第2話 公園のゴミポイ捨て問題解決!
今日はあいにくの雨です。けれどQ太郎はまだ見ぬ町内の問題を探すために、傘を差して今日も元気にお散歩です。
すると、おやおや? 近所の黒川さんが、公園で傘を差して掃除しながら溜息をついています。
「むむ? これはビンビン感じるぞ? 問題の気配だ!」
Q太郎は傘が破れんばかりの勢いで猛ダッシュです。
「黒川のおばちゃん! そんなに溜息なんかついてどうしたの? 何か悩み事?」
「あらQちゃん。そうなのよ。ちょっと困っててね」
そう言い、黒川さんは足元のビニール袋をつつきます。それは近所のコンビニの袋でした。中には何かがたくさん入っています。
「このゴミ、何だと思う?」
「何だろう? お菓子のゴミ?」
「それも入ってるかもね。多分ね、昨日ここでお酒飲んでた人たちが捨てたものなんだよ」
そう言って、黒川さんはしゃがんで紐のように結んである袋の持ち手をほどきます。Q太郎は黒川さんが濡れないように傘を差してあげました。
袋の中には食べ物のトレー、空き缶、魚肉ソーセージの袋、お菓子のごみ等が入っていました。黒川さんは空き缶を摘まみ上げ逆さにします。すると、缶の中からたばこの吸い殻が出てきました。
「ほらね。いろんなゴミが混ぜて入ってる。このままじゃ捨てられないからいちいち分別してるのよ。今週と来週は私が掃除当番だから、私がやらないと。昨日も夜中に何だか騒がしかったから、多分駅前でお酒を飲んで帰ってきた人が、あそこのコンビニで買い物してここで二次会してるのよ。まったく、家でやればいいのに」
「この公園にゴミ箱はないの?」
「昔はあったんだけどね。燃えるごみと空き缶、空き瓶の二つ。でもゴミ箱に爆弾を仕掛けるっていうテロがあった時に、ここも危険だからって撤去されたのよ。こんな町でテロも無いだろうに。そのゴミ箱があった時は少なくとも燃えるごみと缶、瓶は分別されてたわ」
「ふうん。ゴミ箱もない公園にゴミを持ち込んじゃ駄目だよね。ちゃんと持って帰らないと」
「そうね。それもいい大人が酔ってやってるんじゃ、だらしがないったらないわ。ごめんね、何だか愚痴に付き合ってもらっちゃって」
「ううん。僕、困ってる人を助けるのが生きがいなんだ! だからおばちゃんの悩みも僕が解決してあげるよ!」
「そう、ありがとう。ゴミ捨て禁止の張り紙くらいはしようと思うんだけどね」
「うん。僕も自分にできることをやってみるよ!」
そう言って、Q太郎は駆け足でどこかに行ってしまいました。余りの速さに傘の骨が全部ひっくり返ってしまいました。
一週間後、また公園に酔っぱらいがやってきました。二人組です。二人で肩を組んで千鳥足。左右に揺れながらよたよたと公園に向かいます。
「よーしここで飲み直そうぜ!」
「おう、ちょうどコンビニもあるしいい場所だよな。風は冷たいけど」
そんなことを言いながら酔っぱらいが公園のベンチに座ります。
「おっ、何か張り紙があるぞ。なになに……ゴミ捨て禁止です。かーっ、つまんねえ! もっと面白い事書けよ」
「近所の人が貼ったのかな」
「そうだろ、役所がいちいちこんなの貼りに来るかね。管理は町内会だろ」
「ひょっとして俺らのごみか? 先週ここに捨ててったもんな」
「かもな! でもどーでもいいじゃないか! 公園にゴミ箱がないのが悪いんだ! ゴミ箱さえありゃちゃんとそこに捨てていくのによ、それが無いんだから。これは行政への小さな反抗だよ。市民の声って奴さ」
「そうだな。ゴミ箱が無いのが悪いんだ!」
「そうそう! そんな事より飲もうぜ! ビールがぬるくなっちまう」
寒い夜空でも二人は酔っているから平気でした。二人は缶ビールをプシュッとあけて乾杯します。そしてコンビニで買ってきたものを食べながら益体もない話を続けていました。
その様子をQ太郎は監視カメラで見ていました。
「ふわあ、もう十一時か。ちょっと眠いけど頑張るぞ。どれどれ……この酔っぱらいか。一週間見張り続けてようやく見つけたぞ。先週も水曜の夜だったし、こいつらに違いない」
Q太郎は監視カメラの映像をキャプチャーし、人相検出AIで調べました。Q太郎は町内の人の情報をデータベースで管理しており、顔写真からどこの人か探せるようになっているのです。お父さんと協力して作った、Q太郎の秘密兵器です。
検索結果が出ました。98.6%の確率で照合。自分の目でも特徴などを確認しますが、合っているようでした。黒川さんと品田さんの二人です。どっちも四十六歳。いい大人です。それに黒川さんというのは、黒川のおばちゃんの旦那さんです。自分の旦那に苦しめられていたとは! 運命とは数奇なものです。
「四十六歳! それがゴミをポイ捨てなんて許せないや! よし、こっそり取り付けたこの装置を使って、問題を解決だ!」
Q太郎はボタンカバーを外し、赤いボタンを押しました。
「ひゃひゃひゃ! でよ~その時のあいつの顔ったらよ~」
「ははは! 傑作だね、こりゃ」
黒川さんと品田さんはベンチにもたれ掛かりだらしない姿で更に酔っぱらっていました。しかし買ってきたお酒はもうすぐ空です。
「おっと、空か……」
「お~……本当だ。それにもうお腹いっぱいだな」
「お前食いすぎなんだよ。何で魚肉ソーセージ三本も食うんだよ」
