第45話 ピックアーブ三兄妹弟(きょうだい)

「大変お待たせした。私がハモンド軍筆頭騎士、ロンド・ロランドだ」


 俺は応接室に入り、志願者たちにそう告げた。ソファーにもたれていた三人組が、さっと立ち上がる。

 

「ああいや、楽にしてくれ。私も座らせてもらう」


 そう言いながら目の前の三人組を素早く観察した――なるほど、これは俺に判断を仰ぎたくなるかも知れない。

 

 再びソファに腰を下ろした彼らは、実にただ者ならぬというか、胡乱な面構えをしていた。

 一人は頭をつるつるに剃り上げて目に剣呑な輝きを宿した長身痩躯の男。

 いま一人は対照的にその半分ほどの上背しかない短躯、針金のようなぼうぼうのひげ面に赤いレンズの嵌ったゴーグルを着けたままの、口元に自信ありげな笑みを浮かべた男。 

 もう一人はどうやら女らしいが、顔の下半分を覆う青いスカーフと目元までかぶさった前髪のせいで、顔の造作がほとんどわからなかった。頭にはカウボーイハットに似た形の帽子を載せているが、お世辞にも似合っているとは言いがたい。

 

「正門わきの駐機場を見たが、あそこに停めてあるのが君たちのマシンかな? パーグル――いや、パルグルだったか」


 俺がそう水を向けると、アピールのチャンスと見て取ったか、ゴーグルの男がソファの上で座ったまま精一杯背筋を伸ばして胸を張った。

 

「ピックアーブ三兄妹弟きょうだい、で通ってます――閣下。俺はピエゾ、長兄としてリーダーを務めとります」


 ――ほれ、おめえらも、と小声で両隣に促す。禿頭の男が先に立ちあがって、体を二つ折りにかがめ右手を左胸に添えた。

 

「私はハブマックと申します。チームでは操縦を担当しております」


「……う、うむ」


 彼の挨拶はヨーロッパ近世の、それも貴族が行ったものを思わせた。本来は帽子を脱ぐ動作だったのだろうから、無帽でしかも禿頭の彼が演じるのはひどく滑稽に見える。

 それでもどうやら、ハブマックは三人の中で一番礼法にかなっていた。というのも――

 

「あたいシグルン、大砲撃つ。よろしク」

 

 最後に残った女の挨拶はえらくネジの抜けたゆるいものだったからだ。ソファーに座ったまま、頭も下げずにこちらへふよふよと手を振ってみせる。少し足りないのでは、とまで思ったが口には出さずにおいた。

 

(……ピエゾとやらは予想の範囲、というか普通だが、あとの二人は実に個性的というか意表を突くものがあるな……)


「や、すみません。こいつは普段はこんなですが、火器を扱わせるといい働きをしまして……」


 機嫌を損ねた、とでも思ったのか、ピエゾがフォローを入れて来た。だがまあこのくらいは許容範囲だ。サエモドやガラトフを持ちこんでない以上、規格外の扱いをすることはある程度やむを得ないのだし。俺は平静を装って、いかにもな面接官の役割を演じ続けることにした。

 

「あー、書類のたぐいはご持参いただいてないようですが、これまではどういった活動を? 山賊とかで名を売っておられた経歴などがありますと、当面の間は表だっての任務には……」


 おっと、しくじった。つい下手に出てしまったではないか――サラリーマンだったのはもう遥か昔の事なのに!


「――し、支障があるわけだが!」


「あのね、掘るのがいいなぁ。儲かるし、よーへいやるより楽だし」


 とろんとした口調でシグルンが答えた。ピエゾが頭を抱えるのが目に入る。そこへハブマックが助け舟を出した。

 

「ご説明しましょう。私どもピックアーブ三兄妹弟きょうだいは、独立傭兵と機械堀りディッガーの兼業でこれまで生計を営んでおりました。このところの情勢を見るに、ウナコルダ南部はおおよそドローバ・ハモンド殿の勢力下に収まる様子。であれば傭兵は仕事が減る。余程の腕利き以外は独立でやっていくのは難しいでしょう――」


「そうそう! それで、ハモンド軍に身を寄せようと考えたって訳ですな!」


「な、なるほど……してみると、あなた方は『余程の腕利き』というわけではない、と」


 意地悪く突っ込むと、二人は顔を見合わせて小さくため息をついた。

 

「傭兵としては、その……あんまり」


「兄貴、そんな弱気で――き、機械堀りのほうはクヴェリをはじめ、あちこちの整備士ギルドや軍営にこれまでそこそこの数を納入しております! 中には希少な重戦甲カンプクラフトのパーツもありましたし、こちらでもお役に立てるかと」


(ふーむ)


 俺は考え込むふりをした。

 

 実際のところ、軍人にそこまで「腕利き」であることは必要ない。与えられた命令をきちんとこなして、失敗しない事。何より独断専行をしないことが肝要だ――まあ、それを言うと俺自身あまりよい軍人ではないかも知れないとは思うが。それに、とにかく自前で機体を所有、維持してここへ持ち込める、というのが評価できる。

 

 機械堀りとしての実績は、早い話がクヴェリに照会すればすぐ確認できるわけだが――そこで、俺はちょっとした妙案を思いついた。

 

「なるほど、それなりに期待できそうだ……ちょっと外に出て歩くが、構わんかね? 君たちのマシンを間近で見たいのと――」


 俺はいったんそこで言葉を切って、彼らに微笑みかけた。騎士らしい威圧的な調子も、どうにか立て直せた感じで一安心だ。

 

機械堀りディッガーとしての君たちに、見て欲しいものがあってね」

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