エピソード・8 ロランド、中原へ行く
第44話 ロランド隊、ただいま新人募集中
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ロンド・ロランド様
ダ・マッハ旅団に身を置いて三週間になりますが、こちらではおおよそ上手くやれています。
デイジーさんをはじめ皆さま親切にしてくださいますし、コルグさんからは操縦や戦術など教わることがいっぱい。
先日は、森の中から襲って来たスピツァードと戦ったりしました。辺境でのこともお話には聞いていましたしTV版でも見てはいますけど、実際に目の前で見るとやはりずいぶん変わった機体でしたね。
TV版では正体不明の美人パイロットが話題になってましたけど、こちらでは残念ながら操縦者を確認する余裕はありませんでした。
色々と気づくことや驚くこともあるのですが、こちらの皆さまとは流石に共有できない話題も多く、時々寂しく思います。お会いできる日が来るのが待ち遠しいです。それではまた。
ソリーナ・トリング
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ハモンド軍とダ・マッハ旅団共有の郵便網ができて、ソリーナから時々手紙が届くようになった。俺の立場に配慮してか検閲は行われていない。
彼女の髪色に合わせたサンゴ色の封蝋を切って手紙を読むのは、ここしばらくの何よりの楽しみだ。
「何から何まで、原作通りというわけではないようだな、向こうも」
俺以外誰もいない宿舎で、思わず一人ごちる。
リンは今ここにいない。最近は俺の身辺の世話に加えて、軽歩甲の操縦を本格的に練習するようになった。今も俺が実家から持ち込んだ例のサエモドを、ほとんど専用機のような扱いに仕立てて基地内を走り回っているはずだ。
(それにしても、だ……)
ソリーナ・サンブルが俺と同じ、二十一世紀日本からの転生者だったということは――あの場ではただただ嬉しかったのだが、その後あれこれ考えると、何とも複雑な気分になるのだった。
もともと俺は、この世界での人生をどこか疑っていた。あの時トラックにはねられて負傷した俺が脳を損傷して昏睡したまま、病院のベッドで夢を見ているという可能性も依然として否定できなかったのだ。
ソリーナの存在は、その疑念をいくらか解消するに足るものだった。
何となれば俺は、全くの他人の人生や体験を丸ごと想像、あるいは妄想して、それを体現するキャラクターを目の前に投影出来るほどの器用な想像力を持ち合わせてはいない。
だから、彼女が日本での思い出を語り、俺とはまた差異のある「ガルムザイン視聴体験」を語ってくれると、これが夢や妄想ではなく現実だということに確信が持てる。
だがしかし。それは俺の前にとてつもない事実を突きつけてくるのだ。そう――これが現実だとしたら、俺は人類が有史以来抱いてきた疑問と願望を、一挙に二つ解決したことになるのだった。
すなわち――
霊魂は実在する。肉体に依存せずに存在する何らかの情報体系、あるいはエネルギー単位が存在し、誕生と死というピリオドによってリサイクルされる。そして、霊魂と呼ばれるもののサイクルを共有する、複数の異なる「世界」が存在する。一つの世界で命を終えても、魂は次の世界、来世で生を享ける。
死によって普通は白紙化されるはずの「前世」の記憶が、何らかの原因で消去されずに次のサイクルに引き継がれる――それが、異世界転生という事象の真相である、ということになる。
「……まあ、とてつもない話ではある。あるが……まあいいか。ともかく現状、俺は原作アニメの退場ルートからは外れた、と考えてよさそうだな」
ソリーナがコルグたちに同行して、義勇軍の一員として戦い始めるのは「重戦甲ガルムザイン」の十五話以降だった。その時点では既に原作版ロランドは退場している。
であればここから先は俺自身の、この世界で生きるロンド・ロランドの意志が切り拓く道だ。してみれば、何と胸躍る話ではないか。
「あとはソリーナの懸案――三十九話の孤軍奮闘を乗り切るか、回避できるように運べればいいのだが……」
もうひとつ何か、頭の隅に引っかかりが残っている――そんな気がして仕方がなかったが、それがなんであるか意識する前に執務室の内線電話が鳴った。
この世界の電話はまだ昭和を思わせる古風なタイプで、番号通知も留守電もないし、内線発信元を示すランプさえない。電話機の横には各部署への内線番号が紙に書いて貼ってある。ええクソ、懐かしいわ――
「ロンド・ロランドだ。何か?」
〈ロランド殿! こちら基地正門前の守衛詰め所であります。機体持参で入隊を希望する者が現れましたので、ご連絡をと〉
俺の耳に飛び込んできたのは、今後に待つ未知の展開を予感させる報せだった。
ソステヌートの占領後、現地に守備隊を置くために俺のクロクスベ隊はいったん解散された。現地ではシャーベルが司令官として守備隊を取り仕切っている。度重なる難局を乗り切って、部下の命と行動の自由を守り切った功績を認められての人事だ。グレッチも昇進し、彼女の補佐として残ることになった。
そんなわけで俺の手元には今、頼れる部下が少ない。何かにつけて優秀なジルジャンが残ってくれているのはありがたいが、彼はこれまでもっぱらダダッカ騎兵としての経験が主だ。出来ればもう少し、重い機体で戦力の一角を担える、そんな人材が欲しい。
そこで、俺は募兵を行うことにした。クヴェリの整備士ギルドと、タブリプのダ・マッハ旅団本部にも声をかけ、とにかく傭兵や義勇あがり、整備士などで良い人材が居れば推薦して欲しいと伝えてあるのだった。
「ほほう。機体持参とはなかなか幸先が良いな……機種は?」
〈それがどうも、耳慣れない名前でして。本人たちの話では『パルグル』とかいう軽歩甲だそうですが……」
「ほう?」
該当しそうな機体の知識はあった。設定資料では確かパーグルという表記だった気がするが、この世界、地方によって機体名などには若干のブレもある。
実地に暮らし、辺境まで分け入って冒険した身としては、その響きにはなにやら先住種族である「グル・ウル」の名に通じるものもあって納得する。
「ん、待て。本人たち、といったな?」
〈はい。三人組で一輌を持ちこんでます〉
ふむ。パーグルは確か、重装甲と戦闘室の居住性の高さが特徴的な、どちらかと言えば不人気、良く言えばレアな機体だったと記憶している。
「よろしい、会ってみよう。変わった機体に乗っているというのは、その分珍しい技能や玄人のこだわりを持っている、という可能性もある……ああ、だが少し待たせると伝えろ」
「了解であります」
俺は受話器をフックに戻した。最後に少々温度が下がったのは、もう一台の電話が鳴ったからだ。
〈ロランドか。わしだ。今時間はあるか?〉
「これは叔父う――ハモンド閣下。守衛詰所から連絡があってこれから向かうところですが……何ごとでしょう?」
〈ああ、ならその後でいい。そちらが済んだら直接わしのところまで来てくれ。内々に話がある……また長旅を頼むことになるやもしれん〉
「了解であります、しばらくお待ちを」
何ごとだろうか。ともあれ俺は電話を切ると、軍服のボタンを全部留め直し、宿舎前に置かれたダダッカにまたがって正門の方角へと向かった。
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