第4話 野良猫の糞問題解決!

 今日は楽しい日曜日。Q太郎は朝ごはんを食べてテレビを見て休日を満喫します。だけどもやっぱり町の事が気にかかるから、新たな問題を探しに町へと繰り出します。

「何かないかなあ? 困っている人はいないかなあ?」

 Q太郎はそんなことをつぶやきながら歩きます。すると、いきなり大声が聞こえてきました

「こらっ! このどら猫!」

 びっくりしたQ太郎は声の方を向きます。すると猫が塀を向こう側から飛び越えて一目散に逃げていくのが見えました。そしてドタドタと足音がして、箒を持ったおじいさんが塀の所にやってきました。

「まったく! あのどら猫、またやりやがった!」

 おじいさんは怒り心頭と言った様子で赤い顔をしてこめかみに血管を浮かび上がらせていました。

「ねえねえ、どうしたの? 何か困りごと?」

「あぁん? 何じゃ、君は」

 興奮冷めやらぬ様子のおじいさんは語気強くQ太郎に聞き返しました。

「僕はバベルのQ太郎。近所の困りごとを解決する専門家さ! 何か困りごと?」

「困りごと解決! おお、そりゃいい、ちょっとこっちに来て見てくれ!」

 おじいさんに呼ばれ、Q太郎は門から裏の庭にへと歩いて行きました。表札には佐伯とありました。

「ほら! これじゃよ、これ!」

 おじいさんが指し示したのは黒くてうねうねして細長い黒い小さい塊でした。

「なあに、これ?」

 Q太郎は首をかしげます。

「見て分からんか?! 猫の糞じゃ! 今さっきどら猫がここに垂れていったんじゃ! ああ、腹が立つ!」

「猫って、さっきこの塀を飛び越えていった茶色い猫?」

「そう! その猫じゃ!」

「猫の糞は問題なの?」

 Q太郎は落ちていた木の枝で猫の糞をつつきます。現物を見るのは初めてなので興味津々です。意外と硬くて臭い塊でした。

「問題かじゃと?! 当たり前じゃ! 勝手に人の庭に糞などしよってから……地域猫とかいう奴らしいが、わしは認めんぞ! ちゃんと世話している者の家でやればいいものを、何故か関係ないわしの家の庭で糞をしていく! まったくけしからん!」

 さっきからおじいさんは怒りっぱなしです。無尽蔵の怒りがおじいさんに内包されているようでした。

「分かった! じゃあ僕、何か解決方法を考えてみるよ!」

「そうか。問題解決の専門家とかぬかしてたな? 子供とはいえ男に二言はない。しっかり頼むぞ!」

「うん、まかせて!」

 Q太郎ははりきって頷くと、急いで家に帰りました。猫にも負けないくらいの速さです。


「ふむふむ……地域猫って町内の人が協力して野良猫の世話をすることなのか」

 Q太郎はインターネットで検索して地域猫とは一体何なのかを調べていました。

 野良猫は時に問題となりますが、その問題とは一体なんでしょうか? それは大別すると三つです。糞尿問題、勝手なエサやり問題、野放図な繁殖問題です。

 糞尿問題は佐伯さんの庭でも起きたような問題です。勝手におしっこやうんこをされると汚いし不衛生です。片付けの手間もあります。

 勝手なエサやり問題も衛生上の問題やキャットフードの臭いによる臭害もあります。それに猫が苦手な人、嫌いな人からすれば迷惑行為に他なりません。また、ゴミを漁って散らかす時もあります。

 繁殖問題は、一番根深い問題です。そもそもの原因となる猫がせっせと繁殖して数を増やしてしまうのです。猫の数が増えれば問題と感じる人も増え、地域全体が影響を受けます。