「うまいからいーの。さて、じゃあゴミをまとめておくか」
「おう、そうだな。ちゃんと一つにまとめるのが俺らの良心だな」
「プラスチックも、缶も、紙の箱も全部入れて……よしこれできれいになった」
「あとは町内のみなさんにお任せ!」
そう言って二人は大笑いです。
ふと、黒川さんは奇妙なことに気づきました。
「あれ……なんか、暑くないか?」
季節はもう十一月。冬の足音が聞こえてきそうな寒さです。気温は十三度で、暑さなんか感じるわけはありません。でも、おやおや? 二人のおでこにはうっすらと汗がにじみます。お酒のせい? いいえ、Q太郎のせいです。
「お、おい! なんか地面が熱いぞ!」
「え?! 本当だ! く、靴底が溶けてる!」
品田さんが地面から足を上げると、溶けた靴底がチーズみたいに糸を引きました。
「何だこれ? ど、どうなってんだよ!」
「なんか変だぞ、逃げよう!」
二人は鞄を持って公園から出ようとします。しかし地面が熱くなっていて、一歩を踏み出すことさえできません。温度はさらに上昇します。ベンチの上に座っていましたが、今度はそのベンチさえ高熱を帯びていきます。
これはQ太郎が地面の下に埋め込んだ超音波式プラズマヒーターの効果でした。まずヒーターが表面を熱します。その熱を特殊な超音波で表面付近の空間に閉じ込め、温度を蓄積させます。それと同時に超音波による大気の摩擦が熱を発生させ、結果的に二万度の熱が発生するのです。無機物も有機物も燃え尽きます。これがQ太郎の答えでした。
「な、なんなんだよこれ! 燃えてる? 何なんだ!」
地面がうっすら赤味を帯びてきました。地面に置きっぱなしのコンビニの袋やゴミは燃え始め、空き缶さえどろどろに溶けていきます。
二人はベンチに立っていましたが、とうとう靴に火が付き始めました。
「うわーっ! 熱い! 熱い!」
「た、助けてくれ! 誰かーっ!」
叫んでも誰も答えてはくれませんでした。だって真夜中です。みんな寝ている時間ですからね。
足についた火を必死に消そうとしますがうまく行きません。そのうちに黒川さんは足を滑らせて地面に落ちてしまいました。
「ぎゃー! あ、あつ――」
黒川さんは腹ばいに地面に落ちましたが、一瞬で全身が燃え上がりました。肺に炎を吸い込んだため、もう声は出せません。熱さと息苦しさでのたうち回りますが、体はどんどん燃えていき、手足は炭化して千切れていきます。背中とおなかも皮膚が破れ、ついには内臓まで煮えたぎっていきます。そして黒川さんは動かなくなり、熱々の地面の上でこんがりと焼かれ始めました。
「ひ、ひーっ! 黒川! ああっ、俺ももう駄目だーっ!」
足についた火がジャケットにも燃え広がり、品田さんも火だるまになります。そしてベンチの上からステーンところんで頭から落ちます。ゴキリ。首の骨が折れて即死しました。静かになった死体はめらめらと燃えていきます。
地面の温度は六千度を超えました。公園の施設はQ太郎が事前に耐熱処理をしておいたので大丈夫です。燃え尽きるのは放置されたゴミだけ。それと、酔っぱらい。
「ふわーあ。後はタイマーをセットしてしばらく燃やしておけばいいかな。明日の朝が楽しみだ!」
時間はもう深夜の零時です。Q太郎はすっかり眠くなったので、もう眠ることにしました。
おやすみ、Q太郎。
翌朝、Q太郎が起きて公園を見に行くと、朝も早いというのに黒川さんがもう掃除をしていました。
「おはよう、おばちゃん」
「あらQちゃん、おはよう」
「またゴミ掃除してるの?」
「そうだよ。昨日の夜もなんだかうるさかったからね、また酔っ払いがゴミを捨てたんじゃないかと思って気になっちゃって」
「ゴミはどうだった?」
Q太郎は目をらんらんと輝かせて聞きます。
「それがねえ、無かったのよ。今度はちゃんと持って帰ってくれたのかしら。ただ……」
「どうかしたの?」
「変な灰みたいのが落ちてたのよ。ほら、これ」
黒川さんは塵取りの中身をQ太郎に見せます。そこには黒い灰の様な粒が入っていました。黒川さんの旦那さんと、品田さんの残り滓です。
「まあこの位ならちょっと掃いておけばいいから楽だけど」
「問題は解決した? した?」
Q太郎はおばちゃんに詰め寄ります。そんなQ太郎におばちゃんはちょっと怯みますが、愛想良く答えます
「え、ええ。ゴミがポイ捨てされてないから解決したわよ。張り紙が効いたのかしら?」
本当は僕のおかげなんだよ! Q太郎はそう言いたいのをじっとこらえました。だって、いくらいい事でも押しつけがましいのは良くないからね!
「でも……関係ない話なんだけど、うちの亭主が帰ってきてないのよね。また品田さんの家に泊まったのかしら? 迷惑かけてなきゃいいけど」
「それも問題? だったらそれも解決だよ!」
「そうなの……? よくわかんないけど、ありがとうね、Qちゃん」
掃除を終えて帰っていく黒川のおばちゃんを見送り、Q太郎は公園でほくそ笑みました。
「ウッシッシ! おばちゃんも喜んでるみたい! 大成功だ!」
こうして公園からポイ捨てされたゴミは消えました。めでたしめでたし。
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