同時に腹がたつ。

持って行き場のない怒りでいっぱいになる。


あのあとオヤジは直ぐに帰ってきた。

ボクを見てニヤリと笑う。

ワザと風呂場までゆっくりと引きずって行き、水で一杯の風呂に投げ込みやがった。一度、引上げ、また沈めた。

頭を抑えて……。


さらにもう一度……。


もう抵抗する気力のないボクをそのまま、窓の外へと投げ出したっ!


雪が降っていた。積もっていた雪へずぶ濡れのボクを投げ捨てた。

親父は窓をしめ、鍵をかけた。


ボクの上に雪は静かに積っていったが誰も知らん顔だった。


そう、少し前に廊下に蹴りだされたときも隣の人とであったが何もなかったように素通りされたな。


工場でも……。


クソ、なんでいつもボクだけなんだ。


窓の外は華やかな空気に満ちていた。


皆が皆、全て幸せそうに見える。


この季節は特に嫌いだ。


寒いし、うるさいし。


行き場のないボクを乗せて電車は進む。

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