 地域猫は、これらの問題を改善するための取り組みです。

 餌とトイレの場所を決め、きちんと掃除をする。野良猫を捕まえて不妊手術をしてそれ以上増えないようにする。そして、これらの取り組みを住民の人に広く理解してもらうのです。中には猫アレルギーの人や猫嫌いの人もいるはずですが、そう言った人にも理解してもらい、人も猫も平和に生活できるようにするのです。これにより町は清潔さを保ち、猫もごみを漁ったりしなくて済みます。猫は幸福になり、それを見守る人間も問題と感じ無くなれば、それはとてもいいことです。そして最終的な目的は、引き取り手などが見つかり野良猫が町からいなくなることです。

「なあるほど。猫も人間も幸せになれば、それはとてもいいことだね!」

 Q太郎は納得しました。地域猫活動は問題解決のための手段だったのです。だけど、あれあれ? 佐伯さんの庭は勝手に糞をされていて困っていましたね? 何事にも完璧はありません。まだまだ解決には道半ばの問題なのです。

「猫の糞……猫の糞……一体どうすれば?」

 Q太郎は首をかしげながら考えます。そして、一つの答えを得ました。これなら佐伯さんも猫も幸せになれるはずです。

「僕って天才かもしれない! これで問題解決しちゃうぞ~!」


 一週間後、Q太郎は大きな箱を背負って佐伯さんの家にやってきました。箱の中身はもちろんアレ。問題解決のための答えです。

「佐伯さん! これで問題解決だよ!」

「な、なんじゃ?」

 急に声をかけられた佐伯さんはびっくりします。縁側でうつらうつらとひなたぼっこの最中でした。

「……おお、なんじゃったか……専門家の小僧……」

「僕はバベルのQ太郎! 問題解決の専門家だよ!」

 中々思い出せない佐伯さんに、もう一度Q太郎は名乗ります。そして庭に入っていきました。

「おお、本当に持ってきたのか。すっかり忘れとったわ」

「うん、もちろんさ! 問題をそのままにするなんて、僕我慢できないんだ」

 そう言ってQ太郎は背負っていた箱を下ろしました。

「それでその箱に……猫を追っ払う機械でも入っとるのか?」

「違うよ! 地域猫の取り組みは猫を不幸にしちゃいけないんだ。追っ払うなんてよくない。だから僕は猫の糞を片付けることにしたんだ。よいしょ……ジャジャーン!」

 Q太郎は背伸びして箱を上に持ち上げてどけます。

「な、何じゃあ~?!」

 佐伯さんはぎょっとします。箱の中に入っていたのは奇怪なものでした。植木鉢から緑色のグネグネしたものが生え、絡み合いながら上に伸び、先端には人の顔の様な部分があります。そしてその顔の口の部分がモゴモゴと動いているのです。

「これは……一体……」

 異様な姿に佐伯さんは息をのみます。

「これは食糞植物だよ! 猫の糞を自分で見つけて食べてくれるんだ!」

「食糞植物?」

「ちょっと見てて!」

 Q太郎は食糞植物から5メートル程離れた場所に立ち、そこでガラスのケースから黒いものを落としました。猫の糞のサンプルです。

「こういう風に猫がそこら辺にうんこをすると……」

 Q太郎がそう言うと、食糞植物に変化がありました。一番上の顔のような部分が、活発に動き出します。そして植木鉢の中から細い蔓が何本も伸びてきて、それが足のように動いて植木鉢が移動します。猫の糞のところまで来ると、食糞植物は大きく前にお辞儀をして落ちている猫の糞を口で掴み、モゴモゴと飲み込んでしまいました。

「何と……」

 佐伯さんは驚いて言葉もありません。

「どう、すごいでしょ? これなら佐伯さんは何もしなくていいんだよ」

「ふむ。糞はされてもこいつが片付けてくれるなら……まあそれでもいいか。猫の小便はどうなるんじゃ」

「それも大丈夫だよ!」

 Q太郎は別のガラスケースから黄色い液体を地面に撒きます。猫のおしっこのサンプルです。

 すると食糞植物はその臭いに気づき、また動き出します。大きくお辞儀をして地面に顔をつけ、すごい勢いで吸引します。食糞植物が口を離すと、地面からは水分がなくなっていました。

