光をもとめて ―コレはボクの記録。生きている証

神稲 沙都琉

第1話 はじまり

ある日の黄昏時。

たくさんの人々でごった返す交差点。

お互い、肩がぶつかったってそのまま通り過ぎていく。


そんな中。


ボクは1人の人を刺した。


別に怨みがあった訳じゃない。

怒りがあった訳でもない。

ましてや顔見知りという訳でもなく。


『誰でもいい』そんな感じ。


軽く肩がぶつかった感じで割りと強めににナイフを沈めた。


ドキドキもハラハラもしなかった。


ナイフを刺したまま、その場を去る。


少しして後ろで悲鳴があがった。


-その日の午前中。


「こら!タケ、また数が違う。字も違うゾ」


班長の怒鳴り声。何かあれば班長はボクに叫ぶ。一日に何度も。


周りのため息にボクはたまらない気持ちになる。言われた通りにしているのに何故叫ぶ。もう、何度めかのこの叫びにボクはテーブルを蹴飛ばし部屋を出ることで抗議した。


-そして、お昼前


「お前にあった仕事が他にあるはずだ。無理にこんな工場じゃなくてもいいはずだと俺は思う。明日からこなくていいからな」


解雇された。


先生が必死にお願いして入れてくれたココだけど一ヶ月もたなかったな。


荷物、と言っても小さなダンボールにスカスカに入ってるモノを持って工場を後にする。住み込みだったから住むところもなくなった訳だ。


駅のロッカーに荷物を放り込む。

鍵もかけない。そのまま後にした。


少し駅前をブラブラしたあと、狭い路地から誘われるかのように奥へ奥へと進んで行く。


突き当りに小さな金物屋があった。


店に入り、色々物色していると1本のナイフが目にとまった。


……持ちやすそ。


手に取ってみたら思った以上に軽かった。


「兄ちゃん、キャンプかい?それはオススメだよ。肉も捌ける。どうかい?色々使えて便利だよ」


値段も手頃。即決した。


解雇された記念にナイフ、か。


買ったけど、どうしようか?


あの班長に?

それとも、一緒にいたヤツらに?


なんかつまんないな。


そうして、冒頭の時間へと戻る。



季節はイルミネーションの綺麗な頃。

みんな幸せそうで楽しそう。

どの顔もキラキラと輝いていた。


ボクはといえば、住むところもなくし今夜のこともどうしようかというところ。着てる服さえ薄い上着だけときた。


クッソ寒いな。


上着のポケットをガサガサ漁ると数枚の札と大量の小銭が出てきた。


だから……。


少しだけ贅沢をしよう。そうだ、憧れていたあのホテルに泊まろう。今日だけ。今夜だけ。


ホテルにつき、ホテルの人に持っていたお金を渡そうとしたら一瞬怪訝な顔をされたがスグに笑顔に戻り部屋へと案内された。


ベッドというモノに横になる。


身体が少し沈んだけれどふわふわと気持ちがよかった。

みんな、こんなので寝ているのか。


ズルいな。


そういえば、前に同じ寮のヤツがノゾキにきて、『布団は?』って聞いたな。意味わかんなかったがこのコトか。今、ようやくわかった。


普通はこんなベッドで眠るんだな、と思いつつ寝に落ちた。


ぐっすりと眠って、次の朝。


起きて部屋のテレビをつける。

どれも同じようなものしか映ってなかった。


……自分でつけたテレビを見るのも始めてだな。


部屋の中の冷蔵庫から缶コーヒーを出して飲みながらテレビをボンヤリ眺める。


画面の中ではお姉さんが興奮気味に話していた。


「昨夜、☓☓時ころ帰宅途中の○○さんが何者かにナイフで刺され死亡しました」

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