「おしっこだってきれいにしちゃうよ! すごい? ねえ、すごい?」

 Q太郎は目を輝かせて佐伯さんに聞きます。

「おお、……すごい。一体どうなっとるのか分からんが……まさかこんな生き物がいるとは」

「僕が遺伝子をデザインしたんだ。人間をベースにね」

「そうか……これを置いておけばきれいに掃除してくれるってわけか。思ってたのとは違うが、確かに問題解決じゃな」

「問題解決? やったあ!」

 Q太郎は快哉を叫びジャンプしました。

「じゃあ食糞太郎は置いていくね。週に一回くらい植木鉢がつるつるいっぱいになるまで水やりをしてください。肥料は光合成と猫のうんこで大丈夫だから、何もやらなくていいよ」

「そうかい。手間のかからんやつで助かるのう。食糞太郎という名前はいただけんが……」

 佐伯さんも大喜びです。Q太郎は問題を解決した嬉しさで有頂天になって帰っていきました。


 Q太郎が佐伯さんに食糞太郎をあげてから二週間が経ちました。

 佐伯さんは毎日縁側で日向ぼっこしていましたが、数日に一回は見かける猫が、最近は一度も見かけません。

「ふむ。ひょっとすると食糞太郎を怖がって近寄らんのかも知れんな」

 食糞太郎は庭の塀の隅に置かれていました。口を開けて日光を追いかけ少しずつ動いていますが、猫が糞をしに来ないので歩き回ることはありません。

「憎たらしい猫じゃが、来ないとなると寂しいもんじゃの……」

 おじいさんは猫のことを思いちょっとセンチメンタルになりました。

 慣れない感傷に浸ったせいか、あるいは古くなりかけの刺身を朝食に食べたせいか、佐伯さんのお腹がやおらグルグルと音を立てました。

「むっ、腹が……屁が出そうじゃ」

 ブリッ。湿った音が響きました。

「いかんこれは……何たる不覚……」

 佐伯さんはゆっくりと立ち上がり、内股になって歩き出します。下着を替えに行くためです。

「む、何じゃ?」

 いつの間にか食糞太郎が佐伯さんのすぐそばに来ていました。

「はて、猫も来ておらんのに変な奴じゃ……」

 そう思っていると、食糞太郎は口をモゴモゴさせました。そして急に大きく伸び始め、佐伯さんより背が高くなりました。

「何じゃあ……?!」

 驚いている佐伯さんに向かい、食糞太郎は大きくお辞儀をします。そして口を大きく開き、佐伯さんを頭から飲み込んでいきます。突然のことに、佐伯さんは声を上げる暇もありませんでした。一気に腰の辺りまで飲まれ、足をばたつかせます。

 食糞太郎はそのままゆっくりと佐伯さんを飲み込んでいきます。足首の辺りまで飲み込むと、体をまっすぐにして、少し出ていた佐伯さんの足首もすっかり飲み込んでしまいました。

 食糞太郎は掃除を終え、また塀の隅に戻っていきました。すっかり大きくなった体。これだけあれば、当分は食べなくても大丈夫そうです。


 一方その頃、帰り道でQ太郎がほくそ笑んでいました。

「ウッシッシ! 佐伯さんも喜んでるみたい! 大成功だ!」

 こうして野良猫の糞問題は解決しました。めでたしめでたし。


・参考文献

(公財)日本動物愛護協会

 地域猫活動について

https://jspca.or.jp/localcat.html


広島市

地域猫活動をご存じですか?

https://www.city.hiroshima.lg.jp/soshiki/77/188557.html#:~:text=%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E7%8C%AB%E3%81%A8%E3%81%AF%20%E5%9C%B0%E5%9F%9F,%E3%81%95%E3%81%9B%E3%82%8B%E7%8C%AB%E3%82%92%E6%8C%87%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

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